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禍津鰐《メガロドン》──深層の目覚め  作者: 麦野ライト


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第8話 政府会議⑥ ──封鎖工法の選定

囮を作るという方針を打ち出した議長の言葉に、海洋工学の知多が、少し体に力を入れた後、ためらいがちに手を挙げた。


「……あの…、呼びたい人がいるんですが…」


知多の声に、議長が聞き返す。


「このタイミングで君が進言するということは、ドローンの操縦者かね?」


「…はい…そうです」


一度息を吸い込み、知多が早口で話し出す。


「……水中ドローンではないんですが、競技の場で知り合った、友人…です。とにかく空間認識能力が高くて、コース選びが芸術的なんです ──」


放っておけば競技について語り出しそうな知多に、議長が本丸を聞き出す。


「つまり、囮を任せたいという事でいいのか?」


「…です」


「良かろう。君の推薦を信じよう。君は囮ドローンの改造に加え、必要なら封印側で活躍してもらう」


「…分かりました」


「作戦の詳細を話し合う前に一つ確認したい。黒影に、睡眠のような隙の出来る時間帯はあると思うかね?」


議長の視線が、鳥井教授と海洋生物学の稲垣に向けられる。


「そもそもホホジロザメタイプのサメは動きを止められません。脳が片側ずつ寝てるっていう論文もありますが、まだ証明できたやつはいません。“隙”って意味では期待しない方がいいですね」


稲垣は背もたれに体を預けたまま、左手を椅子の後ろに投げ出し、右手をひらひらとさせ、否定する。


稲垣が言い終えた事を確認し、教授が言葉を足す。


「加えて、閉鎖された海域が光が届かぬ空間であった可能性もある。その場合は目も退化しているだろうし、こちらの時間感覚で推し量る事は出来ないだろうね」


教授の返答を受け、議長が全体に語りかける。


「囮に関しては、知多君に任せる。友人を呼び、一緒にドローンの改造を進めてくれ。期限は明朝だ。その間、我々は封印について話そう。今後、作戦名を“ヨモツヒラサカ作戦”と呼称する」


作戦名を聞いた瞬間、知多の目が輝き、地質学者の白井がメガネのフレームを触る。


「では、亀裂の封鎖方法について意見を聞かせてくれ」


「黄泉の国の封印ですね」


白井が少し前のめりに聞き返す。


「そうだ。閉ざされた海域の事は、今後黄泉の国と呼称する事としよう」


進展と沈黙を繰り返して来た会議室の中でも、とりわけ静かな語り口だった白井が少し楽しそうに口元を緩める様子に、周囲に多少困惑の色が見える。


黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)ならば岩…と言いたい所ですが、コンクリートは使えないでしょうか」


海底の写真や地形図ばかり見ていた白井が、珍しく前を向いて意見を出す。


海底ケーブルの事で呼ばれた総務省通信局の担当者が、手を挙げて答えた。


「海の中で敷設するコンクリートは存在します。幸いここは、大きな港湾をいくつも抱える静岡県ですので、専門家もすぐに招集できるはずです」


議長が周りを見渡す。


「他に案はあるか?」


海自の担当者が手を挙げる。


「岩の設置は難しいですし、砂利で埋められるサイズでもありません。簡易的な柵などで止められるような質量でもない。コンクリートで厚みと強度が出せるというのであれば、それが最適だと考えます。懸念点としては、固まるまで待ってくれるかどうか、でしょうか」


稲垣が手をひらひらさせる。


「その点は問題ないでしょう。完全に塞げりゃあ、サメには固まっているかどうかなんて関係ない。音も匂いも遮断されているなら、やつらにとってはただの“壁”です。通路じゃない。教授の言うように目が見えないとしたら、なおさらですよ」


議長の表情が決意に変わる。


「では、至急専門家に確認を入れてくれ。工事可能であるなら、専門家と業者を招集し、コンクリートでの封鎖一本でいく。我々に許されたあと1日という時間では複数案を並行する余力はない。それ以上はマスコミを抑える事も、経済活動を止める事も不可能だ。


また、世間は君たちのような物分かりのいい者ばかりではない。古代ザメの存在が知れ渡れば、必ず、大きな混乱は起きる。被害が拡大する前に、必ず明日ケリをつけるぞ」


言い切ると同時に、竹製の万年筆をカツンと机に置いた。

参加者に希望の色が映るのを確認した議長は後を続ける。


「人と情報が出揃うまで、2時間の休憩とする。夕食も摂っておいてくれ。

知多君は囮の操縦者の招集と、ドローンの手配を頼む。必要な物はここにいる秘書に頼んでくれ」


知多が恐る恐る手を半ばまで挙げ、議長がそれに気づく。


「知多君、どうした?」


「……あ、あの…。海洋土木…でしたら…僕の会社に……以前、事前調査の依頼をしてくださった所…を紹介できる…かもしれません…。…えっと……かなり実績のある会社で…その……うちの会社からの紹介だと…話が早い…と思います……」


「そうか、助かる。連絡先も、そこの秘書に共有してくれ」


男性秘書が知多の元へ行き、知多は秘書を目を合わせないままスマホを操作して、画面を秘書に見せる。


「では、解散してくれ。集合はキリ良く20:00だ」


知多と秘書が会話をする中、出席者達は疎らに解散し始め、稲垣が議長の元へ歩いて行った。


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