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鉄甲騎モミジブライ(改)  作者: 二瀬幸三郎
巨人の少女と決意の鎧
21/30

姫様と給女

 

 結局――

 一日掛けて行われる予定のサクラブライ評価試験は、午後を迎える前に中止となった。

 この度の試験に於いて現時点で判明したのは、[サクラブライの焔玉機関はナラン以外には制御は困難]と云うことに加え、[動力甲冑と云えども機関士と操縦士(着装者)の息が合わなければその性能は発揮されない]という、性能評価以前の結果であった。


 モミジが怒りにまかせて乱暴に脱ぎ捨て、放置された動力甲冑は、その後、朝と同じくリストール二騎により格納庫に戻された。

 事の次第を一部始終見届け、関係者から事情を聴取したミトナ妃殿下は、この甲冑に関する今後の扱いは、藩王の帰還を待ち、改めて協議することを決定、その事を告げた後、城へと帰還した。

 そしてサクラブライは当分の間、封印とされ、整備はおろか、触れることすら禁止となった。

 燃料である焔玉も、数日掛けて余熱が完全に冷めるのを待ち、取り外される予定である。


「しかし、あれほどきつく怒鳴らなくても……」

「……俺もどうかしていた」

 練兵場が見下ろせる高台――

 機関士達による撤収作業を見届ける中、イバンに諫められたドルージは、これまでになく落ち込んだ表情を見せる。

 これまでもイバンは、ナランを叱りつけるドルージを何度も見てきた。それはあくまで機関士長として、延いては師匠として教え導くための叱咤であり、決して感情的なだけの激怒ではなかった。

 だが、仰向けに倒されたサクラブライから、惚けた顔のまま這いつくばって出てきたナランに対し、ドルージはこれまでになく大喝一声を浴びせる。

 いや、寧ろそれは罵声であり、そしてあろう事か拳までをも振るった。

「……貴殿が人を殴るところなど、初めて見ましたよ」

 イバンの言葉は、機関士長の人柄を知る全てのものを代表していた。

 そして、その事実に一番驚いていたのは、ドルージ自身であった。

「俺自身、どうかしちまったと思ってるよ。弟子や部下を殴りつけて言うことを聞かせるなんざ、俺の流儀じゃねぇ……」

 ドルージは力無く、その場に座り込む。

「筈なんだがな……情けねぇことに、さっき、俺はあいつに何を言ったのか、いや、どんな言葉で罵ったかすら、憶えちゃいねぇ。感情的になるなんざ、碌なもんじゃねぇな……」

 青色吐息の機関士長が肩に掛けていた手拭いで拭くのは、汗か涙か、イバンには見えなかった。

「ただ、最後に言った言葉は本心だ。まぁ、それすらも、俺がちゃんと弟子を導けなかったっつーことだがな……」

「確か、『お前は、機関士の……』」



 ――お前は機関士の本分を何もわかっちゃいねぇ!

 午後、兵舎――

 格納庫に戻らず、自分の寝床に潜り、輾転反側のナランの脳裏に、ドルージの言葉が心の中に何度も響く。

 ――操縦士にでもなったつもりか!

 そんなつもりはなかった。

 無い筈だった。

「……そう言えば、何で機関士を目指そうと思ったんだろう」

 思わず声に出す。

 無心で目指していた筈である目標に対し、今更理由を問い直さねばならないほど、ナランは迷っていた。

「……僕が操縦士になんて、なれるわけがないし……」

 確かに、生まれ持った身分に依るものか、あるいは運命の巡り合わせがなければ脚甲騎であろうとも操縦士になることは非常に難しい。それに対し、機関士は技能職であり、技術さえあれば身分の貴賎に拘わらず登用され、希ではあるが、操縦士にと云う立身出世への道も開かれることもある。

 だが……

「そんなこと、考えたことも、ない……」

 ナランが機関士を目指すことになる最大の転機は、やはりジマリに於ける出来事だろう。

 二年前、ナランが父と暮らしていた街を襲った悲劇……

 今は亡き、鉄甲騎技師であった父の元でナランは、操縦士に無敵の力を与える機械の巨人も、その力を引き出すには、絶え間ない整備と、その〈背中を預かる〉機関士の存在が如何に重要であるかを感じていた。

 そして街を襲い、たった一人の家族である父を喰い殺した巨大な[龍]。

 正体不明のその敵に敢然と立ち向かった鉄甲騎が、歴戦の勇士をその身に受け入れ、希代の技師である父の修理を受けたにも拘わらず、機関士不在のために敗れ去るのを目の当たりにした少年の心の内に、

