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女帝…ハイデルエス (挿絵)

  挿絵(By みてみん)



 クロエは、焦っていた。

 和やかな、会合の空気。

 自分に集まる笑顔の視線。

 それに対して、クロエは少しかじった大きな骨付き肉の燻製を突き出して立って居た。

 言葉が見つからず。一瞬の静寂にクロエの頬に一筋の汗が伝う。


(どうしよう? 和やかに話し合いの席になっているじゃない。刀を抜かずに、慌ててお肉を突き出したのは不幸中の幸い?…………でも恥ずかしい————っ。この状況どうすんのよ、あたし!)


 クロエは、とりあえず近くに居た隼人を親の仇のごとく睨みつけた。

 隼人も、なぜ村の外で別れたクロエが会合の席に骨付き肉を持って現れたのかぴんと来ない。


(どうした? クロエ。なんか肉を突き出して固まっているぞ? フフっ これは此れで、なんか面白い絵面だな。)


 クロエの入ってきた扉が大きく開け放たれると、クロエを押しのけ、おかみさんたちが、沢山の料理を携えて次々と運び入れてきた。

 呆然と立つクロエをしり目に、その横にご馳走を抱えた女性陣が次々と現れる。


 ドワーフのおかみさんが、クロエに声をかける。


「おやまあ、お肉を運んでくれたのかい。でも少し大きいから切り分けて盛り付けようかね。 お客さんだから座ってくれていても良かったのに」


「でもせっかくだから、手伝っておくれ。 厨房にまだ、寸胴にスープが残っているから持ってくるんだよ」


 骨付き肉を取られると、背中を押されるように廊下に押し出された。


 クロエの頭に?マークが浮かぶが、今は言われたとおりに動いた方が良いように思えて、厨房へとスープを取りに行くクロエだった。


 エルモが。おかみさんに小さく会釈する。

 ハイデルエスも、事情を呑み込んだのか、おかみさんに声をかけた。


「テレシアさん、晩餐(ばんさん)のお手伝い。ありがとうございます。突然のおもてなしの料理が、用意出来て助かったわ。先ほどの女の子も準備が整ったらこちらの席へ連れて来てもらえるかしら」


 テレシアと呼ばれたドワーフの女将さんは、にこりと笑うと部屋を後にした。


 クロエの事は、さて置きハイデルエスが切り出した。


「大森林の安定に関しての話は、このグリーンディアと進めて(もら)って構わないわ。すこし心配性な子だけど確かに今を生きる者たちだけの大森林ではない事は私も思うところです」


「その事も人族との交流、また他の種族との交流があってこそ、成し遂げられるというモノ、エルフだけが、一つの(おきて)を創っても無意味なことは皆分かっているのです」


「他種族と特に人族と交流を持つという事は、種の繁栄に力の強い人族に対し、なかなか子の生まれにくいエルフ族は飲み込まれ、いずれは純粋なエルフというモノの姿さえ消えゆくときも来るかもしれません」


「しかし、種の繁栄とはそういったモノ、その時代の環境に見合った種族が生き残るのは神の思し召しにも思うのです。昔ながらのエルフの姿を延々と保ち続ける事は、出来なくなるでしょうが、強い種族の中にこのエルフの特性を持った自分たちの遺伝のタネが脈々と生きついでいてくれれば、エルフが絶えたという事にはならないでしょう」


「姿、形のよく似た我らエルフと人族。交わりあってさらに強い種族が生まれ、強い命を後世に伝えてくれればよいと思うのです。今の姿のエルフでさえ、ずっと大昔からこの人族に近い姿だったわけでもありません」


「現に、このグリーンディアの姿のように先祖返りの姿を見るとこのような姿から今のエルフの姿に時代と共に移り変わってきたのは明白です。」


「一つの姿にこだわり続けてなくなるよりもどのような形でも、命を繋いでいく事が大事に思います。我らエルフは、人族の体の中でエルフとして生きる事に種の存続の活路を見出すことに異存はありません。」


「もちろん、すべてのエルフがそういった生き方に付き従う必要はなく、今までの様な生き方を続けるのも一つの選択。いろいろな選択を持って生きて行けばよいのです」


 ハイデルエスは、話が長くなったと手元の杯を掲げた。

 エルモも、合わせて杯を上げる。


「ありがとうございます。私がお願いするよりも先に我が領との交流をお認め下さり感謝します」


 ハイデルエスは、堅苦しい話は終わったとばかりに、眼を細めニコリと笑みを浮かべる。陶器でできた薄い杯を人差し指でチンと弾いた。

 それを合図のように周りで同じように杯を弾く音が響き渡り、乾杯の合図のように祝宴が始まるのだった。


 隼人は、そのバラ色のぷくりとしたくちびるに液体が注がれ、飲み干す女帝から目が離せずにいた。僅かに口元を伝い滴る酒、ゴクリと動く喉元さえ美しく妖艶に見えた。

 隼人の熱い視線に気が付いたのか。ハイデルエスは、杯を目の前に掲げ、隼人に軽い笑みを送る。


(うわっ 酒飲む姿がこんなに似合う大人、始めて見たわ。やばい惚れてまうやろ!)


