表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

プロローグ‐始まり‐

3作品目です!

まだ別の作品すらまともに投稿できてないのに

やれるのかよって思うかもしれませんが頑張ります。

「今度こそは…」


馬車の窓から空を見る。


青く、穏やかな空だった。


千年前とは違う。


血の匂いもしない。


誰かの悲鳴も聞こえない。


世界は平和だった。


少なくとも、表面上は。


拳を握る。細い指。


かつて世界を救った英雄のものとは思えないほど弱い身体。


全盛期の十分の一。それが今の僕だ。


アタル・アークライト 16歳。ルナリア村出身。

王都から遥か北方に位置する、小さな辺境の村。

そこの村息子として転生を果たした元英雄。


「今度こそ、間に合わせる」


脳裏に焼き付いて離れない。


倒れていった仲間たち。


最後まで信じてくれた人たち。


そして魔王の言葉。


静かに目を閉じる。


もう、逃げない。


もう、見失わない。


たとえ力が足りなくても。


たとえ、この身体が弱くても。


「誰も死なせない」


アタルは決意とともに、英雄学園エルディアスへ向かっていた。


……………

第一章『英雄とは』



時は、1000年前。


まだ歴史という言葉すら定まる以前。

大地と空と海が、ただ在ることだけで意味を持っていた頃。


世界は、静かに満ちていた。


目には見えず、しかし確かに存在する力――マナ。


それは命であり、呼吸であり、あらゆる存在の根幹を成す流れだった。


生まれるものすべてはマナを宿し、

死すればそれを世界へ還す。


流れは循環し、循環は均衡を生む。


本来、この世界は争いを必要としない構造の上にあった。


だが。


その均衡は、あまりにも脆かった。


この世界には、三つの系譜が存在していた。


人間。

短い生を繰り返し、数をもって繁栄する種族。

一人ひとりは脆弱でありながら、その増殖と適応によって生き延びてきた。


中立種族。

長命にして強大なマナ制御能力を持ち、均衡の維持を是とする者たち。

彼らは干渉を嫌い、常に傍観者であろうとした。


そして


魔族。

マナを糧とし、マナを喰らい、マナによってその存在を維持する種族。

その力は他種族を遥かに凌駕し、理の外側にあった。


均衡は、この三者によって成り立っていた。


人間は増え、世界に変化をもたらす。

中立種族はそれを抑え、過度な偏りを防ぐ。

魔族は余剰となったマナを消費し、流れを安定させる。


それは歪でありながら、確かに成立していた均衡だった。


だが、均衡は永遠ではない。


人間は、増えすぎた。


中立種族は、静観。


そして魔族は人間が増えたことにより飢えた。


マナは有限である。


それは誰もが知る、絶対の理。


だがその有限という現実は、種族ごとに異なる形で牙を剥く。


魔族にとって、マナの枯渇は死を意味する。


緩やかな飢餓。

確実な消滅。


---


だから彼らは、選んだ。


---


奪うことを。


人間を。

都市を。

命を。


それは侵略ではなかった。


彼らにとっては生存そのものだったからだ。


だが、奪われる側にとって、それは紛れもなく戦争だった。



火は広がる。


小さな衝突はやがて大陸規模へと拡大し、

種族間の均衡は完全に崩壊した。


魔族は人を襲い、多くの血が流れる。


しかし、中立種族は当初干渉しなかった。

それが彼らの役割だったからだ。


だが、世界の流れそのものが歪み始めたとき、

彼らもまた選択を迫られる。


そして時は流れ、

歴史はひとつの名を刻む。


劣勢だった人間族に差し込んだ唯一の光。


後に英雄と呼ばれる、一人の人間。

名はレクス・ゼレクシア。


特別な血統ではない。

神に選ばれたわけでもない。


ただ、ほんのわずかに他者よりも強く。

ほんのわずかに、他者よりも諦めが悪かった。


