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男はこれだぜ。リボルバー!  (挿絵)

  挿絵(By みてみん) 




 まだ夜も明けきらない早朝5時。


 隼人たちは、ニュージャージー郊外のヘリポートまで来ていた。

 工場地帯にある此処は、早朝の事もあり静まり返っている。

 フェンスの向こうには、工場への搬入のためのトラックだろうか列を作って並んでいる。

 それぞれの、ディーゼルエンジンのアイドリング音だけが響いている。

 二つの発着場を備えた、此のこじんまりとしたヘリポートには二人の他は誰もいない。


 ほどなくして、静けさを割りながらの点滅のライトが轟音と共に舞い降りてきた。

 着陸と共に、スライドドアが開きヘッドセットの女性が中から大きく手招きをする。

 ジョニアスが顎を振って合図する。


「あの女だ。ホントに来やがったな。仕方がない、行くぞ、隼人!」


 二人は、荷物を掴むと前かがみになる様に走り出した。


 向かい合わせるような座席の間に荷物を放り込むとシートベルトをつける。

 慣れない形のベルトに隼人がアタフタとしていると気づいた女性が手伝ってくれた。


 ヘリは、構わずに離陸していく。


 座席の横のボロボロのヘッドセットを着ける。


「こんな、遠くまで来てもらってごめんなさいね。許可が間に合わなくて

 こんな所に成ってしまったわ」


(ありゃ、意外と低姿勢な人だな)


「ああ 構わないさ、ヘリまで出してもらってありがたいぜ」


 ジョニアスも構えていた所へ意外な丁寧な言葉に面食らったのか、パイロットと場所の確認を始めた。

 険しい山中のため、ヘリコプターがよく利用されて訓練所には何度か人を運んだ事があるというので問題はないという。


 進行方向の右手、窓際の女性の向こう側から朝日が上がってきた。

 朝の山々の美しい景色が眼下に広がっていく。


 隼人は、景色に目を配ったついでのフリをしてから、窓の横の女性をチラ見してみた。


(うわ~目が合っちゃったよ。この前すごい剣幕だったからな~。ちょっと怖い。でも銀色の髪とか初めて見たな、なんだか後ろからの朝の太陽の光が透けてきれいな髪だな)


 隼人が、話しかけるか迷いながら目を逸らせずにいると。

 意外なことに、にこりと笑顔を向けられた。


(あれ! 綺麗な人ジャン。 銀髪で北欧の人かな。笑うと意外と可愛いのかも)


 なお更に、朝の強い光を受けて、後ろに束ねた銀髪の髪が輝いて見えた。

 前に見た時には、顔も見れなかっただけに、あの時のイメージが崩れた瞬間だった。


「ソフィア.ベディルニコフよ。この前は興奮したところを見せてしまって、はずかしいな。一応スポンサーの看板をしょってこれが仕事よ。ソフィでいいよ」


 ぽんぽんと前のケースを叩く。

 編み上げのトレッキングシューズ、ダークグリーンの厚手の服。

 ハードな恰好とは対照的に、碧い眼と透き通るような白い肌、後ろからの朝日で透明感を増している。

 笑うとこんなにも温和な顔ができる人だったのかと思うぐらいの別人だった。


 ジョニアスもその笑顔に気が付いたのか、いいタイミングと読んで、


「俺は、ジョニアス.アンダースン、こっちの若いのがハヤト.カワバタだ。

 エネルギーの開発会社に勤めている」


「隼人です、日本人です。銃はこの前撃ったのが初めてでした。ソフィアの射撃には驚きました。銃であんなことが出来るなんて信じられませんでした。よかったら、ぼくにも手ほどきをしてくれると嬉しいです」


 一瞬、お世辞とも取られかねない事を言ってしまったと思いながらも、あの射撃に感動したことは確かだった。


「かわいい子ね。あなたたちのスタイルとは違うけど、基本は一緒だと思うよ。 私の気がついた事があれば教えてあげる。今日はよろしくね隼人。フフフ」


 少し目じりが上がった事に、隼人は余計なことを言ったのではないかとドキマキとする。


 ジョニアスが説明を続ける。


「ソフィ、施設は昼からの1時から4時までの3時間を2日続けて抑えてある。宿泊も、君一人を一泊頼んであるから泊まるといい。飯には期待しないでくれよ」


「俺たちは、この山中でキャンプを張る。時間になったら施設で待ち合せよう」


 ソフィアが荷物を足で指し示しながら、


「この大きな荷物が見えないかしら? 面白そうなキャンプだって聞いたから私も用意してきたわ。女の子を兵隊上がりのオジサンたちの中に一人で放り込む気だったのかしら」


「…………」

(うわ~、やっぱり何かとする気満々じゃないですか~。綺麗な顔に騙されるところだった~)