 機関士になる――

 その思いがはっきりと、炎の如く湧き起こっていた。

 しかしそれは、少年の心の中で変化を遂げていた。

 二年の月日を通して膨れ上がった復讐心が、それを成せるかも知れない[力]を手にしたことにより、少年の誓いは歪んだ願望と化したのだ。

 あの戦いの中、死に物狂いでサクラブライに飛び乗り、その焔玉機関を起動させ、その上自らも一部の装備を駆使してウーゴを襲う脅威を払ったナランは、この手にした[力]ですぐにでも復讐を果たせると錯覚を起こしていたのかも知れない。

 現実は違う。

 サクラブライを着装し、戦ったのはモミジである。

 自分は、あくまで機関士として乗り込んだのだ。

 それを忘れた結果が、あの試験に於ける醜態あると云えよう。

「機関士長の言うとおりだ……僕には、機関士の資格はない……」

 ゼットスとの戦いから湧き上がり続けていた自信が全て消え失せていた。

 ――私は、あなたの乗り物じゃありません!

 機関室に響いたモミジの言葉が、不意に思い出された。

「謝らなきゃ……モミジさんに……」

 その気持ちとはうらはらに、ナランは寝台に潜り込んだ。

 唯一の生き甲斐であった復讐心すら、消えてしまいそうだった。

 このまま、本当にカラッポになりそうだった。

「謝らなきゃ……」

 繰り返しつぶやいていた。

 もう、寝返りは打たなかった。



「……何で、あんな事言っちゃったんでしょう」

 寄宿先の天幕――

 練兵場から逃げるように戻ってきたモミジは、その片隅に、まるで自らの巨体を隠すように蹲っていた。

 その姿は、ドルトフが感じたように、惨めとも哀れとも云えた。

「こんな事……こんな思いは、初めてです……」

 先の評価試験に於ける、自分がしたこと、そして叫んだ言葉を思い返し、膝を抱える腕に力が入る。

 巨人であるという存在が故に、ヒトとの交流を深めるにあたり、自分たちへの恐怖心を与えないように、何事にも極力、身を引くように暮らしてきたモミジにとって、[叫び]という形で他人に感情をぶつけるのは生まれて初めての事だった。

 もう二度と纏いたくない鎧に長時間閉じ込められ、少年に乗り物のように扱われた挙げ句、充填開放とか言う得体の知れない仕掛に翻弄されたことが引き金となり、これまで溜め込んでいたストレスを破裂させてしまった事は確かであり、その事に対する怒りは収まらない。

 だからといって、まだ幼さの残る少年に、怒鳴りつけて良いものではない筈だ。しかも、彼がまだ機関室に乗り込んだままの動力甲冑を、無造作に脱ぎ捨ててしまうなど……

 モミジの脳裏に、仰向けに倒れたサクラブライの機関室から這い出てきた、ナランの顔が思い出される。その身に何が起きたのかを理解しきれていない少年の、生気を失ったその表情が、何度も心に浮かび上がる。

 巨人である自分が、背中にいる、小さな少年に向けて本気で怒鳴ったのだ。どうにかならない筈はない。

「ナランさん……あの子は大丈夫でしょうか……」

 今更心配になるが、確かめに行く気は起きなかった。

 もしかしたら、怖いのかも知れない。

 試験の最中、ナランが狂ったように叫んだ言葉が不意に思い出された。

 ――これで、この力で……仇を討てる!

 まるで、この少年の生きる意味全てが込められているようだ。

「やっぱり、誰か大切な人を殺されたんでしょうか……」

 ――その仇は、私やあの鎧がなければ勝てないほど、強いのでしょうか。

 モミジには、想像することも出来ない。

 そも、成り行きとは云え、激戦の中、一度は〈背中を預けた〉少年の事を、モミジは何ひとつ知らなかった。

 結局、知る機会を最後まで得られなかったのだ。

 あるいは、自分で放棄したのかも知れない。

「やっぱり、あの子とお話ししたい……」

 戦い終わり、モミジの手の中で、人懐っこい笑みを見せたナラン。

 機関室の中、力に酔いしれ、興奮するナラン。

 そして、何もかも失ったかのように呆然となるナラン……

 同じ少年とは思えない。

 ――話さなきゃいけない……

 そんな気がした。

 ――せめて、山に帰る前に……

 帰る前に、せめて怒鳴ったことだけでもナランに謝らなければと思った。

 ……思っただけかも知れない。


 そんな時だった。

「入るぞい」

 一言断わりを入れつつ天幕に入ってきたアリームは、しょんぼり縮こまる巨体を見上げて呆れながらも、モミジに話し掛ける。

「……まぁ、あんまり気にせん方がええ。砦の者から聞いたが、少年も、怪我はないということじゃ……」

 ナランも落ち込んでいる、と云う話は出さなかった。

 ――良かった……

 そう思ったモミジではあるが、顔を上げることはなかった。

 そんなモミジに向け、アリームは言葉を続ける。

「そうじゃ……今夜、下町でウライバのお姫様を囲んでの、ささやかな宴があるから、嬢ちゃんも来るといい。もしかしたら、あの少年とも話をする機会も出来るじゃろうからな……」



