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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
傭兵王国編

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生姜とネギ

 マイワールドから出て、ゴーツロッキーに歩いて戻った。

 キッコリたちはもう町の中に入ったのだろう、門の前には誰もいなかった。

 入町税――いや、入国税に関しては、今回は国からの依頼で荷物を運んできた一団ということで免除。平民の経験値稼ぎのために払ってもよかったんだけど、魔物退治でそこそこ経験値も稼げたし、平民のレベルも百近くなると僅かな税金で上がることはない。

 ここはお言葉に甘えて無料で入らせてもらおう。

 町の入り口には、NPCキャラクターの代わりに「傭兵の国ゴーツロッキーへようこそ」と書かれたアーチ看板が掲げられていた。

「ここはゴーツロッキーの町だよ」

 と教えてくれる町民もお役御免だな。いや、もともとそんな町民いないだろうけれど。

 本当にいるのかな?

 自分がなんという名前の町にいるかわからない旅人って。

 普通、町の名前くらい調べてから移動するもんな。

 町の名前を知らずに移動する奴なんて、よっぽどのバカしかいないか。

「ここはゴーツロッキーの国だぞ」

 そうそう、だからこんなセリフ、きっと一生聞く機会はないんだろう。

 ……ってあれ?

「おぉっ!? ゴーツロッキーっていう名前なのかっ!」

「ゴーツロッキーって名前なんだね! 物知りだね! じゃあ、ケンタウロスは知らない?」

「ケンタウロス? ケンタウロスってなんだ?」

「なんでだ、なんで町の名前を知っているような物知りなのにケンタウロスを知らないんだよ」

「うわぁ、なんか変な奴らに絡まれた」

 ……知っているバカと知っているバカが、知っていない一般人に絡んでいた。

 間違いなく、ジョフレとエリーズだ。

 あいつら、なんでこんなところにいるんだ?

 なんだろう、ダイジロウさんを探す上で一番の手がかりのはずなのに、絶対に関わりたくない。

 というか、こいつらに関わってまともな情報が得られるとは思えない。

「………………」

 よし、逃げよう。

 そう思って、俺は踵を返したのだが、

「おっ! ジョー! ジョーじゃないかっ!」

「ジョーっ! ジョーだ、おーい、ジョー!」

 一歩遅かった。見つかってしまった。

「……はぁ……久しぶりだな、ジョフレ、エリーズ……お前ら、なんか強くなってるな」

 職業とレベルを見てみる

【剣士:Lv32】

【魔物使い:Lv23】

 どちらも転職し、そこそこの高レベルに成長していた。

 もういっぱしの冒険者としての実力が伴っている。

 ダイジロウさんと一緒にレベル上げでもしたのだろうか?

 それとも、こいつらも成長チートの天恵を持っているのだろうか?

「おぉ、わかるか、ジョー。エリーズが魔物使いに転職して、ケンタウロスを正式にパーティ登録したんだ」

「うん、そしてケンタウロスと一緒に冒険してたら、なんかレベルが上がっていってね」

「あぁ……それはなんとなくわかる」

 ケンタウロスは本当にその辺の魔物よりも遥かに強いからなぁ。

「ていうか、ケンタウロスとなんで別行動してるんだ? あいつ、ドワーフの村の近くの衛兵の詰め所で衛兵の飯を食い漁ってたぞ」

「本当か? どこにいったんだ?」

「ドワーフの村から東に向かったって話からなにもきいてないが、街道沿いにはいなかったぞ」

 街道沿いの植物が食い漁られている気配はなかった。

 つまり、ケンタウロスはその道を通っていないということだ。

「東か……ケンタウロスがいきそうなところは……」

「ジョフレ、ここのネギ畑じゃない?」

「エリーズ、ここの生姜畑も怪しいぞ」

「それじゃあ私たちがいくところは――」

「それじゃあ俺たちがいくところは――」

「生姜畑だね!」

「ネギ畑だなっ!」

「なんで、私はジョフレが生姜畑が怪しいって言ったから芋畑に行きたいのに」

「俺だってエリーズがネギ畑だって言ったからニンジン畑を選んだんだぞ」

「ジョフレ! 私が行きたいのはジョフレが行きたいところなんだよっ!」

「エリーズ! 俺が行きたいのはエリーズが行きたいところなんだっ!」

「……ジョフレ」

「……エリーズ」

「スラッシュっ!」

 抱き合おうとする二人の間に、地面を深く抉るスラッシュをぶち込んだ。

 このやり取りも随分久しぶりな気がする。

「ちょっと地図を見せてみろ……なんだ生姜畑もネギ畑も同じ地区じゃないか。どっちも行けよ」

 というか、なんでこいつらが持っている地図はこんなに正確に書かれているんだ?

