弟子は師を越えて行くものだから
『始め―――――ッッ!!!』
――ドォォォォォンッッ!!!!
「「「「うおおおおおおっっ!!」」」」
歓声が、熱気が、興奮が会場中に吹き荒れる。
「お師匠覚悟ォォォッ!!!」
先に動いたのはジェド。
一瞬の間にジェドは少し飛び上がると真後ろに足を向け『天歩』を使い一気にコゼットの方へと飛び出す。
飛び出しながら刀に手をかけたジェドは空中から居合いでコゼットに斬りかかった。
だが、単純なスピードに負けるようなコゼットではない。
斬りかかってきたジェドの刀の腹を手に着けた手甲で凪払い、瞬時に彼の横へと回り込むと今度はその腹に思い切り蹴りを叩き込んで空へと吹っ飛ばす。
「がはっ!?」
「甘いぞジェド。能力では確かにツバキでも最高峰だろうが、力押しでは真に強いものと相対したときには役に立たない」
そう言うと一気に空中へと飛び上がるコゼット。
空中では口から血を吐きながらジェドが天歩を使い、何とか体勢を立て直している。
「『一閃』!!」
「『天獄』!」
天に向けて飛び上がったコゼットは『一閃』により更に凄まじい速度でジェドに斬りかかる。
一方のジェドもあっさりやられる訳にはいかず、『天獄』を使って一気にコゼットへと急降下しカウンターを狙った。
――ガキィィィィィン!!!
凄まじい速度でぶつかり合った二人の刀から火花が散る。
互いに使っている刀は一級品。
これだけの負荷がかかってもびくともしない。
「風ッッ!破ッ!!」
「まだまだだな、ぬるいぞジェドっ!!」
位置的には上に居る有利が有るジェドだが、彼の猛攻にもコゼットは全く怯んだ様子も見せずに悠々と弾き続ける。
同じ『七天刃』といえども第三席と第六席ではこれだけの差があるのだ。
それでもジェドは他から見れば半端じゃなく強いのだが。
――キィィィィン!
虚を突かれたジェドは刀を飛ばされてしまう。
「まだ終わらせん!はぁっ!!」
――メキィィッ
鈍い音を響かせて、コゼットの回し蹴りがジェドの脇腹を打ち抜く。
「がっ、は!??」
吹っ飛ばされたジェドは血反吐を吐きながらフィールドに叩きつけられ、転がっていく。
「う、おおおおぉぉ」
「うわぁ、弟子に容赦ねぇな」
「でも凄い戦いだぜこれ.........」
「全然目で追えてないんだけど........」
観客席からも様々な感想が聞こえてくる。
始まってからここまで未だ17秒と少ししか経っていない。
正に桁違いの戦いなのだ。
「ぐっ........『武器よ、我が元に!』」
シュンッ、と音を立ててジェドの刀が彼の元まで瞬間移動する。
これは光属性の魔法と剣術のスキルをあわせることで使えるようになった技だ。
これさえ使えれば、戦場で武器を落としたとしてもすぐに手元に戻せる。
「今日こそ勝つんじゃなかったのか?」
「『ヒール』........ッ、強すぎだよ師匠.....」
「甘えてるんじゃないぞ。まだまだこれからだ!」
「くっそーっ!絶対一撃でも入れてやる!」
傷を修復したジェドは立ち上がると再びコゼットに向かって斬りかかる。
そしてコゼットも最初とは打って変わって此方からもジェドに斬りかかる。
――ギィィィィィンッ!!
再び刀が打ち合わされる。
ギリギリと鎬を削る二人。
刀身からは火花が飛び散り、二人のプレッシャーがぶつかり合う。
「試合って言ったんだけどなぁ。まぁ、これも楽しいから良いか」
「確かにこりゃあ試合ってよりか稽古って感じだけどすげぇよこれ」
リュウガも二人の戦いに感嘆の声を漏らす。
ミコト達も同じように二人の試合に見入っていた。
――キィン!ジャキッ!ギィィン!