「[宴]……ですか、じゃなくて、ご、ございますか!? 王女殿下……」

(おおやけ)の場じゃないんだから、そんなに畏まらなくても良くってよ?」

 ウーゴ砦、兵舎の食堂――

 ウライバ王族突然の[行幸]に上を下への大騒ぎとなる職員を余所に、これまた唐突に食堂の角に連れ込まれたプロイは、セレイを連れ、いきなり友達感覚で話し掛ける王女殿下に困惑する。

 ミレイは今、作務衣姿であった。

 セレイが城で良く見る、絹の羽織と、王族の印である額飾りがなければとても王女殿下とは思えない格好は、〈慰霊の宴〉の夜、勲章を授けたときに初めて目の当たりにした、彩り美しく着飾った姿の女性と同一人物とは思えないほどの変化である。

 あの夜、少女が目の当たりにした王族としての――庶民にとっては、神々しいとも云える威光に加え、慈悲深き微笑を湛えていた姿とは打って変わり、ニコニコとした、それでいて妙に勢いのある、まるで、[近所のお姉さんが遊びに来た]ような……今のミレイは、プロイにそんな感覚を見せていた。

 ――この人、本当に王女殿下なのかしら……

 記憶の中でそれぞれの王女殿下を比較したプロイは、同じ顔を持ちながらも、全く違う姿を見せるミレイにますます困惑する。 

「姫様、それ、お忍びの[お茶会]じゃなかったっけ……」

「……その筈だったんだけど、どこかで話が漏れて、下町での[宴]に化けたみたいなのよ」

 一国の王女であるミレイに対し、渾名感覚で[姫様]呼ばわりし、まるで年上の友人と接する感覚のセレイを不思議な気持ちで見つめるプロイ。

 やがて、話は勝手に進み、気が付くとプロイは、遠慮、躊躇しつつもミレイに話し掛けていた。

「あの姫……様?」

「ん? 何かしら」

 ようやく[殿下]ではなく[姫様]と呼ばれた(本当は名前で呼んで欲しいのだが)ことに気を良くして気さくに返事をするミレイに、やはりまだ遠慮がちにプロイが尋ねた。

「……ナランも……誘っていいですか?」

「もちろんよ!……妾からも、お願いしますわ?」

 笑みを湛えたミレイの返事を受けたプロイは、ようやくこちらも笑顔になった。

 その後、三人は旧知の仲のように、和やかな歓談を続けた。

 そこには、身分も種族もなかった。

 そして、食堂の隅で姫君と給仕、そして異形の少女が繰り広げる[ひそひそ話]を、他の職員は遠巻きに、不思議そうに眺めていた。



 夕方――

 この日は浮かぶ雲も少なく、見事なまでの満月が既に顔を出していた。

 ウーゴ市街の南側、所謂、下町と呼ばれる地域の西側にある〈テンジン通り商店街〉を、ウーゴ砦方向からウライバ方向へ向け、様々な店が建ち並ぶ路地の出口近く、北に曲がった突き当たりに広がる広場を中心に、その[宴]は催されることになった。

 広場は、〈テンジン(やしろ)〉と呼ばれる小さな社殿の境内にある。

 このささやかな(やしろ)の縁起、由来は不明であるが、その歴史はウーゴが村であった頃の時代まで遡ると言われ、現在も商店街の守り神として崇め奉られており、また、広場と隣接する社務所は商店街の集会所として使用されている。

 祭神は土着の神〈アシャーナ・ウル〉と呼ばれる女神を中心としているが、実の所は不明であり、現在は正体不明の御神体を中心に、リダーヤ、アーリ神を除き、ナム教の仏像をはじめ、様々な神仏像や札などが奉納されている。



 商店街の人混みをかき分けながら、プロイとナランがようやくの思いで辿り着いた広場には、信じられないほどの大人数が集まっていた。その殆どは下町の庶民であるが、一部、見慣れない風体のものや、場違いな礼服を纏うものも見えるところから、おそらくは外国の商人か下級の貴族、その付き人、雇われた人足なども、滅多に見られぬ貴人目当てに訪れたのだろう。

 貴賎上下関係なく人が行き交うこの場は、まるで縁日の賑わいであった。


「何で……僕まで」

「ほら、こっちよ!」

 ごった返す人の渦から抜け出したナランは、呟きを無視して手を握るプロイに引きずられて広場の中央へと向かう。商店街の人々は、一躍英雄となった二人を見つけると、歓声を上げつつ道を空ける。

 一時の英雄というものは、何時かは忘れ去られる身と云われるものだが、それが(少なくともプロイは)この下町の出身であり、また、年端もいかぬ子供であると云うことも印象に強く残るため、セレイを加えた三人は、良くも悪くも、当分は有名人のままであろう。

