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気まぐれな…大精霊




隼人は、村の広場で童女(わらべじょ)と向かい合い地べたに座り込んでは、棒切れでお絵描きに付き合っている。

(はた)から見れば、何ともほほえましい光景に映っていた事だろう。

童女(わらべじょ)は簡単な人形の絵を描くと、その中心を指し示す。


「お主ら、人族.魔物には体の中に魔石を抱えておろう。それに蓄えた魔力を練りあげ魔法の術で変換し、周囲の魔素.物質に影響を与え、火.水.土などもしくは植物まで変化させ魔法として使っているのが人族の使う魔法だろう」


隼人は、ちらりと童女を見る。

小学生なら四年生から五年生といった風貌の少女。喋りが妙にババ臭い。

魔法の手ほどきを快諾してくれたハイデルエスによって、精霊魔法の使い手として紹介されたのがこの少女だった。

村の中ほどにある井戸の脇で待っていると、この童女が近寄り隼人の近くに(かが)むと、おもむろに絵を描きだした。

最初は隼人も微笑ましい気持ちで眺めていると、


「なにを、ニヤついておる! 魔法の講義は始まっておるぞ。突っ立っていないで、この図を見よ!」


ぴしりと、小枝で隼人の向う(ずね)を叩いた。


「イテテッ! おまえが魔法使いの師範かよ。森の賢者様はどうした? お子様の子守りをやっている間はないんだけどな」


またピシリと(むち)うたれる。よく見ると、小枝でなくて固い竹の土根だ。固い根の節が、なんの構えもないと痛い。


「全く、人族のガキは見る目もないが、礼儀もわきまえておらんな。よく見ろ。お前の前に立って居る此の儂こそが大森林の英知をその頭脳に蓄え、その身の美しさに大森林のすべての者が恋焦()がれる美貌の持ち主、エリザベート様じゃ。特別にベティと読んでも構わぬぞ」


(…美貌の持ち主……くっっ、笑っちゃだめだ。…エルフは見た目と歳が合わないからな…森の賢者様には程遠いだろうが、せっかく魔法を教えてくれるというんだ。此処は、子供の見た目に騙されないように。礼節を弁えてと……ククッ)


「ピシリッ」隼人の気持ちを読んだのか、また(むち)うたれた。


「全く、しょうがない。此れも仕事だからお前の態度は気に入らんが、構わず講義を続けてやる」


「それで、エルフの使う精霊魔法とは、どう違うの? ベティちゃん」


ピシリと隼人の頭を叩く。隼人もいちいち叩かれるので全身に身体強化を施した。


「やはり、むかつく~っ やっぱり名前で呼ぶな! 師匠と呼ぶのじゃ。なんか、上から目線じゃのお~、お主」


そう言った童女は、下から見上げる。


「そもそもエルフは、魔石など持たんのだ。魔力の欠片さえ微塵(みじん)も備えておらん」

(えっ! 異世界に置いて魔力を持っていない? 人族なら魔法は、使えなくても多少の魔力は持っていると聞いたぞ)


「我らが、使うのは単なる『お願い』なのじゃ。我らは昔、森の緑から生まれたそうだ。今はしっかりとした肉体を持ち人の姿を保ってはいるが、元々は森の精霊として生まれ、様々な経過を経て今のような人の姿になった」


「人と精霊の間にいるような者よ」

「同じ精霊どうし、様々な精霊が呼びかけに応じて集まってくる」


「人から見れば、淡い光の粒程度にしか見えないと言うがの。我らから見ればそれぞれの特徴を備えた小人のように見えるのじゃ。とまあエルフの使う精霊魔法とは、こういったモノよ」


(どれ、森の賢者としての威厳(いげん)をちと見せつけておくかの。こんな小僧になめられても悔しいからな。炎の大精霊イムフリートにでも驚いてもらおうかの)


「隼人とか言ったの、火の精霊魔法じゃ、ヨーク見ておけ」


ベティは、空に手を広げると唱える様に精霊をよぶ。


「我の友たる偉大なる精霊の炎イムフリートよ。その潤んだ赤い瞳に我の心が映ろう。その赤い(うろこ)は、炎となりて業火を(まと)い、(あだ)名す者達を焼き尽くしておくれ。まずはその力を示し、視界を(さえぎ)るほどの扇の炎よ」

()でよ!」


(おうっ 中二病的、詠唱が必要ってわけね。一応、お願いの呪文か…)


「ポン!」いきおい、ポーズを取って空に突き出した五本の指の先にマッチで擦ったような炎が揺らめいた。広げた掌が扇のように。


(あれっ 視界を(さえぎ)るほどの扇形の業火って…………)


