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キャンプの…ご馳走

 

 野営訓練にもよく使われるという場所を教えてもらい施設から1キロほど山を歩き、さほど離れていない所での野営キャンプとなった。

 近くの岩の間にはわずかに岩清水も流れ落ちている。


 追い付いてきたジョニアスと隼人、三人でそれぞれのテント設営をしている。

 サバイバルの指導教官が、明日早朝に訪れて山々を歩きながら教えてもらう事となったようだ。

 今日はただのキャンプとなった。


「隼人、冷凍の鹿肉を貰ってきた。石を集めてかまどを作れるか?」


 隼人は、手ごろの石を探すと訓練にもよく使われる場所とあって以前のキャンパーが残した(かまど)の残骸と使い残しの枯れ枝を草むらに見つけた。

 ジョニアスのテント近くに運ぶと手早く組み上げる。


「良い(かまど)ね、私も後で使わせてもらうわ」


 ソフィアは、コッヘルに水を汲んでくるとガスのシングルバーナーで沸かし始めた様だ。

 やたら大きなバッグを担いできたと思っていたが、でかいフランスパンと缶詰まで並びだした。


「私は、サバイバルなんてまっぴらよ。キャンプを楽しむつもりよ。隼人たちも今日はいいでしょう。ご馳走を楽しみにしていていいわよ」


「そうですね。サバイバルの訓練に来たはずですけど微塵もその欠片もありませんね。ジョニーさんなんかお肉まで貰ってきているし」


「オウ、そうだな。研究所のマークには、お前をなるべく極限の状態に追い込んでくれって言われてきたんだが、俺までそれに付き合うことになると、まっぴらだな。俺が責任者だ、好きにさせてもらうさ」


「先ほどの訓練で、お前の身体能力の(たが)が外れたのは確信した。今までの常識に囚われずに自分の体を使ってみろ。やろうと思えば、オリンピックの全種目、制覇できるかもしれないぜ。」


 ジョニアスは笑う。


「やめてくださいよ。まるで改造人間じゃないですか」


 自分で言った言葉に、日曜日の変身ヒーローが頭に浮かんでしまう。

 出て来る怪人魔獣が、リアルに現れたらと思うが着ぐるみの魔物で浮かびあがり、なお更に実感が沸かない。


「異世界に行くんだし、体験したくなくても向こうから地獄のような体験は、嫌っていうほど、かってにやって来るものさ。鋭気を養える時にはゆっくりすればいいのさ」


(あちゃー、其れ言っちゃいますか。此れから異世界に行くのにそれはフラグだよ。異世界と言えども、人も普通に生活しているんでしょう。サラッと行ってすぐに帰ってきましょうよ。……異世界セラは普通の安定した世界。そう思い込めばきっと大した事も起こりませんよね。…………

 よし! これでフラグ打ち消した……たぶん)


 隼人は、気休めにそう思い込むことにした。

 ジョニアスが変な鼻歌を口ずさみながらまだ凍っているでかい鹿肉を薄くスライスしていく。


「ジョニー、半分は切らずに貸してお料理に使うわ」


 深めのブッシュクラフトに油を敷くと火の強くなったかまどで丁寧に表面をあぶって焼き目を付けていく。


「おっあれか! いいな。ソフィいいものがあるぞ」


 いきなり立ち上がると、ジョニアスは元来た道へ戻るとすぐに手に植物をもって帰ってきた。


「これを入れるといい。香りづけと臭み取りになるハーブだ」


 コーンの粒とハーブを敷くとその上になにか振りかけると肉の塊を載せて蓋をする。

 そして遠火でゆっくりと蒸し焼きにするようだ

 目の前の腹を空かせた隼人は、どうにも待ちきれない。

 フランスパンをサバイバルナイフで少し切り取るとかじりだした。


 更にソフィアは、大きめのコッヘルに油を敷くと少しばかりのスライスした鹿肉を放り込むとアスパラとコーンの缶詰と共に炒めだした。

 途中で摘んできた木の芽も入れる。

 空腹の隼人は、その立ち込め始めた匂いだけでたまらない。


 ジョニアスは、ソフィアが作っておいたオイルと塩と胡椒をまぶした皿に鹿のルイ―ベを浸すと早速口に放り込んでいる。


「おおっ臭みもなくてうまい! この冬に取れた女鹿だそうだ。隼人も食ってみろ。溶けきっていないがうまいぞ」


 一つまみ手に取ると、小皿に少しばかり浸し口に入れる。


(うんっ 美味い)


 口の中で冷たいじょんわりとした感触が徐々にその薄さが口の中で溶けていく。


 ジョニアスの手には、いつの間にか小さな琥珀色をした瓶が握られている。

 キャップを外すと、そのキャップにわずかばかり注いで(あお)ると片目をつぶって隼人を見た。


「飲むか?」

「…少し…」

(か~ぁっ! 喉いて~!)