「ちょっと、恥ずかしいね……」

 顔を紅く染め、人々に向けて控えめに手を振りながら呟くプロイ。それに対しナランは、評価試験終了からずっと浮かない顔をしていた。英雄として祭り上げられた少年にとって、自分に対する賛美の声も、今となっては罵声のそれに等しかった。

 早く寝床に戻りたかった。


 そも、この少年は自身が呟いたとおり、好んで人混みの中にいるのではない。

 試験の後、意気阻喪のナランは[機械になりきる]事すら出来ずに日の高い内から不貞寝していたところを、夕方、プロイに無理矢理引きずり出されたのだ。

「どうせ、許可なんか下りない」

 強引に誘うプロイにそう言ったにも拘わらず、気が付くと、こんなところまで連れ出されていた。なんの咎めも受けずにである。

 ちなみに、プロイは評価試験で起きた出来事を知らない。試験内容ならびにその結果は極秘とされ、箝口令まで敷かれたのだ。

 それでもこの少女は、これまでになく落ち込み、「……謝りたい」と呟き続けるナランを見て、それが少年にとって良からぬ結果であったことは察することが出来た。だからこそ、彼に元気を取り戻す切っ掛けを与えたかったのだ。


「遅いよ、二人とも!」

 人々の渦の中、広場で待っていたのは、セレイとミレイである。

 二人がいる広間の真ん中には、申し訳程度に円卓と椅子が並べられているが、それらは一時的な物の置き場や、休憩などに使われる程度あり、また、そのうち小綺麗な物は王女のために開けられてはいるが、ミレイもまた、民と同じように、椅子に座ることはなかった。

「早く来ないと、人でごった返すって言ったじゃない……」

 文句を言うセレイは相変わらず伝令の制服、ミレイは先程と同じ作務衣姿で、静かな微笑を湛えて二人を迎えていた。

 元よりこのツバサビトの少女は、制服以外の服は持ち合わせておらず、ミレイは、復興作業視察の為に動きやすい作務衣のままである。

 無論、それはナランとプロイも同じであった。

 そも、不意に開かれる形となったこの[宴]において、晴れ着などの準備をしているものなど一人もいないであろう。

「ごめん、ナランを連れ出すのに、苦労したのよ……」

 そう言ってプロイは、沈み込むナランの腕を引っ張り寄せる。

「やっぱり、許可を得るのは難しかったのですか?」

 申し訳なさそうな声を出すミレイに、プロイは(かぶり)を振る。

「いえ、そんなことは……」

 実の所、許可は簡単に下りた。プロイの申し出に、イバンは、

「臨戦態勢は解けたんだ。むしろ、気晴らしにはいい」

 と、希望者全員に許可を与え、ナランを連れ出すことに対しては、ドルージも、

「……別に何かの罰を与えたわけじゃねぇ」

 などと素っ気なく返した。

 ただ、仕事が多いとして、イバンとドルージは、[宴]には参加はしないとのことである。

「仕事にしては、大隊長もおじいちゃんも、執務室じゃなくて応接室にいましたけど。あと、料理長と給仕長がお酒を運んでいたような……」

「そう言えば、シディカ姉様は?」

「副隊長なら、後から来るって」

 セレイの言葉に、にんまりとした笑みを見せるミレイだが、

「最初は興味なさげだったけど、モミジも来るって言ったら、シディカ様喜んでいたよ」

 と、続いたとたん、

「もう、姉様ったら、研究のことになると、すぐに妾の事を放ってしまうのだから……」

 不機嫌になるものの、どうやらミレイは、シディカにとってモミジはあくまで研究対象であると、考えるようにしているようだ。その通りではあるが。

「……ひぃ、やっと抜けたわい」

「年寄りには、辛うございます……」

 人混みを抜け、アリームがムジーフを伴い現われた。

 アリームはミレイの姿を見るや、膝を折り、辞儀をする。

「これはミレイ・レイ・ウライバ殿下……この度は、斯様な[宴]にお招きいただき、この老体、感激至極に……」

 ミレイは恭しく跪くアリームの手を取り、その場に立たせる。

「アリーム殿? 今宵は無礼講ゆえ、そのような礼儀は不要です」

 そう言ってミレイは、群衆にワザと見えるよう、額に付けた王族の印である飾りを外し、今度は人々に向けて、[宴]の始まりを宣言する。

「皆、今宵は生まれも身分も忘れましょう!」

 直後、歓声があたりを包んだ。

「乾杯!」

 人々が手に手に杯を掲げ、ぶつけ合い、地元で愛される乳白色の醸造酒や、ほのかなピンク色に染まる蒸留酒、西方の葡萄酒や発泡酒、はては自家製どぶろくまで、様々な酒を混ぜ合わせるが如く酌み交わす。

