しってること、しらないこと
「うわ、何だアレフ! この揺れは!? わ、吾を守るのだ騎士アレフ!」
「シグそれお前、何かの仕掛け!?」
「あ、アレフさん!」
「仕方ない、下がっていてくださいミケレさん!」
「は、はい……!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「緑色の……ドラゴン!?」
壁を突き破って出てきたのは緑色のドラゴンだった。
どこか俺を丸呑みしてくれたシグに似ている。
「うわ、何ですか! アレフ! どうなってるの!?」
「ゴーレムよ! ドラゴンじゃないわ!!」
ドラゴンゴーレムは緑の尻尾で俺達を薙ぎ払いにかかる。
「おいシグ! お前本当に何もかも忘れてるだろ!?」
「そ、そそそそそそそそそそそそんな事は無い! 吾は偉大なる竜人族の皇女シグルデ! とっても偉いのだ!!」
「それならどうしてこのゴーレムはお前を攻撃してくるんだよ!?」
「知らん!」
「やっぱり知らないんじゃないかぁ!?」
「知っている! アレフが苛める、アレフが苛めるぞジュリアぁ!」
「よしよしシグちゃん。アレフが酷い事を言ってごめんね? ちょっとアレフ! シグちゃんを責める前にあのゴーレムを何とかして! それにミケレさんを守らなきゃ!」
「そうよアレフ君。クライアントの安全を守るのが護衛の仕事。報酬分は働かないとね! アイスジャベリン!!」
氷の槍が輝き走る。
それはゴーレムの胸に突き立った。
響き渡るドラゴンゴーレムの咆哮。
それは俺たち人間の魂に刻まれた原初の恐怖を呼び起こして……!
「ちょ!? 何だよこの声! 頭が痛いんだけど!?」
「きゃぁああ、アレフアレフ! 何とかして!」
「アレフ君、あたしが傷つけた胸の傷を大きく広げて見せて!」
言われるまでもない。
俺は床を蹴っていた。
鱗に当たり、飛び散る火花。
俺の打ち下ろす鋼の塊がファラエルさんの魔術により抉られたドラゴンゴーレムの胸へ突き立つ。
刺す。そして抉る!
火花の色が変わる。弾ける金属音!
「シグ! 何やってんだ手伝え!!」
「アレフの分際で吾に命令するとは!」
「だぁああ、いいから手伝えよ!」
シグの細い足から繰り出される蹴りがドラゴンゴーレムの脚を砕く。
いつもながらに凄い力だ。
ゴーレムがよろめく。
「よくやったシグ! でい、食らえ化け物!!」
俺は一度剣を抜き、再度傷口に剣を突き立てる。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオ!」
「痛い痛い痛い! あ、頭がアレフ!!」
「あ、頭が!?」
「俺も痛いって! でも、そんな事言ってられないだろ!? ファラエルさん!」
「わかってるわ! もう一回アイスジャベリン!!」
ゴーレムを形作っていたクリスタルが飛び散る。
俺はファラエルさんが新たに開けてくれたゴーレムに抉られた傷口めがけて剣を振りかぶり、そして──!
◇
「シグルデさん、あなたが竜人族の皇女だというのは本当のことなのですか?」
「そうともミケレ! 吾は偉大なる竜人族の皇女シグルデ! はっはっは! どうだ! 威厳があろう。立派であろう。何より麗しいであろう!?」
お子ちゃまがなにか言っている。
「お教えいただきたい! このミケレに竜人族の秘密を! 竜人族の国がこの世界のどこかにまだ残っていると聞きました。それは本当なのですか!? 人の姿からドラゴンの姿へと変身する竜人族。変身すれば空を飛び、炎や光のブレスで全てを焼き尽くす。そしてその力と知恵は強大無比! ドラゴンに変身せずとも蹴りの一撃で堅いゴーレムの脚を砕いて見せられたあの強大な力! 我ら人間に炎と知恵を授けたとされる竜人族、この世界にはまだあなた以外に生き残りがいるのですか!?」
生き残り? 生き残りって……。
もしかして、シグ以外の竜人族って既に滅びてる?
「はっはっは! 悪いなミケレ! 一族の掟を皇女たる吾が破るわけにはいかん! すまないが吾がお前に教えられる事など何も無い! そうとも、なにも教える事など出来ないな! 悪い、諦めろ!! はっはっは!!」
◇
「なぁシグ。リンゴ今度リンゴを沢山買ってやるからな? 元気出せ?」
「な、なんだアレフ! どうした急に優しくなって!」
「シグ。シグには俺達が仲間としていつも一緒にいるからな? 寂しくなんてさせないぞ?」
「そうだよシグちゃん。私もいるからね?」
「ジュリアまで……」
「シグルデちゃん、お姉さんはいつまでもシグルデちゃんの味方よ!」
「ファラエル! いい加減お前達気持ち悪いぞ!? なんだなんだ!? 吾が寂しがっているとでも!? かつてこの大陸で繁栄を極めていた竜人族……その最後の竜人族がそんなに珍しいとでも!?」
気のせいか、シグの目尻に光るものが見えた気がした。
「シグ……」
「シグちゃん……」
「シグルデちゃん……」
「ええい、寄るな、触るな! 引っ付くなぁ!? 吾はお前達のおもちゃでは無い、子ども扱いするなぁ!?」




