ぎんゆうしじん、ふたたび
「あー! アレフアレフ!」
シャリシャリ。
リンゴを齧りながら、オレの顔を見るなりシグが大声を上げる。
「アレフなー」
「どうしたんだよシグ。どうかしたのか?」
「アレフを探している人が来たのだ!」
「え?」
俺を探しているって? どういう事だよ?
「どらごんすれいやーがなんとか、と言っていたぞ!」
「ドラゴンスレイヤー?」
「なんでもな、吟遊詩人の歌を聞いて感動したとかでな? 何の話なんだろうなアレフ! わかるか!?」
「吟遊詩人? その詩人さんって、エリフキンさんのことじゃないのか?」
「えりふきん……エリフキン! おお、あの人間か!」
「忘れていたのかよシグ」
「何を言う! 覚えていたに決まっている!」
「忘れていたじゃないか。やっぱりシグ、竜人族の事も何もかも……もしかして、単にシグが忘れてるだけなんじゃないのか?」
「忘れてない! しっかり覚えている!」
──怪しい。実に怪しい。
だけど。ま、良いか。
「はいはい。リンゴやるから落ち着けよ」
「おお! さすがはアレフ! 気が利くな!」
◇
「ああ、アレフ君」
「何ですか? ファラエルさん」
「アレフ君を探している人が尋ねて来たわよ?」
「俺を探している?」
「そうそう。名高い竜殺しの冒険譚が直接本人の口から聞きたかったんですって」
はぁ、あのブルードラゴンとの一戦か。
エリフキンさん、頑張ってるなー。
「あ、大丈夫だから。あたしが面白おかしくアレフ君の活躍を説明しておいてあげたわ」
「え!? あの時ファラエルさん酔い潰れて寝てたよね!?」
「大丈夫大丈夫。素人にはわからないって」
「それはそうだろうけど……」
──ファラエルさんの目尻が下がる。
楽しんでる。面白がってる!
「ん? 大丈夫だって。アレフ君はもっこのファラエルお姉さんを信頼してくれてもいいのよ?」
──怪しい。実に怪しい。
◇
んー、そうなのか。
竜退治の話がそんなに広まっているとは……。
「おい、あいつじゃねぇか? 今度王都にやって来た凄腕冒険者ってのは」
「ああ、トリプルヘッドドラゴンを一撃で切り伏せたらしい」
「トリプルヘッドドラゴン!?」
「ああ、黄金に輝く金竜で、炎、雷、毒のブレスを吐く化け物中の化け物だったそうだ」
「本当かよ!? まだあいつ、あんなガキだろ!? それに何だよあの装備……あんな軽装でそんな伝説級のドラゴンとやれるってのか!?」
「いやいや、若いのも装備も見た目だけかもしれないだろ? 魔術で年齢を偽っている可能性もあるし、何よりいつもフル装備で街中歩いているわけでもないだろうし……」
「い、言われてみればそうだな」
「で、あいつ名前はなんと言うんだ?」
「確かアレフだ。無能のアレフ」
「無能?」
「神様からスキルを初め貰えなかった無能らしいんだが、ある日突然凄いスキルに目覚めたって聞くぜ?」
「そんな事ってあるのかよ!?」
「その『スキルを貰えなかった』と言うのがスキルそのものだったんじゃないのか!?」
「と、とにかく凄いな」
「ああ。実際ドラゴンを倒したらしいし……」
「凄いガキもいたもんだ」
「そうだな。あやかりてぇ」
え? トリプルヘッドドラゴン?
……なにそれ。
◇
「あ。アレフ!」
「何だよジュリア」
「アレフってあの時ね、神話にでてくるような神殺しのドラゴンを相手に戦っていたって本当!? ごめんなさい、あの時私、寝てちゃってたね……私、アレフの役に立てなかった。ごめん、本当にごめんね……足、引っ張っちゃってるね私……」
「え!? 神殺し!?」
目を伏せていたジュリアが俺を見上げる。
大声に目を丸くしていた。
「アレフ?」
「俺はあの時──」
「おお、帰ってきたぜ竜殺しの英雄が!」
「話聞いたぜ? 聞かせてくれよ、ドラゴンってどのくらい強いものなんだ?」
「お前みたいなガキでも倒せる……いや失礼、正体を探るような事を言ってすまなかったな。色々事情がありそうだ」
「まぁまぁ、そんな事はいいからドラゴンの話を聞かせてくれよ!」
「ドラゴンに飲み込まれて腹の中から食い破ったって本当なのか?」
「いや、俺は一刀の元にドラゴンの首を跳ね飛ばしたって聞いたぜ?」
「違うだろ、ドラゴンの翼をまず狙って相手が飛び上がれないように作戦を立てたんだよな?」
「ちょ、ちょちょちょ……ちょっと待ってよ!?」
俺はギルドにいた沢山の冒険者に囲まれながら、どう説明したものかと考える。
エリフキンさんやりすぎだよ。
宣伝効果あり過ぎだっての!