 やがて程よく回った酔いは、人々の心を和ませ、あるいは高揚させ、先日までの苦労を忘れたかのように、談笑に花を咲かせる。しかし、それは時に心を乱れさせ、荒れさせ、果ては大目に見て貰えない行いとなることもあるのだが……

 気が付くと、誰かが自発的に楽器を鳴らしていた。

 その楽曲と音色は、あるところでは伝統の管楽器や太鼓、三味線や月琴のような撥弦楽器などと云った地域的なものから、西方からもたらされた鍵盤式の気鳴楽器や蛇腹楽器、または弓を用いた擦弦楽器と云ったもの、果ては心象具現化や電気機械による変わり種まで奏でられた。

 やがてそれらが自然に纏まり、一つの合奏として統合され、それに合わせて人々により唄が歌われ、舞が舞われる。

 商店街もかなりの被害を受けてはいたが、それでも[宴]のために店を開き、店舗を失ったものも、屋台を出して盛り上げる。

 その種類は多岐にわたり、定番の飲食から宝飾品、玩具、占いなど、様々な店舗が軒を並べていた。

 人々はそれらを買い求め、ひとときの贅沢を楽しんでいた。

 これはもはや[宴]ではなく、[祭]と言っても過言ではない。


 正直なところ、主催者であるはずのミレイはこの状況に困惑していた。

 宮中に於ける詩歌管弦とは明らかに異なる音楽、その中に混ざる雑多の声、色取り取りの派手な灯籠……

 王女殿下にとって、見るもの聞くものすべてが珍しく、嬉しさの前に戸惑いが生じていた。

「お茶会がささやかな[宴]に化けて、その上こんなに派手に……いったい、何処でどうしてこのようなことに……」

「さて、ワシにもトンとわからんわい……」

 そう言って周囲を見渡すアリームの後ろで「白々しいですぞ」呟くムジーフの言葉は、ミレイには届いていなかったようだ。

「それに、戦勝慰霊祭が終わったばかりだというのに、街の者たちは良く、これだけ盛り上がれるわね……」

「祭なんてものは、長いところは一週間くらい続くじゃろから、二日くらいでは満足せんじゃろ。こんな機会を与えてもらって、みんな大はしゃぎじゃ」

 感心するミレイに、アリームが無礼講を良いことに砕けた口調で説明するが、

「に、しても……まだ腐っとるのか、少年は」

 この喧噪の中、ナランの心は未だ、沈み込んでいた。

「もう、せっかくみんなが盛り上がってるんだから、ナランも元気だしなよ」

「ナラン、お昼も食べてないでしょ?……これを食べて?」

 セレイが両手の羽毛で肩を叩き、プロイが沢山買い求めた屋台料理の中から、角煮の器を箸と共に差し出す。

 ――食べたくない。

 そう言いかけたナランではあるが、昼食を得られなかった育ち盛りの空腹な体は正直なもので、気持ちとはうらはらに器を受け取り、無意識に箸で脂身を取り分け、口に運ぶ。プリプリした白い塊は柔らかく、口溶けの良い食感に食欲を刺激され、残った肉をあっという間に平らげる。

 無論、これで食欲は収まらないが、それを素直に伝えることはない。

「お代わり、如何かしら?」

 察したミレイに問われ、思わず、それでいて小さく頷くナラン。

「そう言えば、モミジさんとダンジュウさんは?」

 炊きたての湯気を立てる、焼き飯の皿をナランに渡しつつ、プロイが辺りを見回しながら、アリームに尋ねる。

「……この人混みじゃからな、入り口のところで足止めを喰らっておるよ」

 アリームが指さす方を見ると、建物の屋根越しに紅い髪を持つ頭頂部が見えた。その場を動く気配は全く見られない。おそらくは動きたくとも動けない、と云った方が正しいのだろう。

 その様子を見たプロイが残念そうに呟く。

「私、まだ、ちゃんとお礼を言ってないから……」


 プロイは、未だモミジと話をしたことがない。

 戦勝慰霊祭の夜――

 助けられた礼を言うため、セレイと共にモミジの元に行ったことは行ったのだが、物怖じせずに話し掛けるツバサビトの少女と違い、給仕娘は、躊躇し、一言のお礼と共に、頭を下げるのが精一杯であった。