 辺りは夕闇に落ちていく。


 かまどの火の明るさが、周りの薄暗さに比例するように明かりを増していく。

 二人の間にブッシュクラフトが差し出される。

 ソフィアが、蓋を取ると湯気と共に香草の香りと香ばしい肉のにおいが立ち込める。香草を捨て、コーンを取り出すと残った肉汁にオイスターソースだろうか、注ぎ足して強火に戻すと軽く回してソースを作った。


 肉を切り分けると、外は焼き目がつき中は肉汁を残しながら食欲をそそる出来栄えだ。三切れずつ皿に盛ると先ほどの炒め物も横に添えてくれる。

 その上に肉汁を使って作ったトロリとしたソースをかけて手渡してきた。


「待たせたわね。ハーブも手に入ったし会心のできね。お腹すいたでしょう」


 隼人はキャンプで思いも寄らないご馳走になった事に喜ぶ。


「おいしそうです! ソフィーさん料理上手ですね。こんな山の中でご馳走にありつけるなんて思いもしませんでした」


 肉にかぶりつく、香草の香りの絡まった肉の焼けた香りが鼻をくすぐり食欲を誘う。

 外側の焼き目が香ばしいくせに肉汁はたっぷりと口の中にひろがってくる。

 鹿の野趣たっぷりの味と共に洗練されたソースの濃い味付けが全体を包み込んでいる。


 一枚目を、まるで飲み込むようにがっついて食べる、二枚目にとりかかろうとするところでジョニアスの手元が目に入った。


 薄く切ったフランスパンを更に切れ込みを入れてそこに此の熱々のローストと炒め物を挟んでソースをかけている。


「おお それもいいですね、僕もやってみます」


「っふ、気に入った様ね」


 そう言うと用意してあったのかソフィアが手渡してくれた。

 同じようにローストを挟み込んでソースをかけるとかぶり付いた。

 肉汁とソースの旨味がパンに染み込んでいる。

 ボリュウームのある旨さがまた格別の物に感じる。


 初日のキャンプの夕食は、準備のいいソフィアの腕前と肉を調達してきたジョニアスのおかげで思わぬご馳走に在りついた。


 食後、隼人は夕食に使った食器や道具類を丁寧に洗ってくる。


「黒熊が寄ってくるかもしれん。匂いのするものはテントに置くなよ」


 ジョニアスに、言われて食料と共に匂いのしそうな物を袋に入れてテントとだいぶ離れた木の上に吊るした。


 暗くなった周囲と対照的に(かまど)を挟んでジョニアス、ソフィア二人の顔が焚火に赤く照らし出されていた。持ってきたアルコールを二人で回して楽しんでいる。


(ソフィアさんも笑っているし、すっかり仲よくなったな。最初の険悪な空気が嘘みたいだな。キャンプの料理でジョニーさんと仲良くなりたかったのかもな。よかった)


 明日は朝が早いと聞いている。

 少し酔いの回った隼人は、早々に二人を残して自分のテントへと潜り込んだ。




「ガサッ…ふんっ ふっ」 


 隼人は、夜中に隣のテントから衣擦れの音と押し殺したような物音に目が覚めてしまった。


「黒熊か! ジョニーさんに知らせないと!」


 イヤーマフに着ける耳栓を付けても異常に聴覚が研ぎ澄まされていく。

 そこに持って、マークさんから装着された生体情報機器とでも呼べばいいだろうか、こんなところで特別な性能を発揮しだした。


 隼人が気持ちを落ち着かせようと精神を集中するほどに逆にその機能は情報収集に効果を上げてしまう。


「ふんっ! ああんっ! ああ~っ」


 最初は、遠慮がちに押し殺していた声も段々と理性を失っていく、もう遠慮のない喘ぎ声に、さすがの隼人も気が付いた。


(二匹も熊が出やがった。仲良しになるの、早すぎるんじゃね~。チックショーッ!)

(眠れん!!)


 暗闇に音声だけが増幅されてそれに見合った映像が隼人の脳内にかってに映像化されていく。若い隼人にとって此処にきて、悶々と地獄のキャンプを過ごす夜となってしまった。


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