彼は最前線に立ち続けた。


仲間を守るために。

仲間を失いながら。


それでもなお、前へと進み続けた。


やがて、戦局は動く。


中立種族の一部が、人間側へと介入したのだ。


それは均衡を保つためであり、

同時に世界の崩壊を防ぐための最後の選択だった。


劣勢だった局面は、急激に変化する。

人間が魔族を押し始めた。


しかし、魔族は引き下がることはなかった。

その頂点に立つすべてを束ねる王。

魔王の存在。その名はゼノ・ヴェルノクス。

魔族を率い、世界の歪みを正そうとする者。

彼の存在が魔族の支えとなっていた。


戦争は、終局へと向かう。


すべての因果が収束し、

すべての命が、その一点へと導かれる。


最終決戦。


無数の犠牲の上に成り立った、たった一つの機会。


そこに至るまでに、どれほどの命が消えたのか。

もはや数える者はいなかった。

最後に立っていたのはたった二人。


そして。


二つの影が、対峙する。


「よくぞここまでたどり着いた――人間よ」


静かに響く声。


世界そのものが語りかけてくるかのような重み。


レクスは、何も言わず剣を構える。


「……もはや、言葉はいらない」


魔王ゼノは、わずかに口元を緩めた。


「ここまで辿り着いたお前に、敬意を評そう」

「全力で応えようではないか」


空気が張り詰める。



「ああ」


レクスは、ただ一言だけ返す。


「ここで、お前を倒して終わらせる」


その瞬間。世界が、弾けた。


剣と剣が交錯する。


マナが奔流となってぶつかり合う。


大地が裂け、空が歪み、

そのすべてが戦場と化す。


斬撃。魔法。衝突。破壊。


すべてが、極限。


やがて。


魔王の声が響く。


「なぜだ」


一撃を受け止めながら。


「なぜ、この世の理に抗う――人間よ」


レクスの息は荒い。


全身が軋み、限界が近いことを告げている。



それでも。声を張り上げる。


「理だとか、秩序だとか……分かってる」

「それで世界が回ってることも、全部!」


剣を握る手に、力がこもる。


「でも、それで人が死ぬのを仕方ないで終わらせるなんて……僕にはできない!」


踏み込む。



「目の前で泣いてる人がいて、助けを求めてる人がいて」

「それを見捨てるのが正しいって言うなら!」


叫ぶ。


「そんな理も!秩序も!この世界の仕組みごと全ていらない!!」

「抗うよ……何度でも!」

「僕はもう、誰も死なせたくないんだ!!」


その一撃。


全てを乗せた、渾身の一突き。


剣が、魔王の心臓を貫く。


静寂。


そして。


「……見事だ」


魔王は、静かに笑い剣を落とした。


「その刃に宿る覚悟……確かに受け取った」

「守ろうとする意志――そこまで研ぎ澄ませたか」


かすれた声で、問う。


「……名は、何という」



レクスは答える。


「レクス…レクス・ゼレクシア」


魔王は、ゆっくりと頷いた。


「覚えておこう……人間よ」

「今回は、俺の負けだ」


だが、と続ける。


「お前が譲れぬ信念を持つように」

「俺にもまた、決して手放せぬものがある」


視線が、世界のどこか遠くを見る。


「何もできず静かに滅びゆく者たちを」

「マナに縛られ、生まれた時から終わりを定められた命を」


「その理不尽を、俺は否定する」


そして。


「この世界の仕組みそのものを壊す」

「流れも、均衡も、循環も……」

「すべてが誰かの犠牲で成り立つならそんなものは不要だ」


「俺は諦めない」


「この理が続く限り」

「俺は、何度でも蘇る」


静かに、笑う。


「さらばだレクス」

「次は……もう少し、マシな結末を見せてみろ」


その言葉を最後に。

魔王は、光となって消えた。



戦争は、終わった。


だが。

その言葉だけが。


深く、深く。

レクスの心に、残り続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