 それは、モミジの巨体を見上げて萎縮したのも無くは無いが、やはりモミジがナランに向ける表情が気になり、意識しすぎてしまったためであろうか。

 その時、モミジが自分に向けた笑みを見たプロイは、複雑な心境だった。

 モミジが笑みとともに向けた、巨大な赤く丸い瞳を、直視することが出来なかったのだ。

 だが、モミジは砦、そして街を救った英雄である。まして、機械の[蜘蛛猿]から助けてもらったと言うこともある。

 ――今度こそ、ちゃんとしたお礼を言わなきゃ……

 その上で、モミジの気持ちを確かめたかった。

 モミジは、ナランのことをどう、思っているのか……


 セレイが先に焦れた。

「ちょっと、様子見てくるね?」

 そう言ってその場で跳躍、人の背を飛び越したところで翼を広げ、頭上を滑空するセレイではあるが……

「え?……なんか、目立っちゃった?」

 その姿を見た人々に突然喝采の声と拍手を贈られ、驚く。

 実際、照明と月光に照らされた、赤茶と白の羽を持つ翼人の、可愛らしくも美しく空を舞う姿は、人々には羽衣を纏った舞踊に見えた。

 人々の予想外の反応に気を良くしたセレイは、目的を忘れて人々の頭上を飛び回り、挙げ句、奏でられる楽器の音と皆が歌う声に合わせて空を舞い、更なる拍手を誘った。

 ――そう言えば、ちゃんと飛んだのは、何日ぶりだろ……

 セレイは、久しぶりに自由な翼を満喫した。


「プロイったら、すぐ調子に乗るんだから……」

 我を忘れて空を跳び回るセレイにプロイが呆れ、ミレイやアリームも人々同様拍手で讃える中、ナランはモミジの名前に反応していた。

 思わず呟く。

「……そうだ、謝らなきゃ」

 その瞬間、ナランは何かに取り付かれたように、モミジがいる方向に歩いていく。それは一見、気の抜けた緩やかな動きであったが、確実にこの場を離れようとしていた。

「ちょっと、ナラン、待って……」

 それを見たプロイは追いかけようとするものの、両手に抱えた屋台料理が邪魔となり、追うことが出来なかった。

 そんなプロイを余所に、ナランは歩みを早め、気が付くと、人混みの中に隠れてしまっていた。



「……私、あの子に謝らなきゃいけないのに」

 広場の程近く――

 足下の人混みに困惑するモミジは、どうにか宴の場所まで向かおうとするものの、自らの巨体が足枷となり、思うように進めなかった。その上で、英雄サクラブライの[中の巨人]を目の当たりにした人々は道を空けるどころか、いっそう集まり、歓声で迎える。これではどうすることも出来ない。

「いっそ、跨いでしまえばいいのではないか?」

 イズルの装束に虎革の陣羽織、邪魔にならないよう、腰の太刀を背中に背負い、相変わらずも図々しく、モミジの右肩の上に背中の方からしがみつく形で陣取るダンジュウの言葉に、

「そ、そんなこと出来るわけないじゃないですか」

 そう言って、腰布の前後を両手で押さえながら困惑するモミジだが、

「お主この前、俺を追いかけて人混みを飛び越していたよな?」

 と、意地悪な笑みを浮かべる武辺者の態度に、

「こんな時にからかわないで下さい!」

 と、ふくれた顔を見せる。

 そうは言っても、もはや本当に飛び越さなければ先に進めそうになかった。

 前を見ると、人々の頭上で、戦勝慰霊祭の夜に、プロイという女の子と共に、自分に助けられた礼を言いに来たツバサビトの少女セレイが、舞うように飛び回り、喝采を浴びていた。


 その姿はまるで、御伽噺の妖精か……

 あるいは、伝説の国から迷い出た天使か……


 赤茶色の翼を広げる少女の姿は軽やかで、可愛らしく、綺麗だった。

 無駄に人混みの中で立ち往生する自分の巨体と比べて、自由だった。

 羨ましいと思った。

「私も、空を飛べたら……」

 ――誰かを踏んでしまう心配しなくていいのに。



「もう、ナランったら、落ち込んでいても、後先考えないで動くんだから……」

 ナランのために持ってきた筈のモツ煮や豚肉の串焼きを結局自分で自棄食いする羽目になったプロイではあったが、気が付くと、その姿を、ミレイが何故か、興味深く眺めていた。

「ひ、姫!?」

 貴人に一挙一動を観察され、慌てて口元を拭くプロイは、先程からミレイが何も食べていないことにようやく気付いた。

「姫様は、その……何か召し上がらないのですか?」

 その問いに、ミレイは、困惑の表情を見せる。

「妾は、このような場所で宴など……立ち食いなど、初めてだから、どう立ち振る舞えば良いのかわからなくて……」

 それを聞いたプロイは、慰霊祭に於ける、王族として着飾ったミレイを思い出した。王女殿下として宴に臨んだ姫様は、あくまで貴人として扱われ、民と接することなく貴賓席に収まっており、あるいは精々、一部の将校やアリームなどの商人としか話をする機会が得られていなかったのだ。しかもそれは、自分から声を掛けるのではなく、その殆どが侍従を通しての会話であった。

 そんな状態であるわけだから、当然、兵卒や庶民が口にしていた屋台料理など、許されるわけはない。

 ――母君の言うことはもっともとは思う……

 滅私奉公と云う言葉がある通り、王族たるもの、時に[私]を捨て、時に[公]に徹しなければならないと、母であるミトナ王妃殿下は云った。それが、王族という特別な地位に生まれついてしまったものの運命であると、王女殿下としてのミレイは、王城での一件で、それをより強く、心に刻むことになった。

