われをたすけるのだ!
「何のマネだ! アレフ、アレフ! 吾を助けるのだ!」
──え?
「おっと、アレフさん。動かないで下さい?」
「シグちゃん!」
「何の真似!? シグルデちゃんを放して!」
短剣をシグの喉元に突きつけながら商人エレクは続ける。
「ぐへへ、上手くやったようだなエレクさんよ。そのガキども……抑えておいてくれよ!?」
「山賊!?」
「そうだとも。脱獄して来たんだよ! お前らこの前は随分と舐めたマネしてくれたじゃねぇか。豚箱の臭い飯は不味かったぜ……おいお前ら! こいつら一人残らず捕まえろ! 無事で返すなよ!?」
「「「おーーーー!!!」」」
まずい、囲まれている! 脱獄って……本当の事だったんだ!
(ぼそっ)
「アイスアロー」
「ぎゃぁあああああああああ!?」
「て、テメェお頭に何を! 俺たちには人質がいるんだぞ!」
ファラエルさんは気にしないのか、むしろ涼しい顔。
「アイスアローシャワー!」
「ぎゃぁ!?」「痛ぇ!?」「うおっ!?」「ぐあぁ!?」「ぎゃーっ!?」
氷の矢が雨あられと降り注ぐ。
「人質がどうなっても良いのか! 刺すぞ、本当に刺すぞ!! このガキ死ぬぞ!!!」
「ぎゃーーーーーー! アレフ助けろ、ファラエル何をする、ジュリアも吾を助けろーーーーーーー!」
「ファラエルさん、落ち着いて! シグちゃんが、このままだとシグちゃんが!!」
「刺せば? シグちゃんはドラゴンなんでしょ? 鋼の刃がドラゴンの肌を貫通するとでも?」
「え!? なんですかそれファラエルさん!」
「ジュリアちゃんは気づいてなかったの? シグルデちゃんは剣や棍棒で叩かれても殴られても傷一つ負わないわよ?」
言われてみれば……思い当たる節はある。
シグは真っ先に乱戦に突っ込んでいく。
そしていつも無傷。
それはシグがドラゴンだから?
俺はシグがいつも凄い力で素早く敵の攻撃をかわしているだけの事とばかり思ってた。
「ど、ドラゴンだと!?」
「アレフ、アレフーーーー! ファラエルが酷い事を言うのだ! アレフ、アレフ~吾を助けるのだ! 姫を助けるのは騎士の務めなのだ!!」
……。
涙まじりに俺の名前を呼び続けるシグ。
だけど、その仕草は確かに芝居がかっていて。
「アレフー! 助けろー! 吾を助けろーーー!」
俺は何だか急に全てがばかばかしくなった。
「おい山賊ども。それに商人のおっさん。このシグはドラゴンの化身だ。いつドラゴンに変身されて食い殺されるかわからないぞ? いや、俺一回食われたことがあるけどな? ドラゴンの腹の中は光なんて無いからな、暗いぞー? しかもヌルヌルするんだぞー? 胃液が溜まってくるだろ? まず足の先からヒリヒリして来るだろ? するとな、ジワジワ、ジワジワと体の表面が融け始めるんだ。そしてな、だんだん息苦しくなってくるんだけれども気を失うことは無い。まぁこの点は安心だな! だけどな、よく聞けよ? ここからが重要だぞ? 試験に出るからな、試験に。ええとな、そしてそのまま奇跡でも起こらない限り、自分の体が骨になっていく痛みをじわりじわりと味わい続けることになる。ジワジワと来るんだぞ!? いやー、今思えばあれは良い経験だったなー。もう二度と味わいたくない経験だわ。痛いなんてもんじゃない。気が狂いそうだったからな……って、どうした山賊ども? 揃って顔が青いぞ?」
血の気も引いた山賊の一人が口走る。
「と、言う事は……お前はアンデッド……?」
「え? アンデッド? 俺が?」
俺って実はアンデッド?
「に、逃げろ……こいつら人間じゃねぇ! 化け、化け物だー! 人でなしの化け物だったんだ!! 逃げ、逃げろーーーー!」
「ちょ、旦那方! 人質はこっちの手にあるんだ、何を怯んでらっしゃるんです!?」
「こんな美人を捕まえておいて化け物呼ばわりだなんて……第一、あなたたちのような美味しい獲物を逃がすわけ無いでしょ。アイスフリーズ!!」
……そして、山賊たちは再びファラエルさんに捕まった。
◇
「さて。エレク……だっけ? 自称商人、ラルフさんの知り合いさん? あなた……どういった未来がお望みかしら?」
山賊たちと同じく、縄でぐるぐる巻きに縛られたエレク(自称)。
どうしてだか良くわからないが、彼はニコニコと笑顔を見せるファラエルさんを前にしてガタガタと震えている。
「お、俺をどうする気だ! 俺は……そうだ、こいつらに、こいつらに脅されてお前達を罠に嵌めたんだ! それは悪かったと思ってる。だからどうか許して欲しい……! つい出来心だったんだ。俺はこいつらの仲間じゃない。山賊じゃないんだ!」
「シグルデちゃん、こんな事言ってるけど、今晩のおかずにしちゃう?」
「「「「「「ひぃいいいいいいいいい!?」」」」」」
「嫌なのだ。人間は美味しくないのだ」
「美味しくないのはアレフ君でしょ? こいつらは美味しいかもよ?」
「そうなのか? ファラエル、こいつらは美味しいのか!?」
「「「「「「ひぃいいいいいいいいい!?」」」」」」
「ちょ、ちょっと待て! コイツは本当に人食いの化け物なのか!? そうなのか!?」
「だから言ったろ? 俺はこいつに食われたことがあるんだって」
「「「「「「ひぃいいいいいいいいい!?」」」」」」
「ファラエルさん、あんまり脅すのはかわいそうです……」
山賊たちの間に流れる希望の空気と暖かな光。
「え? ジュリアちゃん。ジュリアちゃんはまさかコイツらをひと思いにサクッと殺せと言うの? あらやだ。それはエレガントじゃないわね」
「「「「「「ひぃいいいいいいいいい!?」」」」」」
だが、その希望はファラエルさんの一言により一撃で打ち砕かれるのだった。




