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紅き軍靴は少女に微笑む  作者: フローレンス
1章 大戦のはじまり
12/63

境界線

帝都・中央軍大学附属士官予備課程。

 精鋭たちの集う学舎に、リシア・ヴェルンは戻ってきた。


 制服に身を包み、整列する若者たちの中で、彼女の姿はすぐに目を引いた。

 その理由は、階級章でも成績でもない。


 ――彼女だけが、既に“命のやりとり”を経験していた。


 


「リシア・ヴェルン、戦地任務帰還後の復学か……」


「前線に出されたって聞いた。やっぱ“例の特別適性”ってやつ?」


「怖いな……あの目、兵士っていうより……犬が首輪外れたみたい」


 


 そんな噂が囁かれる。

 だが、それ以上に響くのは――


 


「でもさ、彼女が指揮して、7人中5人生還って、本物じゃないか?」


「あの任務でそれは異常だよ。数字だけなら候補生でトップだよ、もう」


 


 尊敬と畏怖。

 理解ではなく、“距離”で形成された感情。


 


 リシアは、自分が浮いていることに気づいていた。

 だが、孤立しているとは思っていなかった。


 


(彼らには“死の匂い”がない。それは責めるべきことではない。

 ただ、私は……それを知っているというだけ)


 その夜、リシアはひとり、士官学校の図書室で戦術書を読みながら思った。


 


(ここで私は“浮いて”いる。だが、排除されてはいない。

 ならば――この立場を利用する)


 


(現場を知る者として、知識だけの者たちを“導く”ことはできる。

 そのためには、“人間らしさ”すら戦術の一部になる)


 


 リシア・ヴェルン。

 戦場を知る下士官候補生として、士官課程の中で“異物”として存在を刻み始める。



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