第27話 帝都はやっぱり嫌いだ!①
昨日はさんざんな目にあった。マジで死ぬかと思った。
今日は、そんなのはもうさんざんだからな。さっさと目的の調味料を買って帰るとしよう。市場に行けばあるのかな?
そんなことを、思っていたのに......
「おい、こっちにこい! この犯罪者が!」
手錠がかけられた自分の腕を見て、カインは叫んだ。
「どうしてこうなったぁぁ!!!」
「うるさいぞ、お前!」
ーーーー遡ること2時間前、俺は市場へと徒歩で向かっていた。
もうそろそろ着く、そんな時だった。
「ちょっと、君。カイン・アルフレッドくんだね。こちらに来てもらえるかな?」
「? はあ...」
戸惑いつつも言う通りについて行った。
周りの視線が痛かったが、よくわからない。この人達は、一体何者なんだ? もしかしてっ、誘拐とか?
「ここでいい」
そこは、昨日通りかかった路地裏であった。そのまま全く同じ場所だった。
そこでその人たちが取り出した魔宝具を、こちらへ向ける。
「すまないが、君の手をここにかざしてはもらえないだろうか?」
「構いませんよ」
この時、俺は気軽に宝具へと触ってしまった。今でも、少しは疑問に思うべきだった。
晴れた瞬間、魔宝具はキラキラと光出す。
「こっ、これはっ!」
「何これ?」
唖然とした俺の腕を掴み、その男は言った。
「現在、9時38分52秒! 容疑者確保!」
「......は?」
「大人しくしろ!」
いやなになに、何が起こってんの?
「って、やめろ!」
「じっとしていなさい!」
俺の手首に、魔宝具の一種である手錠をかける。
何が起こっているのか全く理解できずに立ち尽くす俺を、男達はぐいぐいと引っ張っていく。
「この馬車に乗れ!」
「はっ......はぁぁぁ?!!!!!ーーーー
てな訳で、今は薄汚い拘置所にいる。なぜ捕まえられたのかも、教えてはもらえなかった。
「はぁ、これいつまで続くんだよ...」
「おい、お前。呼び出しだ。出ろ」
牢を出て、言われた通りに進むと、一つの扉が見える。
「次は何だよ」とか思いつつ、ゆっくりと開くと、そこには...
「そこに座れ」
「いや取り調べ室かよ」
「いいから早く座れぇ!」
俺が座ると、前の男は話し始めた。
「では、まずは君の罪状からだ。"帝国憲法第二条三項:帝国内での魔法の使用及び使用未遂"だ。心当たりはあるか?」
「魔法の使用? そんなの......あっ」
もしかして、昨日の夜のやつ、か? おいおいマジかよ。俺、人助けしただけだぞ?
「あるようだな。ということは、罪を認めるってことでいいな?」
「ちょっと待ってください! 確かに使ったかもしれないけど、それは襲われてる人を助けるためで...」
「そんなのは信じられない。それに、もし助けるためであったとしても、魔法の使用は過剰防衛だ。認められない」
「そっ、そんな...だって、その悪い人たちも魔法を使ったんですよ! そんなの、こっちも使うしかないでしょ!」
ここで犯罪者になるわけには、いかないっ。俺の快適なスローライフが、瞬く間に崩れ落ちてしまう!
そんなの、絶対勘弁だ。嫌だ!
「そう、なのか? 確かに、相手が先に魔法を使ったというなら、話は変わってくるが...」
「そうでしょ! そうでしょ!」
検査官の顔が、少し怪訝になった。きっと、俺の話を聞いて、少しずつ傾いてるんだ。いけるぞ!
検査官は一度隣の魔宝具を使った。
数分後、俺のことを捕まえた人が部屋へと入ってきた。何やら話しているようだ。
軽く耳打ちをすると、その男はそそくさと戻っていった。こちらを、睨みつけながら。
「...おい、貴様。検査で嘘をつくと、どうなるかは知っているな?」
「いえ、知りませんけど」
「公務執行妨害にあたる。刑罰は、さらに重くなる。そして、さっき貴様は"相手が魔法を使った"と言ったな?」
「はい」
なんだ、この雰囲気は? 急に怖くなったんですけど...
「今、聞いた話によると、その場で検出された魔力は、全て貴様のものだけだったようだ。他に、魔法を使った者がいる痕跡はなかった、と」
「...はえ?」
なっ、なんでーー
「貴様、私に嘘をついたな! 追加で罪状を書かせてもらおう、いいな!」
「はぁ?! えっ、ちょっ、嘘でしょ?」
そうだ、そうだそうだ! 『水神と庭園』なんて魔法使ったせいで、なぜかあいつの魔法が発動しなかったんだ!
こっ、これは、まずい!!
「以上だ! さっさと戻れ!」
「待って、俺は、本当にーーーー
最後まで言わせてすらもらえず、後ろの男に抱えられて、牢へと戻されてしまったのだった。
そう、最悪の状況の中で、弁明もできずに。
「どぉしよぉーーーー!」
俺、もしかして本当に捕まっちゃうんじゃ。
家族は、ラナは、どう思うんだろうか。やっぱり、失望する、のかな。俺の帰る場所は、もう、なくなってしまうんだろうか。
怖い。寒い。嫌だ。
俺の人生、どうなっちゃうんだろう...。
一日後。
「はぁ...」
あれから、何もない。質素なご飯が配られたが、まずいし冷たいし、さんざんだ。
そんなことを思っていると、外から声がかかった。
「ーーねぇ、君。ちょっとお話ししなぁい?」
「...いえ、遠慮しておきます」
それに、早く、ここを出なければっ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カインが捕まった二日後の夜、家族に届いたある通知に、その家族は騒然とした。
「何、これ...」
「お母さん、どうしたの?」
お母さんは、顔を青ざめて立ち尽くしていた。
なんでかはわからないけど。なぜか、嫌な予感しか、しなかった。
おにぃちゃんは、三日前から帝都に行っているという。正直、寂しすぎてわたしも行きたいけど、それはダメらしい。
お母さんが落とした紙を拾って読んでみる。
「なになに......」
ーーそこに書かれていたのは、"逮捕状"の、三文字だった。
おにい、ちゃん、のだ。
「嘘、だろ、おい。カインが...」
「おにぃちゃん、おにぃちゃん...おにい、ちゃんが...いっ、いやっ、いやだ、待ってよ、おにぃちゃん......お兄ちゃん、だけは、いなくなっちゃ、わたし......っ...」
「うそ...」
おにぃちゃんが、そんなことするわけない。あんなに優しくって、かっこいいお兄ちゃんは、絶対に。
でも、もし本当にいなくなっちゃったら、わたしは、一体どうすれば......
世界で、一番大好きな人が、一番大切な人が、いない。そんな世界に、耐えられるのかな。




