↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2. 私の護送

アウグスト王子だけは違っていた。


ジークヴァルト王から婚姻を要求された直後、エレオノーラとアウグストの婚約は破棄された。


それでもアウグストは、軟禁同然の三ヶ月間、エレオノーラを支え続けた。

二人が直接会うことは許されなかった。

エレオノーラの逃走を防ぐためだったのだろうか。


アウグストは公務と称して多忙を極め、エレオノーラからの面会申請はすべて退けられた。


ただ、手紙だけは届いた。


『エレオノーラ、私の心は変わらない。今世では結ばれることは叶わない。来世では必ず、我が伴侶に。』


アウグストからは、悲しみと絶望、そして決意を綴った手紙が定期的に届いた。

エレオノーラは、その手紙を繰り返し読んだ。

涙が枯れるまで。

手紙を胸に抱き、泣き暮らした。



私の人生を奪った男。

ジークヴァルト王。

私はお前を生涯愛することはないだろう。

心だけは、アウグスト様のもの。

この身体を凌辱されようとも、獣の子を産もうとも。

私は、アウグスト様しか愛さない。

絶対に、お前に従うことも、愛することもない。

ただのマリオネットになってやる。

お前に視線など送らない。

お前は、この結婚を後悔すればよい。

国を愛さない王妃など、何の意味があるというのか。

思い知れ。私の恨みを。

私は、エレオノーラよ。


エレオノーラは、手紙を胸にそう誓った。


国を発つ日。

名目上の見送りとして、多くの貴族や民が集められた。

貴族からは侮辱の眼を、平民からは好奇と恨み、蔑みの眼を向けられた。


ジークヴァルト王は無慈悲だ。


リューデンベルク王国は領土こそ奪われなかったものの、多くの兵士を失った。

帰らぬ夫を嘆く家族は多い。

賠償金の支払いによって、民は重税に苦しんでいた。

すべてはドラッヘンフェルス王国の蛮行のせい。

その王妃となるエレオノーラを、歓迎できるはずもなかった。


「リューデンベルク王国万歳!」

「ドラッヘンフェルス王国万歳!」


笑顔を貼り付けた群衆が声を上げる。


ドラッヘンフェルス王国から、ただ一人寄越された使者のために。


随分とリューデンベルク王国も舐められたものだ。

国王陛下でさえ笑顔を貼り付け、怒りを押し殺していた。


エレオノーラの乗った馬車は、厳重に警備されていた。

逃げ出さぬように。

まるで牢獄のように、エレオノーラは運ばれていった。


♡♧♡♧


リューデンベルク王国からの護衛や侍従は全て返された。私だけを残して。


「ここで、すべての衣服をお脱ぎください」


ドラッヘンフェルス王国の国境を越えたところで、待ち受けていた侍従頭からそう告げられた。


「あなた様は、ドラッヘンフェルス王国へ嫁がれたお方。これより先は、すべて我が国のしきたりに従っていただきます」


用意された衣服に着替えさせられる。

コルセットの紐はナイフで切られ、平民のような服を着せられた。


コルセットの紐はナイフで切られ、平民のような服を着せられた。

護衛と称する騎士たちは、無惨にもあらわになった胸元を見てニタニタと笑う。

「ヒュー、見かけだけは一級だな」

下劣な野次が飛んだ。


私は、表情を変えない。


すべて、心は棄ててきたのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。