二千四年九月十五日・3
なんとなく化け猫が頬を舐めてくるような連想させる名前の化舌駅のホームに、私は降りる。改札を出ると、周囲よりも一際大きな背の男性が私の前へ来た。
水城先輩。私よりも首二つは高い背丈。私の手では両手を使っても回りきらないほど太い二の腕。石版のようにごつごつとした胸板。贅肉の一切ない脚。大木のように、威厳に溢れる見まもり方をしてくれる。……嗚呼、水城先輩だ。私の彼氏の水城先輩だ。
しかし今は、感傷に浸っている場合ではない。
「私よりも先に来てたんですね。待たせてごめんなさい」
「いや、今日の朝は、俺が待たせたから、お相子」
「……そうですね」
思わずくすっと笑った。お相子。どっちもどっち。相手に負担を掛けない、私の好きな言葉。まさか水城先輩から聴ける日がこようとは。
「さっそくで悪いのですが、鍵を貸してもらえるでしょうか」
私がそう言うと、水城先輩は無言で胸元にぶら下げてあるネックレスをはずす。私は人差指程度の長さの鍵を受け取って、箱に刺す。第一関節ぐらい差し込んだところでぐりっと九十度回転。カチン、と。解錠する感触が、私の手のひら全体にじんわりと広がった。
空いた箱には――さらに鍵が入っていた。
「…………」
また謎解きか。やはりというか、同封されている手紙があった。読んでみる。
『やっぱりこの子供が彼氏なのか。お兄ちゃん、どうしようかと思ったぞ。
それはさておき、今度のヒント。
一九九六年九月二十一日に、俺とユキがした会話』
私の体感的に、一九九六年九月二十一日は、つい今さっきまでだ。そんなに重要な話をした? 私は必至なって思い出す。兄と私がした雑談なんてそれこそ、菜瀧高校で学校見学した時以来だ、か、ら――ああ、そういうことか。あれは、兄の仕業だったのか。
「なんなんだ、それ?」
水城先輩の、して当たり前な質問。私が持っている手紙を覗き込む。
「これですか。死んだ私の兄が、残した手紙です」
「……遺言」
「まあ似たようなものです。それより水城先輩。七不思議が一つ、『開かずのロッカー』については、もちろん知ってますよね?」
手紙と七不思議になんの関係があるのかと水城先輩は首を捻ったが、その話題を出すと、途端に水城先輩はきらきらと目を輝かせる。その目は、丸っこい子供の顔から厳つい大人の顔に変貌しているのに、全く変わらないものだった。
「十年以上前に、起きた自殺の、証拠を隠してるって、あれのこと?」
「今の私なら、あの鍵を取り付けた人間に、勝てるかもしれません」
なにせ今の私は、酷く頭に血が上っている。これ以上ないくらい、燃え上がっている。
兄め。私に喧嘩を売ってただで済むと思うなよ。私は小学生の頃、負けず嫌いな性格だったということを、知らないとは言わせないぞ。




