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紅き軍靴は少女に微笑む  作者: フローレンス
1章 大戦のはじまり
13/68

通達

中央軍第三参謀室。


 古びた書類棚と、魔導記録水晶が並ぶ一室で、リシアは呼び出しを受けた。


 


「リシア・ヴェルン。貴殿は前線戦闘任務において臨機応変な戦術判断を行い、

 小隊を統率のもとに帰還させたことにより、下士官資格の正規取得をここに認定する」


 


 係官が金属の小さな徽章を差し出した。

 中央に剣と翼が刻まれた**「帝国正規軍・曹長補」**の徽章。


 


「本来は卒業後に授与される階級だが、特例適用とする。

 今後は“候補生”でありながら、“戦地経験者としての下士官の権限”も持ち合わせることになる。……期待しているよ、“特例者”」


 


 その目にあったのは、評価ではなく“観察”だった。

 だがリシアはそれを受け入れる。


 


 徽章を握りしめながら、思った。


 


(私は、戦場で“兵士”になった。

 ならここでは、“士官として生きる術”を学ぶ)


 


 それは、選ばれた者ではない――**努力の果てに認められた“立場”**だった。


 その夜。

 静かな校舎の中、リシアは図書室でひとり戦術書を読みながら思っていた。


 


(ここで私は“浮いて”いる。だが、排除されてはいない。

 ならば――この立場を利用する)


 


(現場を知る者として、知識だけの者たちを導くことはできる。

 そのためには、“人間らしさ”すら戦術の一部になる)


 


 そのとき、背後から声がした。


 


「……ヴェルン。久しぶり」


 


 金髪に翡翠の瞳――治癒魔術師、ティア・ノエルだった。


 


「どうだった、戦場?」


「血は温かかった。死体は重かった。

 それ以外に、言葉は必要か?」


「……そのままだね。君、変わったようで変わってない」


 


 ティアの微笑みの奥に、どこか哀しみがあった。


 


「でも、変わるよ。君みたいに“壊れずに”見てしまう人は、

 “壊れること”を知らないから、いつか――自分を疑うことになる」


 


 その言葉が、なぜか胸に残った。


 リシア・ヴェルン。

 帝国軍曹長補。

 下士官でも士官でもない、境界に立つ異物。


 


 その名が、この士官学校に――そして帝国に、

 新たな“選択肢”として刻まれ始めていた。



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