 以前俺が見た地図よりも遥かに細かく書かれている。

「私たちは行きたい場所は一緒だったみたいだね」

「俺たちが行きたい場所は一緒だったみたいだな」

「だって、私とジョフレはずっと一緒にいるんだもんっ!」

「だって、俺とエリーズはずっと一緒にいるからなっ!」

「スラッシュっ!」

 と叫ぶも、クールタイムのせいで不発……ちっ。

「どうした? 調子悪いのか?」

「どうしたの? お腹でも痛いの?」

「お前らと話してると頭が痛くなってくるんだよ」

「「それは風邪だっ!」」

 違う、バカと関わると頭が痛いって言ってるだけだ。

 と言う気力もない。

「風邪にはネギが一番だぞ」

「風邪には生姜が一番だね」

「じゃあ、生姜畑に行くぞ、エリーズ!」

「うん、ネギ畑に行きましょ、ジョフレ!」

 二人はそう言うと、全速力で町を出ていった。

 本当に……本当にあいつらはどこまでいってもバカだろ。

「……って、ダイジロウさんについて聞けなかった」

 いや、聞いてもまともな答えは得られないか。

 と俺は手の中に、ジョフレが持っていた地図があることに気付く。

 あいつら……ってもういないか。

「まっ、いっか」

 あのふたりと関わったことは忘れよう。

 バカと関わるときは自分がバカになるのが一番の薬だ。

 ということで、俺はふたりのことは忘れることにして、宿屋へと向かった。

 途中、広場を通ると、広場の中央に女神像と賽銭箱が設置されている。

 傭兵の町だそうだから、セトランス様の女神像だろうか、と思ったが違った。

 そこに置かれていたのは、あろうことかミネルヴァ様の女神像だった。

「なんでセトランス様じゃなくてミネルヴァ様なんだろ」

 この国の人間は全員自殺志願者か?

 俺が疑問に思って呟くと、

「女神ミネルヴァが薬学の女神だからだ」

 爺さんが声をかけてきた。

「確かに衛兵や騎士は戦闘の女神であるセトランス様を信仰する者が多い。しかし、傭兵と騎士は違う。騎士は国のために命を懸けて戦うものだが、傭兵がもっとも大事にするのは己の命だ。そのため、己の命を守ることができる薬を重視している。病気になって戦えなくなったら、その時点で傭兵は引退せんといけないからな」

「なるほど、そうなんですね。ありがとうございます」

 とはいえ、ミネルヴァ様を信仰して恩恵が得られるとはあまり思えないんだけどな。

 かつて見たミネルヴァ様を思い出して俺は内心呟く。

「ミネルヴァ様の女神像があるダンジョンがこの近くにあるんですか?」

「ああ、あるぞ。近くはないが、この町の南にな。ただ、上級ダンジョンだから腕試しをする物好き以外はあまり近付かん」

 上級ダンジョンか……覚えておこう。

「まぁ、せいぜい気を付けろ」

 爺さんはそう言うと、杖をついて近くの本屋へと入っていった。

 本屋……か。あとでみんなに本を買って帰るのもよさそうだな。

 横には服屋もあるけれど、店頭に女性下着が飾られている店に入る気にはなれない。



 宿屋の前では串肉焼きが百ゴーツで売っていて、買うかどうか迷ったけど、ウーシーと別れたばかりなので今日は我慢することにして、宿に入った。

「いらっしゃいませ、ようこそミルの宿屋ゴーツロッキー店へ」

 宿で俺を出迎えてくれたのは純朴そうな女の子だった。見た目十七歳くらいだろうけれど、指には結婚指輪がはめられている。

 どうやら既婚者のようだ。

「個室に泊りたいんだけど、いくらかな?」

「3500ゴーツになります。夕食付なら4500ゴーツ、朝食付きなら4000ゴーツ、夕食と朝食付きなら5000ゴーツです。燭台の貸出は無料ですが蝋燭は一本100ゴーツになります。井戸は裏口を出てすぐのところにありますから、お泊りの間自由にお使いください。従業員に水汲みを頼むのなら、水瓶いっぱいで100ゴーツです」

 どうやらベテラン受付らしく、よどみなく彼女は説明してくれた。

 蝋燭も水も必要ないな。夕食は……少し興味がある。

「じゃあ、朝食と夕食で。あ、部屋にあとで人が来るかもしれないんだけど、その時は追加料金は必要なのかな?」

「個室でしたら代金は必要ありません。食事が追加で必要でしたら、夕食は1200ゴーツ、朝食は700ゴーツ別途いただきます」

「うん、ありがとう」

 大部屋の雑魚寝なら兎も角、個室なら人数ではなく、部屋単位の値段のようだ。

 俺は一万ゴーツ札を彼女に渡し、お釣りとして5000ゴーツを受け取った後、いくらかチップを渡そうとしたのだが、それは断られた。

 この店はチップフリーの店だったようだ。

「あ、あと、俺は寝ているとき起こされるのはあまり好きじゃないから、夕食の後は部屋を開けないでほしいんだ」

 というのは嘘で、本当はマイワールドに戻っていることを知られたくない。

「かしこまりました」

 受付の女の子が頭を下げた。

「ミーナ、薪がそろそろないぞ」

 その時、受け付けの奥から別の女の子の声が聞こえてきた。

「あっ、すみません。お姉ちゃん、ちょっと待って、今お客さん来てるから」

「そうなんだ。ごめん。じゃあタ……トに買いに行かせるか」

 後半の声はあまり聞こえなかった。まぁ、聞き耳スキルを使うまでもないか。

 ちなみに、宿の食事は非常に美味で、特にウサギ肉を使った料理は絶品だった。

 アザワルドに来て最初に狩ったウサギのことを思い出しながら、俺は夕食を食べきった。

宿屋の若女将さんは、別に重要人物でもなんでもありません

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