 慌てて自分に注がれた濃い紫の酒の匂いを嗅ぐ。其れは紛れもないワイン。


 酒など、さほど飲んだこともない隼人だったが、香りは強く立ち上り、少しだけ口に含んでみるとブドウの果実味を感じさせるものの少しのロースト臭が漂い、十分な年代を経た印象を受けた。

 ワインの味など分かるはずもなかったが、エルフ族の人たちがエルモ達を大切な客として扱ってくれている事が、伝わってくる酒の味だった。


 いつの間に戻ってきたのか、クロエが手酌でその高級ワインを注ぐと、味わう余裕もなくがぶがぶと飲み干す。


(うわっ せっかくの高いお酒が此奴に飲まれると残念だな)


 離れた所で、優雅に酒をたしなむ大人の女性。

 隣には、まるでやけ酒のように酒をあおる少女。


 隼人の視線に気付いたのか、その太腿を思いきり、クロエにつねられた。


「てててっ! いきなりなんだよ」


「いいのよ! あんただから」


 クロエの理由にならない返答に隼人もうんざりとしながらも、意識はハイデルエスの美しい姿を楽しむことにした。


 隼人達の突然の訪問にも関わらず、木の芽をゆでたものに鶏肉を裂いてまぶした物から始まり、鳥のお腹の中に香草を詰め込んで蒸し焼きにしたものや、様々な根菜の汁物、クロエの持っていた燻製肉のスライスしたモノなど、森の中の料理とは思えないほどのもてなしの数々だった。


 食事の途中からは、エレナさんも加わり、エルモの隣の席について酌などしたりして嬉しそうな笑顔を見せている。


「さて、長い道中の疲れもあろうかと思います。お部屋を用意いたします……エルモ殿は先ほどの話、分かっておられると思うが、私の孫娘エレナをよろしく頼みます。すでに二人には無用なお話だったかしらね」


 すこし、ハイデルエスは言い淀み、

「さらに…………こちらにも…………交換条件とでも言えばいいかしら……」


 ワインに頬が朱に染まったのか、眼にも憂いを乗せてジャッファを指さした。


「その者には、私との夜伽を命じます」


(夜伽…よとぎ…よとぎ~!)


「エルモ殿、構わないですね。先ほどの話、了解されたことですし」


 言葉の最後は、すこし尻すぼみになりながらも、なかなかに積極的な誘いを言ってのけるハイデルエスだった。


 ジャッファは、驚いてエルモに小声で、


「いや、俺には妻もいる。そのような不貞はいかがなものか」


 エルモが、まじめすぎるジャッファに、


「此処は、プラディアから遠く離れた大森林、プラディアの決りや道徳心などここでは、通じないぞ。大森林には、大森林の決まりごとがあるそうだぞ。ジャッファ。」


(ジャッファが嫌ならこの俺が犠牲になってと)


 隼人は、二人の前へとおずおずと手を上げる。


(あっ あのそれでは、僕が代わりという事で…………は?)


 ハイデルエスが軽く指を振る。


「よい! ッ無用じゃ。 そんな平たい顔の子が生まれたら可哀そうではないか」


(がーん! 平たい顔……平たい顔……平たい顔……はあ~っ くそ~! イケメン爆死しろ!)


 ハイデルエスの言った(平たい顔)のフレーズが隼人の頭の中でコダマを繰り返している。

 隼人は、面喰いな女帝の言葉に撃沈して静かに後ろへと後づさった。

 脇腹を突いてクロエが、にやにやしている。


 ジャッファは、眉をきりりと上げると、くそ真面目な顔で申し出た。


「私ごときで、よろしければ大森林と人族の交流のはじめとして喜んでお受けいたしましょう。精いっぱいのお勤めをさせていただきます」


 ハイデルエスは、ジャッファの腕を絡ませると酔いが回ったのか引き立てる様に二人出て行った。


「隼人、其れじゃ俺たちも別の部屋だから、料理もまだたくさん残っている。ゆっくりと味わってくれ」


 そう言うと、エレナに引かれてエルモまで部屋を後にするのだった。


 大部屋に隼人とクロエだけが沢山の料理と共に残されてしまった。

 隼人は何気にちんこいクロエをみる。


(ないわ~……何があっても此奴とだけはないわ~)


 両手に鶏肉の足を掴んで交互にむさぼり食うクロエ、時々つかえるのかワインで流し込んだ。


 隼人の視線に気が付いたのか、肉を両手に抱えたままスッと近寄ると笑顔で思いきり隼人の足を蹴り飛ばした。


「うっせえわ~! 声漏れてんだよ隼人!」


 二人は離れて黙々と残りの御馳走に手と口を動かしたのだった。


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