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紅く燃えて瞳は夢をみる  作者: violet
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アマディ

深夜のユレイア公爵家で、動く影が一つ。


ジルディークの部屋を荒らすように、男が暗い部屋の中で何かを探している。

誰もが寝静まっているはずだった。

ユレイア公爵と、ジルディークは王宮に泊まる事も多く、今夜も会議後の処理で帰宅できない、と連絡が入っていた。



「探し物は見つかったか?」

突然の声に、男は振り返った。

「アマディ」

呼ばれて、男はナイフを振りかざす。


ガン!!

ナイフを弾き飛ばされて、男は逃げようとするのを取り押さえられる。

「ここまで、落ちぶれたか。

兄上にお前から目を離すなと言われていたんだ」


部屋に灯りが灯されると、二人の男の姿がはっきりした。

取り押さえられたアマディと、取り押さえたゲイル。

「ここには、ハヴェイ訪問団の帰国ルートの地図はない。

兄上の罠だ、お前を探る為に、置いてあるように言っていたのだ」

極秘ルートを公爵邸の私室になど置くはずないが、ジルディークは自室で仕事をする事もあるので信じたのだろう。


「ミズーリ侯爵家に手紙を届けさせたのも、お前だろう?

令嬢に危機感を煽らせて、兄上から離れないように。 逆効果になったがな」

ゲイルは、手際よくアマディを縛り上げる。


物音で駆けつけて来た侍従に、用意してあった手紙を王宮のユレイア公爵に届けるように指示をする。



ハヴェイ王国の一団がデモア王宮に滞在しているのは隠しようがなかった。

和平を望む穏健派ばかりではない。 戦争を望み、暴利を狙う者達の動きが活発になっていることが報告されていた。

そして、ユレイア公爵家三男に接触があった事も。


「兄上、僕が探していたのはそんな物ではありませんよ。

そんなに僕が邪魔なんですか」

「そうだな、兄上の部屋に忍び込んだからと言っても、罪にはなるほどの証拠にはならない。

だが、父上と兄上の仕掛けた罠にかかった、それだけでユレイア公爵家として見過ごす事は出来ない。

わかるだろう?」

ハヴェイ王国と和平条約締結は、宿願であったのだ。

その交渉使節団を、帰路で襲うなど国家反逆である。


そこに弟が加担していたなど、情けなくて涙がこぼれそうだ。

17歳の学生であるアマディが、不穏分子に狙われたのはユレイア公爵家から情報を得るためであろう。


ゲイルが言葉を出す前に、アマディが吐き捨てるようにジルディークを(ののし)った。

「長男に生まれただけで公爵の地位も、王太子の側近もレネも手に入れる!

ずるいじゃないか!」

「兄上はずっと努力してきた。お前だって知っているだろう?」

ゲイルは(さと)すようにアマディに話しかける。

「僕はもっと努力したさ!!

でも手に入れることは出来ないんだ!」


「アマディ」

ゲイルは、捕縛の騎士が到着する前に、自分が弟を楽にしてやった方がいいのでは、と誘惑にかられる。

アマディの知る情報は少ないかもしれない、だが反抗勢力を潰す機会でもあるのだ。


兄と弟、二人の心を奪ったレネ、いやエミリーローズ王女。

ユレイア公爵家は、粛正をせねばならない。

原因は、エミリーローズ王女だ。

アマディは、不穏分子からの接触に、王女を望んだのだろう。

アマディのした事は、兄の書室に忍び込んだだけだ。

軽い気持ちだったのかもしれない、バレても罪に問われないだろうという甘い考え。


父は弟を許さないだろう。

公爵家からは放逐。 国家反逆罪という処罰になるのだろう。

母の悲しむ顔が想像出来る。



近くで馬車の音がする。

アマディを迎えに来た軍用馬車だろう、ゲイルはアマディを立たせると玄関に向かった。


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