第35話 決戦前夜
ベティたちが去ったすぐ後、コーヒーの入ったカップを一つだけ持ったティンクルがキュートの部屋に入って来た。
「お母さん。コーヒー持ってきたよ」
「ふふっ、ありがとね~」
キュートはコーヒーと一緒に持ってきた大量の角砂糖をコーヒーの中に放り込む。数が十個になったところでスプーンを手にしてかき混ぜる。
「あの女はどうだったの?」
「とりあえずは敵じゃないよ。ただ、面白いことを話してくれたわ〜」
話したくてうずうずしていたキュートはティンクルの疑問に食い気味に反応した。
「あの子ねぇ、魔法が使えるってさ。それも、実験の産物とかじゃなくて先天性のものだって~」
「…ん、うん?」
キュートの発言に眉を寄せながら、信じてなさそうな曖昧な相槌を打つ。
「うんそうだよね?にわかには信じがたいかもしれないけどさ、言ってたのよ~。彼女別の世界から来ててそこでは超能力的なものが当たり前だって言うの。ほんとよ~?」
キュートが付け足したことによりさらに不信感を抱いたティンクルは怪訝そうに尋ねる。
「それを、信じてって言うの?」
「しょうがないでしょ。本当に言ってたんだよ?私の技術を疑ってるの~?おかぁさん悲しいわぁ」
「そういうワケじゃ…」
ティンクルが回答に戸惑っていると、コーヒーを飲み干したキュートがゆっくりと立ち上がる。
「とりあえず、あの子は大丈夫~。しっかりと私たちのために働いてくれる。それだけは確かよ~。ティンクルには彼女たちと一緒に敵を殺してねぇ~」
キュートは不敵な笑みながらティンクルに空のカップを手渡してから部屋の外へと出ていった。
「…ふふふ~んっ。新キングリーパーの総指揮長…ベティ・ジャッタリー、ねぇ。ふふっ、楽しみだわ~。ま、今のボスよりベティちゃんのような子のほうが華はあるわよね~。ま、もし私の家族に牙を向けたら…フフッ」
キュートは鼻歌混じりでそんな独り言をつぶやきながらスキップで廊下を抜けていった。
◇◇◇
「くそっ!今夜動くハズだったのに…!」
キラードライブの隠れ家にて、一人の男がボロボロの机をダンッと叩きながら悪態をついた。
「あいつが…ルールーがいなければ俺らの計画が進まねぇんだよ」
ビリーとの戦闘で水中に沈められたルールーのことを待っているキラードライブのボスはイライラの感情を近くの物にぶつける。
「…ボス、もうの襲撃は止めるんすか?」
「そうするわけにはいかねぇ。威力偵察でちょっかいをかけた。ここらで先手を打たねぇと向こうに攻められる」
ボスはぐるぐると部屋中を落ち着きなく歩き回っていた。
「ルールー無しで進めるしかない」
「そう言うことだ。俺らはキラードライブを七大国家にするためにここまでやったんだ、ここまでやってきたんだ。引けねぇ…やるしかねぇんだよ!」
ボスは苦渋の決断だったが、作戦の続行をメンバーたちに伝えた。
「まぁ…どこまでもついて行くっすよ」
メンバーの一人が言ったその言葉に連鎖して部屋にいるメンバーたちが一斉に声をあげて騒ぎ出す。
そんな時だった。扉を勢いよく開ける音がメンバーたちの歓声を突き破る。その瞬間メンバーたちの顔に驚きと困惑、そして喜びが同時に浮かんだ。
「…少し、待って、くだ…さい」
結束力が強まったところで一人の女性がやってきた。首から血が流れている、ずぶ濡れの女性だった。
「っ!?ルールー!?」
部屋に入ってきた女性…ルールーは近くに置いてある机の上に腰をかけて息を大きく吸った。
ビリーとの戦闘で生死の境で彷徨っていたルールーは痛む体を無理やり動かそうとしながらボスに近づく。
「死に、かけました。多大なご迷惑を…おかけ、しましたね…」
声を発することさえ苦しそうなルールーがゆっくりと頭を下げる。
「通常通り…私が作戦の指示を…任せてください、必ず成功させます…。ただ、少し休まさせてほしいです」
机の上に寝転び腕や足が机の外にダラン垂らしながら、枯れた声で言って目を閉じた。
「…フフッ。き、希望が見えてきたぞ…!」
欠けたピースが揃ったことにボスは勝ちを確信して思わず笑みをこぼした。それは他のメンバーも同様だ。
「おめぇらも、明日に備えろ!キラードライブの全て懸けた戦争が始まるぞ!」
ボスはもう一度メンバーを鼓舞するように拳を掲げた。