 機は山の間の狭い谷間を縫って、まるで腕の見せ所といわんばかりに右に左にと激しいい蛇行を繰り返しながら進んでいく。


 山を越えると、岩場の多い窪地の平野が見えてきた。


 大きめのプレハブの建物、キャンピングカーが引くトレーラーを改造した建物が並んでいる。

 小さな林を挟んだ草地に草を刈り取って描かれたHの文字が見える。


 近くには6人ほどの人影が、此方を見上げていた。

 下草を放射状になびかせてヘリは降り立った。


 ふたりの男たちが走り寄ってくる。

 ひとりは、パイロットの方へと、そして年配のひとりが隼人たち一行を出迎えた。


 ジョニアスと二人は、軽い目配せで挨拶をする。

 ソフィアが荷物を持って降り立つと、その一つを受け取って先に歩き出した。

 隼人たちが下りるのを待っていたかのように5人の若者たちが大きな荷物と共にへりに次々と乗り込んでいく。


 建物へと林の中を歩く、後方では凄まじい風をまき散らしてヘリコプターが上昇していった。





 訓練所というのだろうか。

 傭兵やSPまた何事かの理由によって銃器の取り扱いの上達を目指す者たちの訓練によく使われる場所だと聞かされた。

 ジョニアスが、どうやら顔なじみらしい年配のおじさんと挨拶手続きを済ませる。

 一休みする。


 しばらくすると先ほどのおじさんとメニューを相談している様子が見える。


 ジョニアスが、椅子に座らされて前方の壁と壁の間の空間を眉間にしわを寄せて睨みつけている。

 こめかみには汗が一筋浮いているのが見える。


「How stupid can you get? おいジョニー、全くお前ってやつはおろかだな!」


 隣に立つ初老の男が、ジョニアスの耳元でがなり立てている。

 椅子を挟んで、カーキ色の戦闘服の大男がジョニアスの顔を覗き込むようにして。


「You aru big wuss! あんたのバカは何年たっても治らないのか!」


 噛みつくように大声で罵倒する。


(うわーっ 二人とも怖いよ! 特にあのオジサンさっきの笑顔はなんだったんだよ。でもあんまし、ジョニアスを刺激しちゃまずいよ~。最も怒らしちゃダメな人ですから~)


 移住してきて、英語の早口にもだいぶ慣れてきた隼人だったが、これほど酷い罵詈雑言を叩きつける様に言う男達を見たのは初めてだ。

 隼人は、今にもジョニアスが怒りだすのではと気が気ではない。

 始めて出会ったその日に、暴漢を平然と半殺しにした光景がありありと蘇ってきた。

 今にも、立ち上がって二人に掴みかかり乱闘にでもなりやしないかと胆をつぶして見ている。

 二人は、ジョニアスを挟み込むように耳に堪えない罵詈雑言をあびせつづけている。

 と、その瞬間。


「ドンッ ドンッ! カーン」


 いきなりジョニアスが発砲した!

 壁の裏から飛び出してきた鉄板で出来た人型の標的に一発は当たったようだ。


 机の上にまた、ゴトリと銃を戻す。

 ジョニアスが大男を睨みつけながら。


「もういいだろう! やめだ、やめだ。メンタルへのダメージを作っての射撃訓練は本当にへこむぜ。おまえ、殴りたくなってきたぞ」


「ハハハ ジョニー、あんたが指定してきた訓練ユニットだぜ。かんべんしてくれ。こんなに、ジョニアス.アンダースンに面と向かって悪口を叩ける機会なんてないんだから今日は役得だな」


 先ほどの勢いは、仕事なのだからと眉毛を下げて落ち着いてくれと言わんばかりに両手の平を上下して見せている。


「あの、少年と変わるかい?」


 振り向くと、カーキ色の大男が隼人に向かって顎をしゃくった。


(エッ! 俺? 無理 無理 無理 無理 無理っ! あの激しいプレッシャ—に耐えるなんて心臓が破裂するわ!)


「いや止めておこう。銃を初めて触ったばかりだ。暴発でもしたら俺が責任取らされる」


 ジョニアスが椅子から立ち上がる。


 大男は、隣でニヤニヤと見ていたソフィアと眼が合う。


「あんたは、やらないんだろ?」


「そうね、ついあなたを撃ち殺してしまったら困るから辞めておくわ」


「そ そうか」


 冗談とも本気とも取れるソフィアの言葉に大男も気が引けた様に後ずさった。

 初老の男性が屋外の準備ができたことを、ジョニアスに伝えてきた。


 最初に隼人が行くことになった。


「隼人! 暴発に気をつけろよ。自分の足を打つなよ」


 後ろからジョニアスのがなり立てる声がする。

 センサーの付いたベストを羽織った。

 廃墟の様な建物の間を遮蔽物に身を隠しながら指定されたコースを進む。


 ここでも壁の後ろから銃を構えた人の描かれた鉄板が飛び出してきたりする。

 鉄板の近くからスピーカーに仕込まれた発砲音まで付いてくるおまけ付きだ。


(よし! 前日の射撃場で、教わった手順を踏んでと慌てずに…暴発に気を付けてと…)


 隼人は立ったまま、グロッグのセイフティをはずしトリガーに指を入れると標的に向かい射撃した。


「パンッ パンッ」 (あらっ!)


