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黒髪のアビス  作者: めい
4.王宮暮らしの章
29/33

29:「ならば寄付じゃ!」の巻

サツキは寝室から居間へと続く扉を開け、そしてそのまま閉めた。

もう一度、ゆっくり開いてみる。

小さく開けたその隙間からは、最初に見た光景がそのまま存在していた。


(うおぅ、またですか)


そこにはメアリーとハンナが互いに腕を組み、互いに火花を散らせている。

両者、睨みあったまま、微動だにしません。


他の侍女見習いの娘たちは、部屋の隅に固まって震えています。


お、ゴングの音が聞こえました。

カーン!


「だから、何がいけないんですか? 私は思ったままを言っただけですけど」

「ですから、まずそのお話しの仕方が間違っていると、わたくしは言ってるのですけど。おわかりになりません?」

「ん? 何? なにが間違ってるの?」


「あなたが、そのような口調でお話しするものだから、サツキ様もなかなか口調を改めないのだと、わたくし思いますわ」


「言っとくけどね、今どきそんな「わたくし」なんて話し方、一部の人しか使ってないし。私は私の思う範囲で、サツキにもきちんと礼儀は教えてるつもりです」


あるじを呼び捨てになさるところから、間違ってますわ!」

「サツキがそう呼べって言ったんだもの。私だって外ではきちんとサマ付けで呼んでます!」


「どこで誰が聞いているか、お分かりにならないでしょう!」

「だーかーらー! 私が言ってるのは、この部屋の中でだけでも、堅苦しい話し方はやめようよって事なの!」


「ですから、それが駄目だと言っているのです!」

「だから、何で駄目なのよ!」


あ、ループ入りました。

サツキは二人の間で、{技:ゴングの鐘}を使った。

サツキの合わせた手の平から、カーンという音が響いた。


「はい、そこまで! 判定! {技:ドラムロール}(両膝を叩く)・・・・・・両者、引き分け!」


{技:ゴングの鐘}三回。


「{技:マイクエコー}以上を持ちまして、貴族出身メアリーVS平民出身ハンナの対決を終了致します! ご来場の皆さん、ありがとうございます。ありがとーございます」



「「サツキ(さん)! ふざけないで(ください)!」」



「ひゃい」



時々二人は、こんな風に意見をぶつからせているが、二人の仲は決して悪くない。むしろ良い方だ。

だが、サツキの教育方針に対して、二人とも何かしらの思いがあるようで、しばし、このように火花を散らす。


 二人ともサツキを思っての行動なので、サツキはどちらの味方にもつけないでいた。

 一番の被害者は、この騒動に居合わせた侍女見習いたちだと思う。


基本メアリーはサツキに細々(こまごま)した諸作法や、貴族たちの上下関係など、処世術に必要な事を教えてくれる。

対するハンナは事務能力が主な仕事で、サツキの体調管理や時間配分に気を配っている。


元々、二人の仕事内容が違うのだから、それぞれの考え方が違うのは当然だと思うのだが、サツキは上手く二人にそれを伝えられないでいた。


なので、サツキは二人に今日も言う。


「人類、皆兄弟。仲直りをしましょう! はい、握手!」



 二人は互いに顔を背けながら、サツキに無理やり握手をさせられた。



◆ ◆ ◆



王宮には、大きな国営図書館がある。

城下にも図書館はあり、そちらの方が蔵書数は多い。

だが貴重な本や、より専門的な文書は、国営図書館に置かれているので、そういった職業についている者ほど、その利用率は高い。


 その図書館は東の宮に併設されており、一般人にも開放されている。

 一部の書物は禁書となっており、その書物らは本宮の図書室に置かれている。

 皇帝の許可なしでは、その図書室には入室することが出来ないので、常に何重もの魔術が施され、侵入者を拒んでいる。



 本日、ロベルトはその図書室の蔵書整理をしにやってきた。

そして、彼は中に入り、まず呟いた。


「・・・何故、いるのでしょうか」


ロベルトは振り返った。入ってきた扉に異常は感じられなかった。

ため息をつき、本を読みふけっているその人物に声をかける。


「サツキさん、どうやってこの場所へ?」


らせん状の階段に座っているサツキは、本からは目を離さずに上を指差した。


「ん~~? 天井から?」


ロベルトは首ごと見上げた。丸い天井は、ああ、確かに何も術を施していない。

