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掴まっちゃったよ…隼人くん





大森林と言えど、其処は只まっ平らな森林なわけではなく、深い谷もあれば連なる山々もある。

そのような深い連なる山の一つの裾野にその集落は家々を連ね、辺りの緩やかな日当たりのよい斜面は耕し畑をつくり集落を形成している。

近づくに連れて大木が目立ってくる。


大森林に彼方此方と点在するエルフの集落の中でも、大族長と言われるハイデルエスの治めるこの郷は、その中でも抜きんでた大集落であった。

集落の中には、驚くほどの大木も多く、いかにもエルフの住まいといった風情のツリーハウスも幾つか見受けられる。

その反面、地面の上にも立派な建物も多く目立った。

石造りの基礎の上に太い木材を使い、隼人達が来る途中で泊まった宿にも似た立派なつくりとなっていた。


その家々の彼方此方から、隼人たちの様子を伺う気配が感じられる。

時には、聞こえてくるほどの噂話が耳に届く。


「……なんだ?…人族の様だが…なにか森で悪さでもしたのか?」


「いや…違うだろ…あの引き立てている者たちは、グリーンディア様の配下。何かと森に迷い込んだ人族を捕らえてしまうのは問題だぞ。」


「人族との軋轢(あつれき)が生まれかねん。わざわざ、問題を起こすこともないだろうに。」


隼人、

(ふーん、此の武装集団のこのような態度って、エルフ族の中でも少数みたいだな。逆に好いようには思われていない様な気配がするな。)


イージー、

(そうですね、大抵は、事なかれにして、無難に人族とも付き合っていこうとした雰囲気です。グリーンディアなる人物が、隼人達にどのような対応を見せるのか……)


先頭を歩く集団のリーダーと思わしき人物が、周りの視線とひそひそ声に居たたまれなくなったのか、一つ咳をした。


「うほん! …お前たちの手枷は、山の物とも海の物との知れん者が、この集落に武器を携え近づいた事への、安全策の一環だ。村の安全の為、拘束をしているが、グリーンディア様の沙汰があり次第に、すぐにでも自由にしてやろう。それまでは、大人しくしてもらおう」


最初に対峙した時の荒々しさは消え、村人の声に自分たちの立場の危うさを感じ取ったのか、急に態度を軟化させて言い訳ともとれる釈明を始めた。


隼人が、珍しそうに村の様子を眺めている事に、気づいた男が話しかけてきた。


「フン、なんだエルフにしては、立派な家が多いと思っているのだろう。確かに少し前までは、ツリーハウスを好み、地には、かやぶきと言った家が多かった。ドワーフ族との交流が盛んな昨今、石材や木材の(あつかい)()け家造りに手間を惜しまぬ彼らが、思いのままに建ててしまったのよ。」


「森で採れる間伐材や我らの作る畑の野菜、森で手に入る様々な食料、それらを提供して、代わりに様々な建築に手を貸してくれているのよ」


「奴らは、一つの事に興味を持つと他の事に全く無頓着になる。身のまわりのことや、食い物の事さえ時には忘れて集中して仕事をするものだから、気が付いたら、創った品々はたくさんあるが、目の前の食い物が全くない。などと笑えるようなことが往々(おうおう)にしてあるのよ」


「奴らは、自分の好きな仕事しかせんからな」


「我らが、身の周りの物を用立てる、代わりにこうして立派な家を作ってくれる。まったく物々交換の域を超えた共存だな」


「お前たち人族にしてみれば、エルフとドワーフ族が仲よくやり取りをしている事が不思議なんだろう。それも昔の事だ。好きな仕事、得意な事でお互い補い合って、暮らしやすくなってきている。これもハイエルデス様やグリーンディア様の御尽力の賜物(たまもの)。」


「この調和に乱れなきに及ばぬかを、見定めるためにグリーンディア様が判断してくださるだろう」


通された場所は、牢屋ではなかった。

三人を部屋に通すと、リーダーの男が(かせ)を外していく。


「明日、グリーンディア様との面会まで此処で大人しくしていてくれ。抜け出して周りの村人とのやり取りなどは、控えてくれ。まずはお沙汰を伺うが先。食べ物も後で届けさせよう。部屋には鍵はかけぬ。静かに待て」


隼人は意外だった。

ジャッファも枷の跡をさすりながら、


「全く、話を通してくれるのなら最初から素直に連れてくれば良いのにな、危うく修羅場になる所だった。面倒な奴らだ」


エルも頷きながらそれに続く。


「うむ、ドワーフ族との交流に()ぎつけたとは。お互いに頑固な種族で聞く耳持たぬ、プライドのぶつかり合いで付き合いなどもってのほかと聞いていたが、このように調和のとれた交流を持つほどに進展していたとは、驚きだ。」


「ハイデルエスという御仁。なかなかに懐柔に富み、したたかな者かもしれぬ、先ずは先にグリーンディア殿を味方にする必要がありそうだ」




其の頃、クロエは集落の近くに身を潜め、送り込んだイタチからの情報に集中していた。

(掴まって、枷をはめられたという事は、すぐに要人に会えたり、沙汰を決める訳はない、行先はまずは牢屋か? このような屋敷で堅牢な屋敷にいるはず。其処へむかってちょうだい。イタチちゃん)


