炎上の鎮火と、次なる伝説
二週間後。
『ビート・スクランブル』の放送日。Showgoの発言部分は、見事に一秒たりともカットされることなく全国に電波に乗った。プロデューサーが「これぞテレビの醍醐味だ」と腹を括ったのだ。
放送終了直後から、SNSのサーバーはかつてないほどの熱狂で埋め尽くされた。
しかし、それはShowgoを非難する炎の熱ではなく、彼を称賛する熱狂の渦だった。
『待ってwww Showgoの返し、天才すぎないかwww』
『「無理やり犯されたとか言われなくて良かった」←これマジで真理。今のすぐ炎上させて社会から抹殺しようとする魔女狩りみたいな風潮への、最高の皮肉だよな』
『自分のテクが下手なのはあっさり認めて「練習しておくんでヨロシク!」って全国放送で言うカリスマロッカーwww 腹痛いwww』
『変に黒スーツ着て謝罪とかされるより、百万倍好感持てる。やっぱロッカーはこうでなくちゃ!』
『さすがロッカーとしてはこれが最適な答えだわ。誰も傷つけてないし、現代の異常なコンプライアンスへの見事なカウンターパンチ』
さらに、この騒動に最高のオチをつけたのは、相手の白石マリア本人だった。
彼女は自身のXアカウントで、Showgoの出演シーンのスクリーンショットと共に、こうポストしたのだ。
《練習の成果、期待して待ってますね!》
このポストには数十万の「いいね」が付き、二人の関係性を面白がる声でネットは埋め尽くされた。
当初、鬼の首を取ったようにShowgoを叩いていた「正義の執行者」たちは、この圧倒的な笑いとユーモアのうねりの中で完全に居場所を失い、そっとアカウントに鍵をかけるか、沈黙するしかなかった。
怒りや憎しみには、怒りで対抗しても泥沼になるだけだ。
潔癖症が行き過ぎた現代社会において、不寛容な群衆の刃を無効化する唯一の武器。それは、自分の弱ささえも笑い飛ばす、圧倒的なユーモアと器の大きさなのだ。
数日後、都内の地下にあるリハーサルスタジオ。
防音扉の向こうでは、アンプを通した重低音が空気を震わせている。
「いやー、一時はどうなることかと思いましたけど、結果的にファンクラブの入会者数、爆増してますよ」
スタジオの隅で、武田がタブレットを見ながらホクホク顔で報告してきた。
「お前、数日前までこの世の終わりみたいな顔してただろ」
ギターのチューニングをしながら、Showgoは呆れたように笑った。
「で? 練習の進み具合はどうなんですか?」
ベースのメンバーが、ニヤニヤしながら茶化してくる。
「うるせえ。今夜もみっちり自主トレの予定だよ」
Showgoが中指を立てると、スタジオ内に気さくな笑い声が響いた。
彼はギターを構え、アンプのスイッチを入れる。
歪んだジャキーンというコード音が、スタジオの空気を一閃して切り裂いた。
息苦しい時代だ。
誰もが誰かの顔色を窺い、叩かれないための正解を探して生きている。
だが、他人の作った道徳のスケールで測られるくらいなら、自分のスケールで笑い飛ばしてやればいい。
「よし、合わせるぞ。ワン、ツー、スリー!」
Showgoのカウントとともに、爆音のロックンロールが鳴り響いた。
彼らの音楽は、今日も潔癖な世界に対して、最高に下世話で、最高に優しい中指を立て続けていた。