 しかし……

 ――私は、もっと民の近くにいたい……

 その時、ミレイが感じたことである。

 これでも、相当控えめな表現である。

 母の言葉にも強い理解は示しているものの、それを素直に受け入れるには、その心は未熟であった。

 今回催された宴は、そんな鬱憤を晴らすために考えたと言っても間違いではなかった。

 ミレイにとって、本来、その日に機会を得ることが出来なかったプロイやナランを交えた茶会のつもりでいたのではあるが、母ミトナより許可を引き出す為には、[救国の英雄との懇談]と言う名目を付け、アリームやダンジュウ、そしてモミジを巻き込む必要があった。

 それがこのような[宴]、いや、[祭]に発展するとは、誰が予想したであろうか。

 これはある意味、ミレイがセレイから聞かされ、憧れていた[民の祭]を実体験できる機会に恵まれ、結果オーライなのであるが、いざ、その場に立ってみると、何をどうすればよいのか、まるでわからない。

 これまで王城でも[無礼講]による宴は経験してきものの、その中にも守るべき礼儀はあり、ミレイが見てきたそれは、その最低範囲内に収まった宴会である。よって、このような西方の立食形式とも違う布衣之交の屋台料理に対して、どのような[礼儀作法]で望めばよいのか、見当すら付かなかったのだ。

 ――姫様はもしかして……

 何かに気付き、その上で笑顔に戻ったプロイは、ミレイに揚げ菓子をひとつ、包み紙ごと差し出した。それは、小麦の生地を複雑な輪の形に揚げて、砂糖の舎利別(シロップ)に付け込んだものであった。彩りのある菓子を見慣れたミトナにとっては別段特別なものではないが、庶民にとっては祭の日にしか口に出来ない馳走である。

 プロイは同じ菓子をもう一つ手にすると、そのまま円の上部を齧る。

「お行儀なんて気にしないで、直接齧り付いてしまえばいいんです。私たちも『お行儀良くしなさい』って、言われますが、お祭りの日は、気にしなくていいんですよ」

そう言われ、ミレイは一瞬躊躇いながらも、プロイと同じように、揚げ菓子にそのままかぶりつく。

「甘い……」

 それは、ミレイが初めて知る、素朴な甘さだった。同時に、程良く揚がった小麦のサクサクした生地と、固まった舎利別(シロップ)の歯触りが何とも言えない感触を与えてくれる。

 だからといって、珍しい味ではない。

 食感も、別段初めて体験するものではない。

 それでも、ミレイは新鮮な気持ちで菓子を味わう。

 王妃ミトナの方針もあり、厳格な仕付けの中に暮らすミレイにとって、菓子の味だけではなく、このような食べ方ひとつ取っても、今宵の全てが初めての体験であった。

 プロイと――民と同じような仕草で食したという事実が、ミレイの心を刺激し、興奮させ、そして……

「セレイには感謝してもしきれませんわ……妾がこのような体験をするのも、其方と出会えたのも、みんなあの子のおかげ……」

 半分ほど齧った菓子を手に、空を自由に飛ぶセレイを見上げるミレイは、どことなくうれしそうではあるが、寂しそうでもある。

「妾は、どうせなら庶民の子に生まれたかった……今、この時は余計にそれを感じますわ?」

 その言葉と溜め息は、王女殿下と傅かれた少女の素直な気持ちであった。

 そしてそれは、プロイが先程ミレイに感じたことでもあった。

「私は……姫様は、凄く手の届かない人だと思っていました。この前の表彰式なんかも、前に立っただけで緊張しちゃったし……」

 プロイにとって見れば、ミレイは雲上人に他ならず、それが今、現実に目の前に居て、自分と話をしていることが、未だに信じられないくらいである。

 そのミレイが……自分たちにとって神々しくあらせられ、決して交わることのないと思われた高貴の存在が、よもや、庶民の生活に憧れ、羨ましがるなど、想像もしていなかったことであった。

「[お姫さま]って、物語の中で、綺麗な服を着て、舞踏会で踊ったり、龍に攫われたり、知らない土地を冒険したりする姿ばかり思い浮かべていましたから……私にとっては、手の届かないものだと思っていました……」

 思わず口にしたプロイの言葉を聞いたミレイは、ふと、思いついた。

「では、プロイ、[お姫様]になってみませんこと?」



「すいません、先に進みたいんです!」

 宴の喧噪の中、プロイ、ミレイと別れたナランは、騒ぎ、踊り狂う人々をかき分けながら、モミジのいるであろう場所を目指して進む。

 一向に進めなかった。

 それでも、ナランは前へと進んだ。

 ――謝らなきゃ!