その中央から長いフックロープが一本揺れていた。


 確か、上の階には円卓場があったはずだ。

 一応、円卓場も入室しやすいとはいえないのだが。

 ―――どうやら、彼女には関係ないらしい。


図書室の警備方法を、再度検討する必要がある。

そう考えたロベルトはサツキに聞いた。


「何を調べているのですか?」


「ん~、黒髪のアビスについて」


ロベルトはサツキの軽く言ったその言葉に、危うく手にしていたファイルを落としそうになった。

そんなロベルトにサツキはページをめくりながら問う。


「アルってさ、指輪なんてしてたっけ?」


ああ、彼女は知ってしまったようだ。

ロベルトは頷き言った。


「ええ、普段は幻術で隠していますが。常にめております」

「ふぅん、そっか」


何かを納得したように、サツキは頷いた。


「・・・シグマ、の意味は分かりましたか?」


逆にロベルトは質問した。

サツキは初めて顔を上げ、ロベルトを見た。


「うん。まあ、ね」


サツキはそう言って笑った。

その悲しげな微笑みにロベルトは、胸に不安を覚えてサツキに言った。


「―――どうか、信じてください」

「それはアルに言ってあげてよ」


そういうと、サツキは手にした本を棚にしまった。

そして、垂れ下がっているロープを掴む。


「それじゃ~ね~」

「サ、サツキさん!」


ロベルトの叫び声と共に、ロープは縮んでいき、サツキを天井へと導き、彼女はその上へと消えていった。



ロベルトは、ずり落ちた眼鏡を直しながら呟いた。



「・・・何故、普通に扉から出ない」



◆ ◆ ◆



 いつものように執務室で執務を行っていたアルフレッドは、ふと窓の外が騒がしいことに気が付いた。

 立ち上がり、窓から覗いて見ると、人々が何やら西側へ走っている。特に危険な感じではなく、皆の表情は、楽しげである。料理人、騎士見習いの姿や、侍女、魔導師の姿も見える。大人から子供まで、皆、 何か急いだ様子で走っている。その様子を見ながら、アルはロベルトに聞いた。


「今日は、闘技場で大会が開かれていたか?」


その声にロベルトは手にしていた本から顔を上げると、首を傾げた。


「いいえ。そのような事は聞いておりませんが」


そう言って、ロベルトもアルと同じように窓から外を見ると「確認して参ります」と言って部屋を出ていった。



◆ ◆ ◆



 うおーー! という大歓声が闘技場で沸き起こった。その歓声の対象となっているのは、やはりというべきか、サツキの姿であった。

 サツキの隣にいるモスリンドが声を張り上げる。


「さあさあ、次の挑戦者は誰だーーー!!」



 それは単に西の騎士食堂で始まった。

 昼飯を食べていたサツキが、食堂のテーブルの真ん中で、騎士たちが腕相撲をしているのを目に留めたところからだった。


 その騎士たちをサツキが倒していくさまに、周囲に人だかりが出来てしまった。食堂の営業妨害となるとして、なら場所を移動すりゃあいい、というフライの声と共に闘技場へとそれは場所を移して行われた。調子に乗ったモスリンドが、参加料を取り始め、まるで一大イベントになってしまったのだった。



◆ ◆ ◆



サツキとフライとモスリンドの三人は、正座をさせられていた。

ロベルトによって。


「という事で、賭け金は没収致します」


「「「ぅえ~~~~!!」」」


参加費だけだったのなら、ロベルトも目をつむった。

しかし観客たちと賭けをし始めたのがいけなかった。

負けた客が騒ぎ出し、それがロベルトの耳に入った。


参加料と賭けの儲けは、しめて7343リオン、ベールに換算すると734万3千ベールだった。


「すべて、国庫に入れますので。それでよろしいですね?」

「ならば寄付じゃ! 寄付をするがよい!」


サツキが異議を申し立てる。


「どちらに寄付を?」

「王宮猫たん保護団体じゃ!」


以前王宮内に繁殖した、猫を守ろうの会が発足されていた。

それが「王宮猫たん保護団体」という名称で活動している。

ちなみに会長はシャルル、副会長はサツキである。




「・・・ご自身が関わっている団体なので、却下です」


ロベルトは冷たく言い放った。




「猫たん・・・猫たん・・・」

「俺の剣、おニューの剣が・・・」

「お嬢・・・お嬢への貢物プレゼントが・・・」


それぞれが、それぞれの思いを呟いた。





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