コゼット VS 七天刃第六席 ジェド
『どうです? 此方の品でしたら貴方様の野望の一助にもなりますかと.......』
『野望だなんて随分と仰々しいじゃないか。だが........気に入ったぞ?』
時は少し遡る。
ヤヴィン家の屋敷の中。
その応接間にてヤヴィン家の長男ウランフとヤヴィン家お抱えの魔人族の商人が向かい合っていた。
この商人とはそれなりに長い付き合いになる。
最初は三年前のある日のこと。
その商人はふらりと現れてこの屋敷の門を叩いた。
持ち込んだのは貴族でも中々お目に掛かれない貴重な品の数々、そして彼の父親のヤヴィン家現当主さえ見たことのない不思議な魔道具。
その商人がヤヴィン家の信頼を勝ち得るまではそう長くはなかった。
そんな訳もあり現在に至る。
広げられているのはいつもと同じ貴重な品々。
中でも一際目立っていたのが一振りの剣だった。
『宝剣レーヴァティン。こんな物いったい何処で手に入れた?』
くふふっ、と笑いを堪えきれずに吹き出すウランフ。
宝剣レーヴァティンとは遙か昔に失われた筈のツバキの国宝。
最後は確か勇者が所持していたはずだ。
失われた理由は.........まぁ、大体予想はつくだろう。
そして、確かにこれを王に献上すれば王家に取り入りやすくなる事は間違いない。
『ふっふっふ、そこは企業秘密と言うことで..........』
気味の悪い笑みを浮かべる商人の男。
『ハハッ、まぁ良いだろう。いくらだ?』
『白金貨80枚でどうです?お安いでしょう?』
『ふん、本物かどうか怪しくなるぐらい安いな。少し見させて貰おうか』
そう言ってその剣を手にとって振ろうとするが。
『む.........動かん。成る程、これは本物だな』
確かにそれを手に取ることは出来たが、振ることが全く出来ない。
聖剣と呼ばれる物は、その全てにおいて持ち主を選ぶ。
このレーヴァティンもその一つだ。
聖剣は聖剣自体に選ばれない限り何人たりとも扱うことが出来ないのだ。
『お前、これをそんなに安くして平気なのか?大体お前が王に直接渡しに行けば大手柄だったろう?』
『ふふふふ、私はここでご贔屓にさせていただければ充分なのですよ。それにこれを買っていただくに併せて一つ一緒に買っていただきたい物がありましてねぇ』
『ほう、どんな怪しげなものか楽しみだな』
がさがさと荷物から何かを取り出す商人の男。
それをウランフはさも楽しそうに眺めている。
『此方にございます、ウランフ様』
『これは.........』
彼が差し出したのは不思議な形をした魔道具。
綺麗な球体のそれは半透明になっており、内側には妖しげな光がゆらゆらと揺らめいている。
『レーヴァティンを売るのはこれをウランフ様に使っていただく事が条件です』
『何だ?お前の所の新商品か何かといった所かな?第一これは使い方がわからん』
『使い方は至って簡単です。それを胸の中心に当てて魔力を流していただければ完了になります』
『...........値段は?』
『白金貨23枚でどうですかね?レーヴァティンと併せて合計白金貨103枚ですねぇ。どうです?買いますか?』
恐らくこれは人体実験みたいなものだろう。
だが、貴族を利用すると言うことは、命に関わるような危険な実験では無いのだろう。
例え危険な物だったとしても一商人がそんな真似をするとも思えない。
『これはどういった魔道具なんだ?』
『使い方は先程申し上げたとおりで、使用者の身体と融合し、ステータスをその個人の限界を超えて引き上げることが出来ます。ふふふ、特に目立ったデメリットもありませんしこれほどの物は正に神装具クラスと呼んでも過言では無いでしょうねぇ。どうです? 使っていただける気になりましたか?』
『ふむ.........』
ウランフは考えていた。
将来的にこの国を牛耳るならまずはアオイ姫との婚約を果たさなければならない。
ウランフ自体は世間的には「幼少の頃からアオイ姫と仲の良かった彼女の婚約者候補筆頭」としての地位を築いている。
だが、それだけではあまりにも弱すぎる。
まだまだ確実性に欠けるのだ。
そこに現れた国宝『宝剣レーヴァティン』。
これを王へと献上すれば他の貴族達を差し置いて一気に王家に取り入るチャンスになる。
だが、まだ足りない。
更に確実にするには?
