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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第一章 木津ヒイラギの起こし方
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秘密の共有

「ははっ、これは、勘づかれたな」


 発動を解除して、惟之はゆっくりと目を開く。

 まもなく着信が入り、スマホから聞こえてくるのは不機嫌な品子の声。


「今、どこだ?」

「デートのお誘いにしては、つれない誘い方だな」

「お前を誘うくらいなら、がーがー眠ってるヒイラギ連れて行くわ」

「つれないねぇ。家から北の方角の公園にいる」

「動くなよ!」


 それだけ言うと電話は切れた。

 かなり立腹している品子との、これからの会話を惟之は考える。


 自分も何か彼女(つぐみ)に出来ることを。

 そう思い、ついやってしまった自分の行動に思わず苦笑する。

 助手席の鍵を開けておきしばらくすると、乱暴に扉が開き品子が乗り込んできた。


「……人の車を無下(むげ)に扱うのはどうかと思うぞ?」

「人の会話を、盗み聞きするやつに言われたくない。あのタイミングで電話を掛けて来て、気づかない訳が無いだろうが」


 品子は腕を伸ばし、強引に惟之のサングラスを奪う。


「……何を言っているんだ。返してくれないか?」

「惟之。お前、何を隠している?」

「別に何も。いや、お前こそ俺に何を隠している?」

「それこそ『別に何も』だよ」


 (らち)が明かない会話を続けるのも無意味だ。

 このお嬢さんのご機嫌を(そこ)ねるのは得策ではない。

 ……ある程度の事情は、話す必要があるだろう。

 そう結論付け、惟之は口を開いた。


「明日人が冬野君に、何かよくわからない『力』のようなものを感じたらしい」

「それで(たか)の目を使っていたと」


 鷹の目。

 惟之の発動能力の一つ。

 発動者の気配を察知し、どこにいるかを把握する能力だ。


「念のためだ。だが何もなかったよ。彼女は鷹の目に反応しなかった。つまり彼女は、発動者ではない」

「電話を掛けてきたのは、どういう意図があったんだ?」

「それは彼女が在宅しているかの確認だよ。家からは、お前とシヤの二人分の発動者の気配しかなかった。買い物か何かで、家から出ている可能性もあると思った。だからそうしたまでだよ」


 品子は、じっと惟之を見つめている。


「なぁ、そろそろ返してくれないか?」

「……今からもう一度、冬野君を確認してみろよ」

「その必要はないだろう。先程したばかりなのに」

「何? 私の前で発動すると、都合が悪いとでも?」

「二度手間はごめんだ。ただそれだけだよ」


 サングラスを取り返そうと、伸ばした惟之の手首を品子が掴んだ。

 ぐっと自分を見上げ、何かを言おうと品子は口を開きかける。

 だがそのままうつむくと、しばしの沈黙の後に呟いた。


「言えないことなのか?」

「……」

「言ってもらえないこと、……なのか?」


 どう言葉を紡ごうか。

 どこまでを伝えたらいいのか惟之は惑う。


「……帰る」


 沈黙を肯定と捉えた品子が、ぽつりと言葉を落とした。

 サングラスをダッシュボードに置き、彼女は車を出ようとしている。


(……いつぞやとは反対の立場だな。あの時の品子はちゃんと俺に謝ろうとしていた)


 今なら手を伸ばせば、品子の腕を掴むことが出来る。

 行動を起こすべく、惟之は彼女へと顔を向けた。


「しなっ……」

「んざっけんじゃねーぞ、惟之のくせに!」


 伸びてきた手。

 惟之が伸ばした、ではなく品子から伸びてきた手が惟之の顔を掴む。

 その力は強く、もはや掴むといったレベルではない。


「……に、握りつぶされるのか? 俺の顔は」


 惟之の言葉にかぶさるように品子は叫ぶ。


「惟之のくせにっ! 惟之のくせに、隠し事なんかしようとするなんて! 一億万年早いんだよ!」

「お、おいっ。そんな単位ないぞ」


 これでは、以前の再現ではないか。

 初めてつぐみと会った時、品子に対して自分が起こした行動。

 どうやら品子は、それをなぞらえているようだ。

 想定していた以上の痛みに、たまらず惟之は品子に訴える。


「おい、かなり痛いんだが」

「お前この間、私に同じことやっておいてよく言えるな!」

「……まぁ、確かに」


 数十秒後、惟之を疲れるまで握りきったであろう品子の手がようやく離れた。


「惟之。私はお前に、一つ提案をする!」


 品子は惟之をぐっと力強く見つめると、口を真一文字に結ぶ。

 解放された自身の顔に惟之はそっと触れてみる。

 頬にヒリヒリとした痛み。

 軽く触れただけで、熱を持っているとわかるほどだ。


「本当にまぁ、遠慮なくやりやがったもんだな」


 思わずつぶやけば、そんな痛みなど知ったことかと言わんばかりに、品子は口を開く。

 

「心理学的には、秘密を共有すると親密度が上がるらしいぞ。今なら聞いてお前に対する親密度を上げてやるんだが、どうだ?」

「何か知らんが却下だ。帰れ」

「話は最後まで聞け。無駄に目ぇ垂らしてんじゃないぞ」

「前も言ったが、好きで垂れてるんじゃない。生まれつきだ」


 軽々しい会話ながら、二人の目は全く笑ってはいない。


 腹を探りあう時間など、続ける必要はない。

 流れを変えようと、惟之は品子を見つめる。


「お前は共有しろと言うが、それは相互のメリットがあってこそではないのか? 片方のみにそれを求めるのは、おかしな話だろうよ。そこまで言うのならば、俺はお前にもそれを求めるね」


 惟之の言葉に、ほんの(わず)か、品子の目が細まる。

 自らの額に手を当ててしばらく考えている様子だったが、すっと惟之を見上げた瞳に宿るのは何かしらの強い決意。


「確かにな、お前の言う通りだ」


 次いで、にやりと笑う。


「いいだろう、お前の話に乗ってやる。だが、後悔しても遅いからな。お前の秘密を一緒に背負ってやるよ。その代わりお前も私の秘密を背負え」

「……おいおい、俺には選択権なしかよ」


 小さく惟之はため息をつく。


「……相変わらず可愛げのない言い方しか出来ない女だな、お前は」

「そんなものは無くて結構。さらに言えば私の秘密はお前にとってかなり刺激が強いかもなぁ。お前に付き合いきれるかねぇ」

「さぁね。……いいんじゃないのか、それならそれで。では俺から親密度とやらを上げていきましょうかね」


 互いの口に浮かぶのは小さな弧。

 サングラスを手に取り、惟之は話を始めていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

次話タイトル「忘れ物?」です。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお!?なんか良い感じに話が盛り上がって来ましたな(´ω`)
[一言] しなこせんせい は アイアンクロー を おぼえた! 惟之さんに効果抜群でしたね。 つぐみの謎に続いて、お二人にも何やら秘密が。 これはもう美味しい餌を目の前にぶら下げられているのに、おあず…
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