産廃に宿った意志
――生まれて初めて名前を呼ばれたのは、十歳のときだった。
「お前、名前は?」
「……ない」
「じゃあ、今日から“リシア”だ」
粗末な服、空っぽの孤児院。
使い捨ての命に名を与えることなど、誰にとっても意味のないことだった。
でもそのとき、自分は確かに“人間”になれた気がした。
そう思った。そう――思っていた。
でも、それは違った。
リシア・ヴェルン。
この身体には、生まれた瞬間から“役割”が決まっていた。
名もなく捨てられた孤児じゃない。
軍の裏で生み出された、戦闘用の強化素体。
魔導科学と禁術の産物。廃棄対象。
殺す手間も惜しまれて、孤児院という“ゴミ箱”に放り込まれた存在。
知らなかった。誰も教えてくれなかった。
そして――この身体に、異世界から転生してきた男の意識が宿ったのは偶然だった。
死んだはずの俺は、気づけばこの世界にいた。
異様な身体能力、冷たい眼差し、美しい少女の姿。
すべてが、“俺”とはかけ離れていた。
だが、それでいい。
感情は邪魔だ。信頼も、愛情も。
すべてが“効率”に勝るとは限らない。
俺は生きる。使われる前に、使う側に回る。
この身体、この才能、この異質さ。すべてを武器に――
戦場で、成り上がってやる。
“リシア・ヴェルン”として。