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無謀な戦い

4話の続き

見えるだけで、百はいる。


黒い獣の群れが、大地を揺らしながら迫ってくる。


一人で捌き切れる数ではない。


ましてや今のアタルは、まともな戦士ですらない。


それでも。


「……やるしかない」


静かに息を吐く。


右手を前へ掲げた。掌にマナが集束していく。


自分の内側に眠るマナ。


そして空間中に漂う自然マナ。


二つを強引に圧縮し、一点へ収束させる。


青白い光が灯った。


「――誘導魔法《魔導灯火ウィル・オブ・ルクス》」


瞬間。


空中へ放たれた光球が、夜空を裂くように輝く。


魔物たちの視線が、一斉にそちらへ向いた。


咆哮。群れの進行方向が変わる。


アタルのいる畑へと殺到していく。


これで村人たちが直接襲われることはない。


だが。


「――ッ、は……!」


喉が焼ける。肺が軋む。


口元から血が零れ落ちた。


強引なマナ操作。元々弱い身体。


そして重い喘息。


たった一つ魔法を使っただけで、身体が悲鳴を上げていた。


「久々、だな……」


戦うのは。前世とは違う。


この身体での戦闘は初めてだ。


しかも相手は未知の魔物。


魔法も数回が限界。


だが。


「……知能は低い」


魔物たちは統率もなく、ただ一直線に突っ込んでくる。


千年前の魔族より遥かに粗暴だ。


なら、まだやれる。


氷結魔法フロスト


地面が凍りつく。


先頭の魔物たちの脚が一瞬止まった。


だが。


「……効いてないか」


次の瞬間には氷を砕きながら再び突っ込んでくる。


魔力不足。威力が足りない。


アタルは舌を噛みそうになるのを堪えながら、鍬を握り直した。


迫る牙。振り下ろされる前脚。


視える。


身体が動く。自然と。


まるで何百回も経験した動きのように。


少ない手数でやりきるしかない。


「アルマ《再演リプレイ》」


前世で使っていたルクスの固有能力。


視界が変わる。


脳裏に刻まれた戦闘経験が蘇る。


千年前。


数え切れないほど見てきた剣士たち。


戦士たち。


魔族たち。


その動きを、完全再現できる。


アタルの身体が滑るように踏み込む。


鍬の柄で魔物の顎を打ち上げる。


体勢が崩れた瞬間。


首元へ叩き込む。


骨が砕けた。


一体。


だが止まらない。


次。


横から迫る牙。


身を屈める。


そのまま足払い。


転倒。


踏み砕く。


二体。


三体。


前世で見た戦いを、アタルは再演していた。


槍術。


格闘。


重心移動。


最小限の動き。


本来なら今の身体で出来るはずのない技術。


だが。


再演リプレイはそれを可能にする。


最初は順調だった。それでも。


「……ッ!」


限界は近い。


呼吸が乱れる。肺が焼ける。


視界が霞む。数が多すぎる。


倒しても倒しても終わらない。


魔物が押し寄せる。


「はぁ……っ、は……!」


膝が震え始める。


まずい。身体が持たない。


気づいたときには遅かった。


「ぐっ…!」


魔物の突進をもろに喰らってしまった。



全身の骨が砕ける音がする。


そのまま吹っ飛ばされたアタルは立てなかった。


「このままじゃ…踏み潰されて死ぬ」


「動け…!僕の身体…!」


等に限界だったアタルの身体は動かなかった。


魔物が無慈悲にも突っ込んでくる。


その瞬間だった。


「お兄ちゃんをいじめるな!!」


聞き覚えのある声。


アタルの瞳が見開かれる。


「……フィナ!?」


そこにいたのは、妹だった。


父と一緒に逃げたはずのフィナが、泣きながら桑を持ってこちらへ走ってきていた。


「なんで来たんだ!!」



フィナの存在に気づいた魔物たちが、一斉に視線を向ける。


まずい。


「逃げろ!!」


だが遅かった。


一体の魔物が、フィナへ進行方向を変える。


「やめろ…」


その光景を見た瞬間。脳裏に蘇る。


血。


仲間の死。届かなかった手。


守れなかった命。


また失うのか。


「――ぁ……」


身体が硬直する。


恐怖。絶望。


トラウマ。


呼吸が止まる。


だが。


その瞬間。


フィナの声が聞こえた。


「お兄ちゃん……!」


震えるその声で。


アタルの意識が現実へ引き戻される。


違う。


今は、あの時じゃない。


まだ間に合う。


守れるんだ。


「アルマ」


静かに呟く。


全身のマナが暴走する。


血管が軋む。


本来、この身体では耐えられない。


前世とは違うもう一つの力。


瞬間。


世界が、止まった。


 


視界が鮮明になる。


身体が軽い。千年前の感覚。


地面が砕ける。


アタルの姿が消えた。


次の瞬間。


フィナへ迫っていた魔物が、真っ二つになっていた。


「え……?」


見えなかった。


ただ。


黒い閃光だけが駆け抜ける。


魔物が次々と吹き飛ぶ。


圧倒的だった。


先ほどまで追い詰められていた少年とは思えない。


まるで。本物の化け物。


だが。


「――ッ、ぁぁぁ!!」


全身が悲鳴を上げる。


血が噴き出す。


限界を超えた身体が崩壊しかけていた。


そして。


その時間は、あまりにも短かった。


「……ッ!」


力が切れる。


膝から崩れ落ちる。


吐血。呼吸ができない。


視界が赤く染まる。


それでもアタルは、震える腕でフィナを抱き寄せた。


「……無事、か……」


「ぁぁぁぁ!お兄ちゃん!!」


魔物はまだ数体残っている。


でも。もう動けない。


遠くで、怒号が聞こえる。


もうダメだ。そう思った。


その時。


剣戟。


馬の音。


そして


銀の鎧を纏った騎士たちが雪崩れ込んできた。


剣閃。魔法。


圧倒的な連携で魔物を制圧していく。


やがて制圧を終えると、その中心にいた騎士団長らしき男が息を呑んだ。


畑の中央。


そこに倒れていたのは、一人の少年と少女。


その周囲には、大量の魔物の死体。


「……おい、嘘だろ」


騎士の一人が呟く。


「この数を一人で抑えていたのか……?」


アタルの父や母、村人たちが必死に助けを求めていたからこそ、到着できた。



もしあと少し遅れていたら。


少年は確実に死んでいた。


騎士団長は静かにアタルを見る。


血塗れ。


息も絶え絶え。


なのに。


最後まで妹を庇うように抱きしめていた。


「騎士様…お兄ちゃんを助けて…」


そう泣きながら助けを求める妹。


その場にいた誰もが状況に理解できなかった。

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