隼人は、空に向かって手を広げ、コメカミに汗を光らせる童女に目を向ける。


「…扇型の業火?…これっ?」


ベティは、更に手を突き出し、「出でよ!!」叫んでいる。コンロの火が、中火から大に切り替えた程度に炎の勢いは変わった。…その程度である。


(わが友、イムフリートよ。姿を現わせ)


ベティは、大精霊イムフリートに呼びかける。淡い黄色い光が現れると小さな姿へ形を変えてそれは現れた。イモリのような姿の小人。


「ベティちゃん、オイラ『イフス』と師匠イムフリート様は、エレナちゃんが、街に行くときに附いて行ったんだ。その時に面白い女の子がいてね、イムフリート様は、その子が気に入ったとかで、当分は、その子の周りで遊んでいるから、おいら『イフス』だけエルフの郷に返されたんだよ」


「オイラの業火の扇、すごいだろ。師匠の代わりにがんばったね。オイラ、ンジャ、今日は此処までマタね!」


光の玉に戻った炎の弟子イフスは飛び去っていく。


「……………」


「今日は、留守のようじゃ」


「えっ!?」


「だーかーら~っ! 炎の大精霊イムフリートは、どっかに行っちゃって留守なの~っ。五本も炎が付いたんだから、オンの字じゃ!!」


(イヤイヤ、それ戦いに使えないだろ)


隼人が、ジト目でベティに目線を送る。

「そういう時には、他の精霊に頼めばいいんじゃ! 火が留守なら水。さあ行くぞ」


井戸の側にいたことから、其処で魔法が使えるのかと隼人が思っていると、ベティは、村から見える岩山を指し示した。


「あの岩山に、聖なる水の湧き出る井戸があるのじゃ、其処に住まう精霊を友にし、おまえの味方になってもらえ」


隼人一人での足なら、さほどの距離でもなさそうだったが、童女のベティと共に足場の悪い岩山を歩くという事で、片道で半日、帰ってくる頃には陽も落ちる頃だろうという事だった。水や食料は、隼人の収納に入っていると言うと、その足ですぐに出発する事となった。


(やれやれっ)遠くに見える岩山が、魔法の習得の遠さに重なる思いで、思わず溜息が(こぼ)れる隼人だった。






其の頃、王都へと向かう小春たちの一行、早朝の出発の為に朝餉(あさげ)の支度にとりかかるガルフがいた。

朝陽が上り始めた東の空を何かの大軍が、黒い雲のように埋め尽くして、飛んで来るのに気が付いた。


「鳥か? いや先頭の奴は、ちとデカいな。ワイバーンの様だが珍しい。後に続くのは、ハゲワシの群れか」


エサを求めて旋回し探すでもなく、一直線に大森林の方角へとまるで渡り鳥のように三角の編隊を組んで飛んで来る。


(うむ、どこかへ移動の様だが、気が替わって襲ってくるともしれぬ。小春殿達を起こしておくか)


ガルフに起こされたウル.ソル.小春が、眼をこすりながら焚火の周りに集まってきた。小春は、アクビをしながら料理番のガルフに聞く。


「ガルちゃん今日の朝ごはんは、なーに?」

「うむ、芋のふかしたモノと焼いたシャケにしようと思うが、どうじゃな」


「ああっイヤイヤ、それ所ではなかったわい。ワイバーンを先頭に、剥げワシの群れがやって来ておるのじゃ。用心のために皆を起こした所じゃよ。飯は、奴らが通り過ぎてからじゃ」


