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よいこのおやくそく

「ジュリア! 今に追い越してやるからな!」


 立ち直ったシグがリンゴを齧りながらジュリアに絡む。


「シグちゃんごめんね、私、気づかないうちにシグちゃんを傷つけてた」

「そうだぞ! 特にその突き出た胸! 反則では無いか!」

「ごめんねシグちゃん。シグちゃんもそのうち育つよ」

「あーーーーー! ジュリアまでが(われ)を子ども扱いする!」

「ごめんねシグちゃん。本当にごめんね?」

「どう? ジュリアちゃん。気が沈んだときにはお酒でも飲んで、気晴らしすると良いわ」

「そうですか? 私、お酒初めてなんですけど……そうですね、一口ぐらいなら試してみるのも良いかもしれませんね」

「うんうん。人生息抜きも必要よ? ジュリアちゃん?」

「はい、励ましてもらってありがとうございますファラエルさん」


 と、ジュリアはファラエルから渡されたジョッキを手に取る。

 ジョッキには泡立つビールが並々と注がれていて……。


 ◇


 ぷはーっ!


「それでですね、聞いてますファラエルさん! アレフったら酷いんです! いつもアレフはですね……」


 今度はジュリアが絡んでた。


「そうねジュリアちゃん。辛いわね、気になる男の子が自分の方を振り向いてくれないのは」

「そうなんです! アレフったら本当に鈍感で、鈍くて、ちっとも気づいてくれないし……」

「ジュリアちゃんって、アレフ君一筋なのね?」

「だってアレフ、私がいないと……みんなから苛められて、みんなからのけ者にされて、私くらいアレフの味方に、アレフの傍に居てあげなきゃって!」

「ジュリアちゃんは優しいのね」

「私、アレフのためなら何でも……この前もアレフの行く先が気になって、ついつい後ろをつけてたら知らない女の子と二人森に入って行って、それで私、気になって気になって……」

「それがシグルデちゃん?」

「はい。シグちゃん、本当に良い子なんです。アレフのわがままにも付き合うし、アレフが間違った事をしようとすると必ず止めに入るし……」

「そうね、そうね、シグルデちゃんは本当にアレフ君の事を考えていてくれる良いお友達でよね?」

「そうなんです。アレフにもやっとまともなお友達が出来たのかと思うと、私嬉しくって嬉しくって、ついつい涙が零れちゃうんです」

「本当に優しい子ね、ジュリアちゃんは。それに一生懸命。お姉さん、応援しちゃうわ」

「本当ですか!? ファラエルさん、私とアレフのこと、本当に応援してくれますか!?」


 グイッグイッ……。

 ぷはーっ!


「私、私……本当に嬉しいですファラエルさん! いつまでも、いついつまでも私とアレフのこと、応援しておいてくださいね!」

「え、ええジュリアちゃん。お姉さんに任せておいて」


 ◇


「あの子、ジュリアちゃんの絡み酒……今度から気をつけないといけないわね……」

「何を言っている、ファラエル?」

「独り言よ? 何を言ってるのシグルデちゃん。今聞いたことは忘れるのよ? 良いわね?」


 ◇


 そして他の冒険者パーティまで巻き込んで。


「おいプリーストのねーちゃん、ライア様がどうしたって?」

「ライア様は私に試練をお与えになっているのよ。私がどう動くか、どう正義を実現するのかいつも見てあるの! だから私にお声をおかけにならないのよ! 私にはライア様の声は聞こえない。でもライア様の力を使った奇跡、神聖魔術は使えるの! わかるこの意味!? わかる!? ライア様は私をお試しになっているの!!」

「神の声が聞こえない? やっぱりあの無能アレフの仲間だけの事はある。とんだポンコツプリーストだぜ!」

「外野そこうるさい! ライア神は偉大なの! ライア神は私を試されているの!」

「どーだか。見放されてる、の間違いなんじゃないか?」

「そんな訳が無いでしょう! 実際に神聖魔術が使える! これが私がライアさまの加護(かご)(もと)にある何よりの証拠じゃないですか!」

「ホントに使えるのかぁ!?」

「やって見せましょうか?」

「は? 何メイス構えてるんだ、ねーちゃん。店の中で武器なんか抜くな」

「とりあえず怪我してください。そこをライア様の奇跡で治療しますので」

「ちょ、ちょっと待て! 待て待て待て!!」

「あなたこそ待ちなさい! ちょっと動かないで下さいよ! 上手くメイスが当たらないじゃないですか!」

「冗談じゃないんだよ!? おい無能剣士! それに役立たず魔術師! このプリーストのねーちゃんお前らの仲間だろ、何とかしろよこの酔っ払い!?」


 ◇


 そしてテーブルに(ふさ)ぎこむ。


「ひぐっ、ひぐっ、胸なんて、大きなおっぱいがあったって、どうせ私にはライア様の声なんて聞こえないし……胸なんて、立派なおっぱいなんてそんなの良いから、立派なプリーストって呼ばれたい……ひっぐっ、ひぐっ……」

「大丈夫よジュリアちゃん。あなたは私たちのパーティに欠かせない人材よ? 立派に役に立っているわ? 盗賊なのに無謀にも真っ先に戦闘に飛び込んで行くお子ちゃまとも違うし、剣の腕だけしか能がない剣士君とも違うし、何よりこの世界で生き抜くには必須といわれる炎の魔術に一ポイントの成長点も割り振っていない氷バカの魔術師とも違うの。良い? でもね、みんな自分の好きなように、自分の理想に向かって、それぞれの個性を伸ばしてるの。それが良い事と信じてね?」

「ファラエルさん……」

「ジュリアちゃんは幸いにもライア様が常にジュリアちゃんの行いを見守ってらっしゃるのでしょう? 一人じゃないの。それに今は、私たち冒険の仲間もいるわ。ジュリアちゃんは孤独じゃない。みんなと共に頑張れる。これはとても幸せな事なのよ? それに神様もきっといつか、ジュリアちゃんに振り向いてくれるわ?」

「う、ううう、うわーん! ファラエルさんファラエルさんごめんなさい! 私、私が間違っていまし……っ、う!?」

「ジュリアちゃん!? どうしたの!?」


 その瞬間。

 ジュリアが青い顔をして固まる。


「うげーーーーーーーエロエロエロエロエロ……」


「うわ、この子吐いたわよ!?」

「ファラエル! 最後まで面倒をみろ! 元はといえばお前が飲ませた酒だろう!?」

「そんなシグルデちゃん酷いわ!?」

「手ぬぐいなら取ってきてやる! だから介抱してやるのだ!」


 ………………。

 …………。

 ……。


 俺? 俺は早々に(つぶ)れてテーブルで寝ていたよ。

 だからジュリアの身に何が起こったかなんて……何も知らないんだ。ホントだよ?

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