だいよくじょう
「ウマウマだったなアレフ! また来ような下水道!」
どこからか取り出したリンゴを齧りながらシグ。
まだ食うのかよ、と思わなくもない。
今までこいつが何を食っていたのかと言うと……うぇぇ、思い出したじゃないか!
ゲロゲロゲロ……。
「アレフ君、大浴場に行きましょう」
「すみません、本当にすみません」
「わ、私もそれに賛成……凄い臭いが染み付いちゃってる」
「私たち……浴場に入れてくれますかね? 大丈夫でしょうか……?」
「もし追い返されたのならレフ君を一生恨む事にするわ。そしてあたし、アレフ君に一生粘着してあげるの。って、それも何だか良いわね。そうね、それも良いかもね!」
「なっ、急に何を言い出してるんですかファラエルさん!?」
「ジュリアちゃん、落ち着いていいわ。そうね、あたしは二号さんでいいから」
「にごうさん……?」
◇
「えぇぇ、この貧民共近づくんじゃねぇ! 今直ぐ水をぶっ掛けてやる! 話しはそれからだ。お前らにそのまま風呂に入られたんじゃ他のお客さんの迷惑なんだよ!!」
頭の禿げ上がった親父が怒鳴る。
出っ歯で口の悪い親父だ。だが、今は何も言い返せない。
悔しいけれど我慢我慢!
「クリエイトウォーター!」
そして振ってくる大量の水。ザパーン! 意外すぎることに、この親父……水の魔術師だ!
だが、それがどうした?
ああ、冷たい。ただただ冷たい。
冷えて行く俺の体も、俺の心も。
「うぇぇ、まだ臭うじゃねぇか! ドンだけ洗ってねぇんだ汚ねぇなぁ! クリエイトウォーター!」
ザパーン!
「クリエイトウォーター!」
ザパーン!
「追いお前ら、別料金頂くぜ? 入っていいから体の隅々までしっかり洗って帰るんだぞ!!」
しかし、目のやり場に困る……。
「アレフ君、どこを見ているの? ああ、透けた服の上からあたしの体の線を見ているのね。どう? 綺麗で魅力的でしょう。アレフ君、どう?」
「ど、『どう?』って……」
「ふふふ。アレフ君ったら赤くなっちゃって。本当に可愛いんだから。まぁ、そんなお年頃だから仕方ないわよね」
と、立派な姿態を誇らしげに逸らすファラエルさん。
「え!? アレフこっち見てるの!? 見ないでよ! 何その目! アレフちょっとなに見てるのよ! こっち見ないでよ!」
と、かなり凹凸のある体を持つジュリア。
「どうしたのだファラエル? ジュリア?」
と、何もわかっていなさそうなお子ちゃまが一人。シグ……素か? 素なのか!?
◇
ザパーン。カコーン。ザパーン。ゴシゴシゴシゴシ……。
ザパーン。カコーン。ザパーン……。
トプッ……。
「ふぅ~」
俺は湯船につかりながら息を吐く。
なかなか汚れが、そして臭いも落ちずに困ったけれど、何とか洗い流した。
ずいぶんと綺麗になったな!
臭いも落ちたし!
よし、これであの親父に叱られずに済むだろう。
カコーン……。
遠くで音がした。
『ちょっと待ちなさいシグルデちゃん!』
『なんなのだ! 水が熱いのだ! それにそれくすぐったい! ジュリア! ファラエル! 二人とも待て! わわわ、吾に、一体吾に何をする~!』
『シグちゃん、走り回らないの! 危ないよ!? それにきちんと体洗わなきゃダメじゃない!』
『二人ともボンキュッボンなのに、どうして吾はボンキュッボンでは無いのだ! これではツルッ、ストン! ではないか! おかしい、おかしいではないか!』
『あと十年も待てばシグルデちゃんもこうなるから』
『どういうことだファラエル! ファラエルもアレフと同じように吾を子ども扱いするのか!』
『え? いや、その……あはは、そんな事は無いわ。シグルデちゃんは今でも立派な大人。レディよ? ねぇジュリアちゃん?』
『え! いや、その……あはは』
『ジュリア~! ファラエルが吾の事を苛めるのだ!』
『よしよし、シグちゃん。ファラエルさんには私からきちんと言っておくからね! もう大丈夫だよ?』
『ジュリア~ジュリア~! やっぱりジュリアは優しいのだ! 邪教ライアの使徒とは思えないくらい優しいのだ!』
『邪、邪教……あはは……はは……女神ライアさまは優しい女神様なんだからね? いい、シグちゃん。……はぁ』
なんだか隣が騒がしい。
聞いた事があるような声だったような気もするが。
でも、きっと気のせいだ。
あ~お風呂気持ち良い~……。