 沈み、落ち込みながらも、一度動いたら、止まれなかった。

 止まれなかった。


「ちょっと、通ります……」

 意を決したモミジは控えめに、ゆっくりと脚を持ち上げ、人の波を避けられそうな場所へと踏み出す。その行動で、巨人の少女が先に進みたいのだ、と、ようやく気付いた人々は、一斉に道を空けた。

「皆さん、ごめんなさい……」

 申し訳なさそうな表情を浮かべ、足下に注意しながら進み始めたモミジではあったが、目指す広場に目を向けると、視界に飛び込んできたのは、人々の注目を集める、美しい衣で着飾った少女の姿だった。



 社務所――

「ほら……少々、丈が長いかも知れないけど、思った通り、お似合いよ」

 ミレイは、持参していた自分の衣装をプロイに着せ、簡単ながらも宝飾品で飾り立てた。

「これが……私?」

 その場で回り、姿見に映る姿が本当に自分かどうかを何度も確かめる。

 本来、王族のみに許される、朱や黄などの五色に彩られた、幾重にも重なる前袷の絹の衣に包まれ、金銀宝飾で飾られた自分を姿見に映し、魅入るプロイであった。

 それでいて、今までの自分とはまるで別人のような花枝招展の姿に、今まで感じたことのない、全身にまとわりつく、すべすべとした絹の着心地同様、戸惑いを隠せない。

 ついで、綾羅錦繍は幾重もの布が擦れ、歩きにくい。

 慣れない故に[みっともない歩き方]をしてしまうプロイの脳裏に浮かんだのは、[馬子にも衣装]の故事である。

「さ、皆が待っているわ……[姫様]?」

 作務衣を纏う[本物の姫君]に誘われ、[仮初めの姫君]は、その姿を人々に見せる。

 軒先を借りていた社務所から姿を現わした、清麗髙雅な少女を目の当たりにした人々はしばし響めき、そして惜しみない喝采を浴びせた。その光景に、当のプロイは、緊張と恥ずかしさで顔を真っ赤に染めていた。

「西方や我がトバンとは、また違った趣ですなぁ……」

 ムジーフが感嘆の声を上げる隣では、

「……これではどっちが殿下かわからんワイ」

 と、プロイの器量を褒めているのか、ミレイに呆れているのかわからないような感想を呟くアリーム。

「ほう……何処か、故郷の姫君にも似た感じだ……」

 肩の上から眺めていたダンジュウまでもが感嘆の声を上げる中、モミジも、その姿に見とれていた。

「いいなぁ……」

 ――私じゃ、あんな着物は着られないし、似合わないだろうなぁ……

 モミジは、母から足下が見えない服を着てはいけない、と、常々言われ続けてきた。当然、人を踏みつけたり蹴ったりしないように、とのことであるが、これまで山岳民族に囲まれての生活だったこともあり、特に気にしたことがなかった。

 都会に来て、初めて見た[お姫様]を見ても、それを羨ましいとは感じなかった。自分に勲章を授けてくれた王妃殿下はやはり遠い存在で、プロイ以上に憧れそのものを抱くという発想が無かったからだ。

 しかし、目の前の[お姫様]は違っていた。

 その小柄な身体で、可愛らしい少女が、ツバサビトの少女と共に、遠慮し、躊躇しながら、それでいて丁寧に、深々と頭を下げてお礼を言ったことをモミジは思い出したのだ。

「小さくて可愛いと、ああいう着物も、似合うんですね……」

 初めて人の服を羨ましいと思った。

 ――かあさまも、あの子を見たら羨ましいと思うのでしょうか……

 突然の拍手喝采に何が起きたか今だ理解しきれず、呆然と佇む[姫君]を目の当たりにしたモミジが、もっと近くで見ようと広場に向かうべく、一歩踏み出したその時、

 ドシン!――

「うわっ!!」

 自分の踏み下ろした足音と共に聞こえた悲鳴に、モミジは裾を押さえつつ、慌てて脚を引っ込める。

「ごめんなさい! だ、大丈夫ですか!?」

 足下に目を向けると、そこには、尻餅をつき、巨大な少女を呆然と見上げるナランの姿があった。

「…………」

「…………」

 ナランとモミジ――

 互いに会うことを求めていたはずの二人は、ここに来て、互いに掛ける言葉を失っていた。


 そんな中……

「プロイだけずるい!」

 目的を忘れた上に、群衆の注目を奪われ、ふて腐れたセレイが屋根の上から眺めているとき、不意に寒気のようなものに襲われた。

「……嫌な感じ」

 セレイは、空に不気味な気配を感じ取った。


 不穏な気配を感じ取ったのは、セレイだけではない。

「……モミジ」

 足下にいるナランを見つめるモミジに、ダンジュウが耳元で囁く。

「空に、面妖なものが居やがる……」

「え?」

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