「「ワイバーン!」」


三人の声が、重なる。

ウルとソルは、大空を飛ぶ危険な魔物の恐ろしさを知っている。その危険が身近に迫っている事への恐怖が、朝の眠気を吹き飛ばしてしまった。


「焼き鳥、おいしかったよね!!」


小春のなんとも頓珍漢な思いに、二人はたった今湧いた緊張感が吹き飛んでしまった。


「ワイバーンと聞いて、おいしそうと思うのは、小春ちゃんくらいのものだね。ハハハハッ。そういえば、収納のワイバーンのお肉も残り少なくなったな」


ソルが、収納袋を覗いてつい零してしまった。ガルフもつい、焼き鳥にすると手軽で美味しいモノだから、使い過ぎてしまったかと思いあたっていた。

しかし、そのソルのワイバーンの肉が少なくなったと聞いて、たまらなく慌てる少女達が、約二名。お肉大好きなウルと小春だった。


「大変だよ! お肉がなくなっちゃうんだ。あの美味しい漫画肉が食べられないなんて」


小春は、悔しそうに空を見上げる。


「ウルちゃん、あれだよ。あれ」小春の指さす上空に三角の編隊の先頭を飛ぶワイバーンが目に映る。


「あんなに高い所を飛んでいるワイバーン、どうしたって無理よ。それにワイバーンはとても危険な魔物ヨ。あたしたちじゃ、倒せないよ。…でもお肉食べたい」

「いける、いける! ウルちゃん、あたしに任しといてよ。秘策があるんだから。うちにも空飛ぶ女騎士がいるじゃない」


小春の口角が上がり悪い顔が浮かぶ。


少し離れた所で、黒馬の横に小さなテントが張ってある。小春は、何食わぬ顔で、テントの中へと入っていった。


「…………あっ…あっ…あっは~ん」…! 「こっこら~」


何やら、艶めかしい声が上がったと思うと今度は、騒々しいローザの喚く声が上がる。テントから逃げ出す様に小春が飛び出してきた。


「全く、お肉のピンチだというのに、のんびり寝てるよ。緊張感もないねえ~。巨乳騎士は」

その後ろで、顔を真っ赤に染めたローザが仁王立ちしている。


「だから、そんな名前で人を呼ぶんじゃない。朝から、変な所摘まんで起こすんじゃないよ。全く」


そう言って、後ろから小春を捕まえると両方のほっぺたを引っ張った。


「わーっ やへろ~っ 児童ギャクタイ反た~い! パワハラだよ。ぱわはら~」

慌てて、ウルがローザに、


「まあまあ、ローザさん、小春ちゃんも悪気があるわけでもないんです。ちょっと相談というか。お願いがあるみたいですよ。聞いてみて」


やっと解放されて小春が頬っぺたをさする様にして話を切り出した。


「全く。うちの巨乳騎士は乱暴者で困ったものだ」 「こらっ」


愛嬌(あいきょう)だよ、愛嬌。それより 収納のワイバーンのお肉が残り少ないんだよ~。たいへんだろ~。そのおっぱいを維持するのにお肉は必要だよね」


「……うむ、確かに此の胸を保つのには……いや違うし! 何を言わせる! 騎士は体が資本‼ 肉は体を作るのに確かに必要だな。だからどうしたというのだ」 


小春が、人差し指を空に向ける。見上げたローザは、途端に顔を青ざめた。


「あれは、ハゲワシの群れ、先頭に…なぜワイバーンがいるのだ!?」

「あれを狩って、そしてソルお兄さんの魔法袋へポイッと言う訳ですよ」


「いやいや、意味がわからん」


「巨乳騎士は、分からんでもいいの! とにかく黒馬を起動させてあたしを乗せて一緒に空飛んでくれればいいんだよ。ワイバーンは、あたしが捕まえるから」


また、小春がおかしな事を考え出したと、ローザは、首を振る。


「ウルちゃん! 捕まえて!」力持ちのウルがローザの脇をがっしと固める。

「黒馬の元へ、連行せよ!」「らじゃーっ!」ウルが何時の間にくだらないことを教え込まれたのか、手のひらを掲げる。


「やめろ! うかつにオルスタインに触ると意識がなくなるのだ」

「ですよね~! その後の事は、我々に任せておけばいいんだよ」


オルスタインが、近寄ってくる三人を見て、前足を屈めて低く座りなおした。

「オルスタイン! 任せたよ」ウルが、力任せにその背中にローザを放り上げる。


途端に、オルスタインの邪気がローザの臀部(でんぶ)を通じ、体内に流れ込んでくる。

その眼は、赤く染まり、口元が上に上がって怒りながら笑うという器用な笑い顔へと変わっていく。その口元も。


小春が、此れで成功したも同然とばかりにウルに向かって親指を立てた。


「きたキタ! 邪神騎士ローザの登場だよ!」


いつの間にか、蒸着したミスリルの肩パッドは、回り込むようにその口元を覆い隠している。背中に朝日を浴びて赤いマントがはためいた。

ローザの赤い眼が、上空をわが物顔で覆いつくす、ハゲワシの群れを憎々し気に見上げる。


「許せん! 本物の邪神の使途であるこの私を差し置いて、わが物顔で、まるでこの世を邪気で支配している様なあの姿。かりそめのその薄っぺらい邪気など、本物の力を見せてくれるわ。 偽物などいらぬのだ。我こそが唯一無二の存在だという事を知らしめん!!」


明るくなってきていた朝の空気を巻き戻す様にあたりが薄暗くなってくる。

はらり、はらりと黒い羽根が舞い散りだすと「バサリ」とオルスタインから伸びた翼が辺りを覆いつくす。

ギュンと伸びた黒馬の角が光ると大きく翼がはためく。大風があたりに吹き抜けた。

「おっと、行けない!」小春は、オルスタインの背に飛び乗るとローザの腰に手を回す。

「ムッ」ローザが顔をしかめるが、小春は構わない。


「レッツ.ゴーッ! 行ってきまっす!!」


小春は、眼を見開くソルやガルフにピースサインで手を振った。




※ ハイデルエス.グリーンディア 挿絵入れました。

✳ 76話 森の民 挿絵入れました。

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