祝賀会の始まり
レネには、誰が味方で誰が敵かはわからない。
だか、直ぐに気がついた。
挨拶に沢山の人が訪れるが、メイナードかレネを紹介する時に、王女エミリーローズと、私の天使エミリーローズを使い分けていることを。
いらない分け方だが、非常に分かりやすい説明であった。
外務大臣、国務大臣、軍司令官、そうそうたるメンバーが王太子派だとわかる。
名前と顔を覚えなくっちゃ、とレネは特徴を頭の中で繰り返す。
だが、兄の味方がレネの味方とは限らない事をレネは知っている。
自分も認めてもらうには、どうしたらいいかもわからない。
そして、デモア大使の挨拶を受けて、王女エミリーローズとメイナードは紹介する。
レネやトウゴ伯爵の事件は機密であるため、デモア大使もエミリーローズ王女がデモア王国でレネと呼ばれていた事を知らない。
メイナードにとって、デモア王国は味方ではない、そう言われたようでレネは少なからずのショックを受ける。
和平条約が締結されたとはいえ、長い間の対戦国だ、簡単にはいかない。
ハヴェイに来てから、レネはジルディークに手紙を書いたが、ジルディークからの返事はない。
大使から、少しでも情報を得られないかと思うが、メイナードが横にいるので迂闊に聞けない。
メイナードがレネの手を取り、フロアーの中央に歩み出ると音楽が始まる。
初めての舞踏会。
レネの心臓はバクバクだ。
「エミリーローズ、僕を見て。 大丈夫だから」
うわ、王子様に言われたら血吐いちゃうようなセリフだ。
レネは兄の顔を見て、王子様だったと思いなおす。
「上手だよ。もっと僕に身体を預けて」
ハイハイ、了解です、とレネはもう踏んでも知らないから、と足元を見ていた顔をあげる。
メイナードは、レネに微笑みながらも視線は絶えず動いている。
その先にいるのは、オーランド。
レネにはわからないが、メイナードはオーランドの強い視線を感じるらしい。
レネは、周り中からの視線を浴びて、それどころではない。
婚約者のいない王家の兄妹。
王家では、子供時代隠蔽されて育つ。
赤い瞳を隠す為に、感情を押さえれるようになるまで、公の場には出て来ない。
だから、エミリーローズ王女が長らく離宮に隠されていても、不思議がられる事はない。
王太子のメイナードに婚約者がいないのは不思議だが、メイナード自身がレネに説明していた。
王が用意する婚約者候補は、側室の親戚筋ばかりであったこと。
大臣を味方に付け、それを阻止していたので婚約者はいない。
しばらくはエミリーローズがパートナーだ。
嬉しそうにメイナードが言うのを、仕方ないと思うしかなかった。
レネもオーランドが気になる。
敵対関係にあるようだが、命の危険があるなら、側室とオーランドであろう、気にするなと言う方が無理である。
向こうから仕掛けてくるのを待つなんて、じれったい。
こっちから何とか出来ないかしら?
早く、ジルディーク様に会いに行きたいのに。
やる気満々のレネである。
「お兄様」
レネに話しかけられて、メイナードが、どうした?という顔をする。
「私を囮にしてくださいませ」
メイナードのステップが乱れそうになる。
周りにはそれを悟らせず、体制を立て直し、メイナードがレネを強い瞳で見る。
「絶対にダメだからな」
「いい案だと思うの」
「エミリーローズに何かあったら、今度は母上の心臓が止まる」
母親を出されると、レネも諦めるしかない。
曲が終わると、レネはメイナードに手を取られて壇上に上がっていく。
そこには、王と王妃が椅子に座り、ホールも見ていた。
そこに用意された王太子と王女の椅子に座ると、メイナードが皮肉をこめて言う。
「見かけだけは、まるで家族ですね」
クスッと笑って応えたのは王妃で、王は言葉を発しない。