何度も打ち合わされる刀。
二人は何度も鎬を削りあい、チリチリと火花を散らす。
無駄のない動き。
コゼットの剣術は正にそれだ。
全くと言っていいほど力の使い方に無駄がない。
だからジェドとは違って少しも疲れの色を見せていない。
対するジェドはどちらかといえば野性的な動きだ。
所々にコゼットに仕込まれたのであろう剣術の動きは見られるが、基本的に本能で反応している感じだ。
類稀なる天性の戦闘センスといえば聞こえは良いだろう。
だが、それは限界まで鍛え抜かれ、研ぎ澄まされた剣技には届かない。
だから、コゼットの格闘技を防げない。
本当に強いものであればコゼットに剣術以外を使わせる暇など作らせないだろう。
だが、ジェドは強いことには強いのだがまだその壁を越えられていない。
――ギィィィィン!!
また、彼の刀が弾かれて飛ばされる。
「くっ!『武器よ、我が元――』」
「させねぇよ!」
またもコゼットの回し蹴りが叩き込まれた。
「ぐあっ!!」
吹っ飛ばされたジェドは口から血を吐き、顔を苦痛に歪めながらも転がり続けた後、即座に立ち上がり自らにヒールをかける。
恐らくは彼が『七天刃』に選ばれた理由は此処にあるのだろう。
不屈の精神。
何度倒されようとも折れぬ心で立ち上がる。
彼は戦闘狂等では無いだろう、だけど彼には想いがある。
負けたくない、例えそれが自分の師匠だとしても。
いや、だからこそ勝ちたいのだ。直前のあの宣言にはそういった意味もあったのだろう。
(本当に、良い弟子を持った。)
再び立ち上がり刀を取る弟子を見て、思わず笑みがこぼれるコゼット。
彼ならばきっと、現在直面している『英雄』の壁も越えることが出来るだろう。
そう、信じている。
いや、もうこれは確信に近いだろう。
彼の戦闘センスはそれはそれでコゼットの剣術と併せることで中々に相手にとって嫌な物になる。
何故なら常時リズムを崩される様な戦い方なのだから。
――キィィィンッ!!
再び、刃は重なり合う。
「全く、将来が楽しみだな」
「..........何か言いました?師匠」
「いやぁ、なんでもないよっ!と」
「があっ!??」
コゼットが一瞬重心をずらし、バランスを崩したジェドに向かって峰打ちを叩き込む。
一瞬の間に合計7発。
最早スキルさえ超えているその力は正に『英雄』の壁を越えた者にふさわしい。
「な!?なんだ今の?!スキル無しで三回も斬ったのか!?」
「いや、違う。七回だよリュウガ」
リュウガには見えていなかったらしい。
クロエに至っては何が起きたのかわからないという顔をしている。
ちなみに今の彼の峰打ち。
一発目でまずジェドの身体を浮かせると、二発目から最後の七発目まで連続で滅多打ちにしていた。
通常の観客達には、ジェドが空中で変な格好に身をよじらせたように見えたことだろう。
――バキッ!
「ぐふぅっ!」
そして、今度は宙に浮いていたジェドにコゼットが跳び蹴りを叩き込んで吹っ飛ばす。
が、ただでやられ続けるジェドではない。
彼も未だ未熟ながら、『七天刃』としてのプライドがあるのだ。
「うっ、ぐおおおおお!『武器よ、我が元に!』」
『天歩』を使い空中で体勢を立て直すジェド。
瞬時に手に刀を握ると、血反吐を吐きながらも再びコゼットに斬りかかる。
「『一閃六華』!」
「ほう!」
驚いた様な声を漏らすコゼット。
一瞬の内に六度斬りかかられるもコゼットはその剣の腕にていなしきる。
そして、
「今日はここまでだ。よく頑張ったな」
「なっ!?師匠?!!」
――ヒュンッ
風を斬るような音。
次の瞬間、ジェドの身体は真っ二つに切り裂かれて消滅した。
『う、うおおおおおおおおお!!
エキシビションマッチは、七天刃第三席「コゼット・キングズリー」の勝利だあぁぁぁぁっ!!!』
「「「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」」」
今日最高の盛り上がりを見せる会場。
一人フィールドに立つコゼットは「ふっ。」と軽く笑う。
彼の頬には浅い切り傷が一筋付いていた。