 標的はすでに通り過ぎてすでにいない。

 動的射撃場のターゲットはいつまでも同じ場所に留まることはない。隼人が手順を確認しながら打ち出すころには、対象物からの反撃の銃声音を残して消え失せていた。


 後ろを付いて歩いてくる二人の教官。

 一人は、カメラを構え、一人はヘッドセットに喋りながら手にはメモを取っている。


「突っ立っていないで、まず遮蔽物に身を低くして走れ! 反撃はそれからだ」


 買い物かごを抱えた人や犬の絵の鉄板まで飛び出してくる。

 もちろん発砲していいのは銃を構えている標的だけ他に発砲すると大きな減点になる。


(くそ~! 紛らわし~、確認してる間に撃たれちまう!)


 隼人は、身を隠す遮蔽物になりそうな物へと走りながら少しずつ進んでいく。


 ややこしいのがエプロン姿の女の銃を持った標的までいる。


「なぜ、撃たない。今ので三回は死んでいるぞ。いいだろう残念だったな、次はお嬢さんと交代だ」


 結局は、遮蔽物に逃げ込んで眺めているうちに終わってしまった。


(…おかしい!? 映画ならもっとスピーディにバンバン的を打ち抜いているんだがな。此のベストもビービーとうるさいよ!)


 コースのスタート地点へと戻るとソフィアが近くのテーブルにガンケースを開いていた。

 教官の一人が声を上げる。


「ほう、SIG P240 38SPLかいい銃だな。こいつは射撃競技にも使える高級品だな。これの姉妹品P320は陸軍の次期正式拳銃のも指定されているぞ」


「私の自慢のコレクションが、教官たちのお目にかなって嬉しいいわ。真新しいシルバーの輝きが、工業製品の(すい)を集めているのが分かるでしょ」。

「銃は、最新のものに限るわね。特にこれは精度が素晴らしい。精密機械のような銃よ」


「ゴトリ」


 その最新の銃の話題を断ち切るように、ジョニアスも後ろのベルトに差していた銃をそのテーブルに置いた。

 艶やかな木製のグリップ、青みがかった美しい銃身の上に着いた冷却のためのリブを備えた古いタイプのリボルバー。


「う~む、コルトバイソン357か、ずいぶんきれいなガンだな。後で俺にも撃たせてくれ」


(うおーっ カッコイ~っ コルトバイソンって言うのか? 男は此れだよな~、映画に出てくる様な銃だな。高いんだろな~)


 綺麗に磨き込まれた銃身に刻まれたコルトバイソンの文字、丸いチャンバーにレトロ感を生み出す木製のグリップ「男の銃」は隼人の男の子の目も引き付けた。

 実戦では、圧倒的に装弾数も多い最新のオートマチックに水を開けられてしまうリボルバーも、趣味嗜好の強い男達には、古くても磨き込まれたコルトパイソンに引き付けられてしまっていた。


 話題を奪われてしまったソフィア。

(全く、男って分かってないわね。銃は、機能がすべてヨ。其れを支える機能美が分からないなんて)


「今度は私が行く! お手本をみせてあげる。付いて来なさい隼人!」


(おっと! お手並み拝見っと)


 ベストに予備のカートリッジを放り込むソフィア。

 教官達の後ろに隼人は付いた。


(試してみよう)隼人は左目の瞬きを三回繰り返す。


 術後の目は完全に普段道理に復活していて見た目にはなんら変わりはない。

 しかし隼人の左目には十字の照準の様なものが浮かび上がった。

 ソフィアの動きと標的の出そうな箇所を意識する。


 ソフィアが走り出した。教官たちと共に走る。

 的の出現と共に響くスピーカーの発砲音。

 遮蔽物へと飛びこむと。


「タンッ タンッ タンッ タンッ」「カカーン」


(すごい! 一瞬で判断した。 反撃も素早い反応!)


 的までの距離は、約10メートルすかさず連射で撃ち返した

 二発明中!


(よし! 動きを真似ることで何か掴めるかも)

 後ろで隼人もその動きをなぞる様に模倣するように動いていく。


「タンッ タンッ タンッ タンッ」「カカーン」


 コースを進むうちにソフィアに一転歩遅れて動いていた隼人の動きが、徐々にソフィアの初動の動きに反応するように素早さを見せてくる。

 前を行く教官たちは気づかない。


 遠くから、この一行を眺めていたジョニアスは気がついた。

 隼人の特殊な手術を受けたことも知っている、その効果が少しずつ目に見えて現れてきていた。




 

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