そうだ、『闘技大会』にて優勝すればいい。
闘技大会での優勝者には王がその権限の全てを使って願いを叶えさせるというルールがある。
そんな中で一個人との結婚を要求する者も要る。
まあ、そんな他人の気持ちを無視したような願いが叶うことなど殆ど無いのだが。
王はその様な事は望んでいないからな。わざと全力を尽くした様に見せて適当に終わらせるだろう。
だが、ほんの一部だけ王が守りきれない個人が居る。
それは王女だ。
この国の王がどう考えているかは知らないが、王女というのは基本的に他国の王族、又は自国の有力貴族と結婚させられる。
そんな中で闘技大会で優勝した貴族に求婚されたらどうなるか?
まず王はその権限を使って願いを叶える手伝いをしなければならないのだから王女を守ることなど出来ないだろう。
そして王女も求婚してきたのが平民ならまだしもウランフ程の貴族であれば断ることなど容易ではない。
だが、それは闘技大会で優勝できればの話。
ウランフは、この魔道具にかけてみたくなった。
『良いだろう、買いだ。白金貨103枚すぐに用意させる』
『ええ!商談成立ですね。いやぁ、良かったですよお気に召していただけたようで』
にんまりと笑ってみせる商人の男。
こうして、ウランフは力を手に入れた。
―――――――――――――――――――――――――
――ドクン、ドクン
脈動する核。
「ふはっ、ふはははっ!遂に、遂にここまで来たぞ!」
――ドクン、ドクン、ドクン
「もうすぐだ、誰も今の俺には勝つことなど出来ない!」
気付かない。
――ドクン、ドクン、ドクン!
彼の胸の中心で、その魔道具は妖しい輝きを放っていた。
「コゼットさんって弟子居たんだ........」
「おまっ、何だよその目は。コゼットさんに失礼だぞ」
「いやぁ、でもちょっと意外だったっていうかぁ」
観客席に戻ってきたタツキはミラたちと雑談を楽しみながらエキシビションマッチが始まるのを待っていた。
ミラはコゼットに弟子が居たことが相当に意外だった様で、遠い目をしている。
「まぁ、確かにあのおっさんは只のおっさんにしか見えなかったしなぁ」
「リュウガまでそういうこと言う.......」
「でもよぉ、あのおっさん七天刃だなんて本当驚いたぜ? クリンドルに居たクラスメイト達なら皆『七天刃』の事は聞いてるからなぁ」
「あー、そういえばツバキとクリンドルって仲良いんだっけ?」
「ん、ああ。ちょっと向こうに居たときに訓練で『六星騎士』の模擬戦見せられてなぁ。ありゃあ凄かったわ、本当、俺たち必要だったのか?ってぐらい強かったからな。それと並ぶ強さだってんだから気にならない訳ないだろ。そんなのを簡単に呼べるお前こそ何者なんだ?って話だけどな」
「まぁ、借りがあるからねぇ。そこはあっさり通ったよ」
「借り?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべるリュウガ。
まぁ、借りについては近いうちにわかると思うよ。
それにしても『六星騎士』か。
クリンドルの最高戦力にして騎士の頂点と言われる六人の騎士。
それぞれが一つずつ属性の名を冠しており、その道の最高峰の実力を持つ。
先の大戦においても魔族との戦いで大いに活躍したそうだ。
「おっ、そろそろ始まるみたいだぞ」
会場がざわつき始める。
『それでは皆さん長らくお待たせ致しました!
エキシビションマッチのお時間ですぅ!!!』
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」
歓声に揺れる会場。
七天刃のメンバー同士の試合とあって、噂が広まったのか会場には席に座りきれない程に沢山の人達がやってきて、通路等に立っている。
そして入場口が開かれ、それぞれから二人が現れた。
「お師匠! 突然決まった試合ですが、この大舞台で今日という今日こそは勝って見せますよ!」
若い人族の少年が反対側にいるコゼットを指さして宣言する。
彼がコゼットの弟子のジェドなのだろう。
歳は14、5といったぐらい。
深い色の青い髪の元気な少年だ。
「今日も威勢が良いなぁ、ジェド。でもおじさん第三席として負けられないんだわ。本気で行かせて貰うよ」
はははっ、とゆるーい笑みを浮かべるコゼット。
だが彼の身体からはおぞましいまでのプレッシャーが放たれ、ジェド君はぶるっと武者震いする。
大人気ないぞおっさん..........。
『う、おおおおおおお!
流石に凄い迫力ですねぇ、実況席のここまでプレッシャーが伝わってきますよ』
『おおおおお!筋肉が、筋肉が喜びにうち震えているのである!!』
「す、すげぇ.......」
「あのおっさん顔は普通なのに凄すぎだろ.....」
「迫力が違うなぁ.........」
「瞬き禁止だよこれ!一瞬だって見逃したくないぜこれ!」
「師弟対決.........熱い展開じゃあぁぁ」
そして、向かい合って構えをとる師と弟子。
『それでは両者位置について、始め―――ッッ!!!』
戦いの幕が上がった。
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