おうとのやみ
「王都のリンゴは美味いな! さすが王都! はっはっは!!」
ギルド内の酒場。リンゴを齧りながらシグが笑う。
周囲の視線……どうしてこんな所に子どもがいるんだ? は気にならないらしい。
もっとも? 本人が疑問にも思っていないだけなのだろうが。
「シグ、みんなは?」
「ジュリアは邪教ライアの教会だ! ファラエルは大浴場とやらに出かけた!」
風呂……か。
一度みんなで行ってみるのも良いかもしれない。
ファラエルさん、一人ずるいぞ!?
「二人はいつ戻ってくるの?」
「知らん!」
「そんな事だろうと思ったよ」
「シグ、図書館ってどこにあるんだろうな?」
「おお、図書館! 竜人族の事を調べるのか!?」
「そうそう。一応、気になっていたんだ」
「ファラエルが知っているのではないか? ギルドの人間も知っていると思うぞ?」
「シグは落ち着いてるね」
「なにがだ?」
「いや、いつもどおりリンゴ食べてるし」
「当然だ! 何を慌てる! 慌てる事など何も無い!! ……ああ、そうだアレフ!」
「ん?」
「そうなのだ。ファラエルが言っていたのだ!」
「何を?」
「『手ごろな依頼を探しておいてね!』だそうだ!」
あー、はいはい。手頃な仕事ね……。
◇
「で、下水道の見回り、と……。うわ、もう既に凄い匂い。ああヤダヤダ、匂いが染み付いちゃうじゃない」
「でも、やりがいのあるお仕事ですよ!?」
「ネズミ退治なのよ? クリーチャー退治なのよ!? 汚いのよ!? 体が、髪が、服が汚れるのよ!? 今朝お風呂に行って来たばかりなのに……」
「ごめんなさいファラエルさん。勝手にクエスト請けてしまって」
「良いのよアレフ君。アレフ君は泥水や蜘蛛の巣で汚れ穢れるあたしの姿を見て喜んでいるのでしょう?」
「違いますよ!」
「わかってるわよアレフ君。アレフ君は何も考えずに仕事を請けちゃっただけなのよね?」
「いや、その……ごめんなさいファラエルさん」
「良いのよ? あたしの事を認めてくれたのはアレフ君だけなのだから。初めに声を掛けてくれたのはアレフ君。あたしはアレフ君についていくと決めてるの。どんなに酷い目に合わされてもね」
「いや、あの、そんな……」
「おーい、先に行くぞアレフ、ファラエル。入り口でなにをしているのだ? 早く済ませてしまうぞ!」
◇
「何あれ! 凄い臭いがする!」
「確かに気色悪いわね……」
「あれは食えるのか!?」
「食べられないと思うよ? シグ」
ぷにぷにぷるるん……と鼻の曲がるような悪臭を放ちながら震えるゼリー状の塊。
「ブロブね。……最悪」
「嫌ー! プルプル動いてる!? こっちに来ないで、やだやだライア様! アレフ助けて!!」
「落ち着けジュリア、下がってろ!」
ピュピュッ、ピュピュッと飛ぶブロブの体液。
それが落ちた通路の床から白い煙が上がる。
「酸ね。火傷するわよ? ああ、服に付くと服がボロボロになるわね。そうなるとお肌が見えちゃう……って!? まさかアレフ君、それが目的であたしをこんな所に連れ出したのね!? そんなにあたしのあんな姿やこんな姿が見たいの!?」
「違います! 違いますから!!」
「まぁ、冗談はともかく……フリーズ!」
カキン、と一気に霜に覆われたブロブが固まった。
そして次々に放たれるファラエルさんの魔術。次々とブロブが凍りついてゆく。
「アレフ君、ジュリアちゃん、シグルデちゃん? さぁ、凍ったブロブから順番に砕いていって頂戴。あたしは氷の魔術を頑張るから」
「おう!」
「は、はい!」
「わかったぞファラエル!!」
◇
チュウチュウ、チュウチュウ……!
暗がりに赤く光る目。
そして姿を現したのは──。
「ちょっとあれ、もしかしてネズミーーーーー!? 気持ち悪! ちょっとアレフ何あれ、めちゃくちゃ大きいんだけど!?」
「みんな気をつけて。噛まれると変な病気に罹るわよ?」
「ええーーーーーー!? やだやだ、ライア様ーーーーー!」
「なぁなぁアレフ、あれは食えるのか!?」
「食うな!」
◇
カサカサ……カサカサ……。
そう、それは光が照り返して巨大な全身が黒くテラテラと輝き、長い触角が上下に動いて──。
「嫌ーーーーーーーーーーー! ゴ、ゴゴゴゴゴゴ●ブリ!」
「そうね、ゴキ●リね。はぁ、だからあたしはこの場所に来たくなかったのよ。でもね、あたしのアレフ君がどうしてもあたしの引きつった顔が見たいって……恐怖に震える顔が見たいって言うから……仕方ないわね、仕方が無いのよ」
「なぁなぁアレフ! あれは食えるのか?!」
「食ってみろよ……シグ」
ブーーーーン
「飛んだーーーーー!? こっちに来るーーーーーー!?」




