解呪行います
保護施設というから、郊外の人里離れた建物だと思われたけど、魔法街にある大きな建物だった。
昔に魔道具を作成するために建造された工場を改造して建てられたらしい。
見張りがいたけれど、鈴木が男爵のブローチを見せ、身分照会を行い、俺についても質問された後、建物に入る許可書が出された。
飛空艇のドックよりも審査が厳しいのは、それだけ狂乱化の呪いが恐ろしいものだからだろう。
「何の魔道具を作っていたんだ?」
「魔法の剣を作っていたみたい」
「魔工鍛冶師の工房ってことか?」
「ははは、まさか。魔工鍛冶師なんて、そんなの世界に何人もいないよ。鍛冶師、錬金術師、魔術師――それぞれ分野の異なる職業を全て極めた人だけがなれる職業だしね」
「確かにハードルは高いよな」
成長チートがなかったら難しそうだ。
……そう思うと、魔工鍛冶師を極めたカノンって、実はかなりの努力家だったりするのだろうか? 全然そうは見えないけれど。
「ここでは、魔記者が書く魔法の札を剣の柄に埋め込むことで独自の能力の剣ができないか実験していたんだ」
「札を剣にか。面白そうだな」
「うん。でも、性能的には微妙だったみたい。効果の持続時間は延びたけれど、札は使い捨てだし、好事家が購入してもなかなか売れなかったみたい」
そうか、まぁ微妙だよな。札は高いみたいだし。
どんな効果があるのかと思って尋ねてみたけれど、本当に微妙だった。
転移札を使ったら、迷宮で剣が折れた時に自動的に脱出できる剣ができるらしい。ピンチになると同時に脱出できるんだから便利だろうと思ったけれど、転移札を嵌めている間は他の札を使うことができないし、剣を弾き飛ばされたときには転移札が発動されないのだから効果としては薄い。
しかし、それはまだマシだった。
回復札を使えば、斬った相手にダメージを与えて回復をさせるという剣になる。拷問には便利かもしれないが、戦闘には意味がない。
一番しょうもない使用方法は拡声札を付けることだった。
拡声札を付けた剣で打ち合いすると、剣と剣がぶつかり合う音がとても大きくなって、試合に迫力が出るそうだ。
俺は狂乱化の呪いがかかっている人のいる場所にいった。
そこに入っていたのは、どこにでもいるおじさんだった。
職業は大工らしく、入口に見張りがひとり、中にも見張りがひとりいた。
ここまで厳重だと保護というより収監されているみたいだな。
「あなたたちは? また取り調べでしょうか?」
「いえ、僕たちはあなたを助けに来ました。こちらの方は解呪魔法を使える法術師です。あなたにかかっている狂乱化の呪いを解呪します」
「本当ですかっ!? ありがとうございます」
「待ってください、まだ解呪できるかわかりませんから」
縋りついてくるおっさんに、俺はそう言った。
ディスペルは覚えたけれど、本当に効果があるのか試していない。
「お願いします。こんな場所に閉じ込められて、ずっと『最近怪しい人と会わなかったか?』『知り合いの名前を全部言え』と言われて、挙句の果てに、『お前の妻は反女神主義者じゃないか?』ですよ」
そんなこと言われていたのか。
拷問はされていないみたいだけど、犯罪者扱いだな。
家族が疑われたらそりゃ怒る。
俺は同情した。
「信じられません。私が『年齢=彼女いない歴』だって調べたらわかるはずなのに、妻なんているわけないじゃないですか」
本当に同情した。
俺は男を見て、魔法を唱える。
「ディスペル」
淡い光が男を包む。
しかし、それだけで変化は見られない。
「これでいい(はず)です」
俺がそう言うと、見張りをしていた男は、青い液体を持ってきて、一滴男の手の甲に垂らした。
「あの薬は呪われている人にかければ、赤く変化するんだ」
「ヨウ素液ででんぷんを調べるみたいなものか?」
「わかりやすく言えばそうだね」
呪いの有無を調べるために、この薬が使われたんだそうだ。
なるほど、どうやって三人も見つけたのかと思ったけれど、この方法なら簡単に調べることができるな。
呪いの有無が確認できてから、魔学捜査研究員が血液鑑定を行ったらしい。血液鑑定は、毛髪鑑定以上に多くの情報が一度に手に入るのだそうだ。
鈴木が説明している間も、男の手の甲の液体は変化しなかった。
「呪いの解呪が確認されました。どうぞお帰り下さい」
「お……おぉぉぉぉ」
男は感激し、自分の手を触る。
「ありがとうございます。あなたは命の恩人です。本当に、本当にありがとうございます」
「いえ、お気になさらずに」
泣いてこうべを垂れる男の礼を受けつつ俺は男が部屋を出て行くのを見送った。
別の部屋でも同じように解呪を行い、感謝される。
そして、部屋を出たところで、派手な服を着た小太りの男が声をかけてきた。
「ご苦労であった、スズキ卿、イチノジョウ殿。これで無実の者を無事に家に帰すことができますよ。ぐひひひ」
無事にねぇ……解放されたふたりは散々犯罪者扱いされていて、心労が溜まっているように見えた。
豪快に笑う男に不快な顔を浮かべる。
まるでガマガエルみたいな笑い方だ。
「お褒めにあずかりありがとうございます(この人は国王直属の査察官だから逆らわないようにね)」
鈴木に言われて、俺も頭を下げた。
こっそり職業を調べたら、平民だった。
ただし、レベルが普通と違う。
レベル99だった。
この世界に来てから、職業が平民の人はいっぱい見たけれど、その人たちは最高でもレベル10台くらい。レベル99まで上げた人を見たことがない。
いったい、何故?
「もう帰っていただいて結構ですよ」
査察官が言った。
「私たちは二名の治療しか終わっていませんが」
俺が尋ねた。
「もうひとりは治療する必要はない」
「何故でしょう?」
「そうだな、その部屋に入るとわかるだろう。見ていて面白いものじゃないからね」
査察官はそう言って、俺を部屋に案内され、俺たちふたりだけで中に入る。
小さな部屋だった。
どうやら倉庫として使われていたらしく、この工房で作られていたらしい、札を入れるタイプの剣が置かれている。
その部屋には小窓があり、そこから隣の部屋が見える。
普通の部屋と違い、室内の壁に鉄板が貼り付けられている。
中には取り調べと見張りをしている男がいた。
【騎士:LV35】
かなり強い。そして、準貴族か。
そして、呪いを受けているであろう相手を見て、俺は絶句した。
「な……っ!」
二十歳くらいの女性がいた。
頭に黒い角があり、背中に蝙蝠のような黒い翼がある。
椅子に座っているが、俺は思わず目を背けた。
おそらく、鞭によるものだろう。
そして、足の部分、腱が斬られていた。
服は血で赤黒く滲み、肌が露出している場所は傷だらけだ。もともとは綺麗だったであろう髪もボロボロになり、血糊がついている。
「ひどい……いったいなんで」
「楠君……彼女は悪魔族だ」
鈴木はそう告げた。