クロエの目立てのとおり、官舎のようなその建物の地下室にその牢屋はあった。

薄暗い地下室で呻き声をあげる。


一人のドワーフと二人のエルフの酔っ払いが築祝いを兼ねた酒宴の席で破目を外し過ぎて、せっかく作った部屋で暴れまくり台無しにしてしまい、この牢の世話となっていた。

酔っぱらいは、一晩の拘留と村の定めと決められていた。

翌朝には、良いも冷めたところで賠償を言い渡されて、解離すのが常である。

自らも暴れてけがをした上に取り押さえられた際にも大きなたんこぶをこしらえたエルフの酔っ払いが愚痴をこぼす。


「うわーっ ヤラレタな。全くグリーンディア様も、話が通じぬ。皆酷い有様だな。 明日にはきっと、ひどい仕置きが待っているに違いない。話が全く通じぬ」


酔っ払いは、自分たちのした事などすっかりと忘れて、まだ酒の残る頭で言いたい放題の悪態を口にする。


この自ら吐いた汚物塗れの囚人たちに近づきたくないイタチは、遠目にその様子を伺う。


暗がりの中でウゴメク三人をクロエは、すっかりと手ひどい仕置きを受けたエルモたちと誤解をしてしまったようだ。


(たいへん!! エルフ族との交流の話は、決裂したんだわ! 三人とも酷い痛手を被っている様子、明日の朝には、処刑されてしまう! ……イザークお館様からの返事もまだ来ない。……私がやるしかないわ……エルモ様、伯爵様、耐えてください。必ずや、お助けに参ります。)




面会は翌日との事であったが、その日の夕刻には、グリーンディアとの面会が叶うと言ってきた。

隼人達は、その部屋で待つ。

やって来たのは、まるで植物を身に纏ったような奇妙ないで立ちの男だった。


隼人、

(なんだ!? ひと、人か? この姿もエルフなのか?)


髪は、蔦が絡みつき頭を覆い、耳は木の葉の形をしている。

体全体を緑色の植物状のモノが絡みついている。

姿かたちは人型の様だが、その部位を形づくるのは植物のそれである。


隼人の驚く視線に気付いたのか、面白がるように言葉を紡いだ。


「ハハハハッ。人族の若者よ、我の姿が珍しいか? このような姿も森の精霊たるエルフ族の一つ。先祖返りとも言われておる。エルフと言っても様々な姿があるのよ。我の姿は特に草木に近い様だがな」


「我らの郷の様子を見られたと思うが、昔と違い昨今は、ドワーフ族と手を取り合いお互いに至らぬ所を助け合いながら、暮らしぶりを上げている」


「我らエルフは、この森の密集しすぎる間伐を行い、陽の射す草木の育ちやすい健やかな森へと手入れをする。豊かな森へと育てるためだ。その余分な間伐材は、ドワーフへと渡し、鍛冶の燃料や木工の材料、建築の資材などとあらゆることに役立ててもらっている」


「我らエルフは長命種、ドワーフ族もまた我らほどではないが長命の種族ヨ。お互いのやり取りに事は急がぬ。のんびりとした時間の中で、お互いやりたいときに仕事をし、又、急いで催促などすることもない。」


「人族の営みは目まぐるしい。永い時を生きる我らからすれば、行き急いでいるように見えて実にせっかちだ。確かに寿命も短く、せいぜいが5~60年のうちに子をつくり、増やし育てる為には目まぐるしく生きるは必要。子作りに優れ、いくつもの種族の中でも最大の勢力を誇る。」


「その者たちすべてが、生きる為以上の無用な豊かさを望み、この森の恵みを(さら)って行くのならば、我らや他種族の細々とした営みさえも、行く末に陰りがでるのではないかと危惧しておるのだ。」


隼人、

(なんだか、身に摘まさせる話だな。現代の人口爆発と森林破壊を予測しているみたいに話してくれる。森の消滅と共にまだ人間には知られていない種も含めて沢山の種を絶滅に追い込んでいるみたいだからな。俺たちも町に住んでいて当たり前と暮らしている事が、どんなに悪い影響を及ぼしているかなんて実感さえ湧かないもんな。)


(毎日、目の前の仕事に追われて、自分と自分の家族や身の回りの人の幸せを願い生きることで精いっぱいというのが大半だろうからな)


(世界中の生き物の大半を占める人間のほとんどが、そうして利己的に生きているんだ。他の種族を絶滅させながら、気づきもせず悪気が湧かない事がなおさら罪だよな)


イージー、

(切り開く森がなくなった時、絶滅させる生き物が居なくなった時、食料とする魚、生き物が居なくなった時、増え続ける人類はどうするのでしょうね?)


隼人、

(……そうだな、意外ともう俺たち人類が絶滅の崖を飛び降りてしまっているのかもしれんな。後戻りのできない事も考えずに、目の前の仕事に追われて。……消える前のろうそくが一瞬大きく燃え上がる。それが今の人類だとは思いたくはないな……)


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