おはかクエスト
「いやー。リンゴはいつ食べても美味いな!」
シャリシャリとシグがリンゴを食べている……こいつ、まだ食うのか……。
「アレフ。郊外のお墓の巡回の仕事があるわ。やってみない?」
「おいジュリア。前回の事忘れてないだろうな? 大丈夫かお前?」
「うん……きっと……たぶん……今度は……」
「怪しいなぁ」
「怪しくないし!? 私、頑張るもん! 宣教許可証のためだもん!!」
◇
ズォオオオオオオオオオオオオオオオオォオオオオオオオ……!
薄っすらと煙る霧の中、墓標が等間隔に幾つも並んでいる。
「ずいぶんと広い墓地ね」
「王都は大きいですからね……」
「これ、全部見回るのか?」
「何でも聞いた話によると、夜になるとアンデッドが自然発生してしまうんだって」
「ジュリアちゃん、そのアンデッドの名前は聞いた?」
「ええと、スケルトン、ゾンビ、食屍鬼、吸精鬼、悪霊、騒霊……」
「勝てそうね。広いのを除けば」
「だから冒険者のみなさんにお仕事が回って来るんだと思います」
「そうね、手頃なモンスターみたいだし。シグルデちゃん、今回のモンスターは食べる事が出来ないからね?」
「そうなのか……食えないのだ」
「そんな残念な顔しないの。今回のお仕事はシグルデちゃんの素早さとパワーが頼りなのよ?」
「そうなのか!?」
「頑張れる? シグルデちゃん?」
「吾は頑張るのだファラエル! アレフ! 吾は頑張るぞ!?」
「うん、期待しているシグ」
「うんうん!」
「ジュリア、震えてないか?」
「だ、大丈夫! このぐらい大丈夫だから!! あははは……」
◇
そして、夜。
「きゃーーーーーーー、骨、骨、骨ーーーーーーーーー!」
「こらジュリア!」
ぐわしゃ。
俺はスケルトンを剣の腹で叩き潰しながら声を出す。
「きゃーーーーーーー、い、生きてる、死体が生きてる!!」
「おいおいジュリア!」
ガシィ!
俺はゾンビを切り飛ばしながら声を出す。
「あの黄色の光……ワイトよ! ジュリアちゃん出番!!」
「え!? え!? きゃーーーーーー!! 人魂ーーーーーーーー!!」
「ジュリア! ターンアンデッドだターンアンデッド!!」
「え!? え!? え!?」
「『え!?』じゃない! 来るぞ! シグ、気をつけろ!」
「当然なのだ!」
シグの打撃。吹き飛ぶワイト。
だがワイトは何事も起きなかったかのようにムクリと上体を起こす。
「攻撃が効かないのだ!」
「ファラエルさん!!」
「アイスジャベリン!!」
人型をしたワイトの体に大穴が開き、凍りついたかと思うとそれが倒れ砕け去る。
「ジュ~リア~!」
「ご、ごごごごめんなさいアレフ、ごめんなさい! 私、私、やっぱり怖い!!」
「まぁ良いけど。少しは慣れような? 俺達もう立派な冒険者なんだし」
「そ、それはそうだけど!」
「だけど?」
「ううう……お化け怖いよぅ」
「おいおい」
「って、アレフ周り!!」
「え?」
◇
俺達の周囲を囲むモノ。
それは錆び食った鎧兜で武装した骨の騎士たち。
そして骨の馬に乗った骨の将軍。
「アンデッドジェネラル! アンデッドナイト!! 強敵よ、アレフ君!」
「はい! ファラエルさん! ジュリア! 今度こそ頼む!!」
「骨、骨、骨……!!」
「ジュリア!!」
「ひっ……」
「大丈夫、ジュリアならやれる。俺がいるから! 俺が守るから!」
俺はアンデッドナイトと切り結ぶ。
一体、二体……ええい、キリが無い!
シグが骨の体に拳を叩き込む。
胸当てを破り骨が砕ける。
だが、倒れたスケルトンの隙間をまた別のスケルトンが埋める。キリが無い!
「ジュリア、抑えている今のうちに! ターンアンデッドを!! 頼む!!」
「ジュリアちゃん、頑張って!」
あっ……。
手が滑った。
敵の剣が俺の頬を薙ぐ。
鮮血が迸る。
それは辺りに飛び散って、赤い染みを作った。
「アレフ!」
ジュリアの叫び。
「ターンアンデッド! ターンアンデッド! ターンアンデッド!!」
白い聖なる光が、墓地を覆いつくす。
「骨が、スケルトンが融けてゆく……良くやったジュリア!」
「アレフ! 大丈夫!?」
「後は任せろ!」
「アレフ! でも怪我してる!」
俺は地を蹴る。剣を骨将軍、アンデッドジェネラルに向けた。
「大丈夫!!」
そしてそのまま懐に飛び込んで切り裂く。
変えす刀で肩口から切り込む!
割れる鎧、砕ける骨。飛び散る骨屑。
「アレフ!」
「うおぉおおおおおおおおおおおおおお! これで、終わりだぁあああああ!!」
俺は雄たけびと共に、アンデッドジェネラルの頭を兜ごと叩き割っていた。




