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異世界放浪記  作者: まほろば
アラキからアブサンまで
33/43

シンとの会話



落ちた気持ちで着いたアブサンの町は気のせいか鉄臭い臭いの町でした。

鍛冶屋が密集してるから?

冒険者パーティーは着くと直ぐ消えました。

「冒険者ギルドに行くぞ」

シンの後を付いて行った冒険者ギルドは思ったより大きくて見回しても商業ギルドがありませんでした。

鍛冶屋は商業ギルドじゃなくて冒険者ギルドなの?

浮かんだ疑問を抱えて冒険者ギルドの中に入りました。

中には先客が、会いたくもない冒険者パーティーが受け付けに居ました。

リーダーは受付に居るお姉さんに怒鳴り散らしてメンバーをパーティーから抜くと言っていました。

メンバーは給金を払えと言いますがリーダーは何の働きもしなかった奴に払えるか、と自分が優位になる言い方をしていました。

地元だけにシンが冒険者ギルドに入ると声が掛かります。

その声に手を上げて返すと冒険者パーティーに気付かない振りで買い取りカウンターへ移動して2人で倒した狼をカウンターに出していきました。

受付の話がここまで聞こえているので誰が倒したのか言わなくても分かります。

討伐の報酬を要求するリーダーを見て、買い取りカウンターの職員が奥に声を掛けました。

でっぷり太ったおじいさんが出てきて買い取りカウンターの職員から短く話を聞くと受付へ移動して行きました。

その動作がちょっと笑えて、失礼だと自分を叱りながら、それでも成り行きが気になって目はおじいさんの背中に釘付けでした。

「買い取りには時間が掛かる。待つ間に飯にするぞ、付いてこい」



強引なシンに急かされて走って外に出ました。

お腹は空いていますがあの先を見たかったので空腹より残念が勝りました。

でもそれをシンに言える空気では無くて恨めしくシンの背中を見ていました。

「あのままあそこに居れば八つ当たりされると思わないのか?」

前から呆れた声が飛んできました。

八つ当たり?

意味が掴めない所にまたシンの声が飛んできます。

「今頃は俺たちに獲物を奪われたとマスターの同情を引いているさ」

「え?」

驚きで足が止まりました。

私が止まったのに気付いたシンも止まりました。

「奴は俺たちが狩った獲物を取り上げて着服する気満々だ。俺たちが居れば話が大きくなる」

言われて納得しました。

野次馬のつもりが当事者にされては堪らない。

からかうように笑われて、むくれながらシンの後ろに続きました。

「此処だ。何でも上手いぞ」

シンが太鼓判を押すだけあってお腹一杯なのにまだ食べたい美味しさでした。

「機嫌は治った様だな」

現金な私は素直に頷きました。

同年代とはとても思えなくて兄の様に感じます。

いつの間にかシンに対する言葉使いも年下の口調になっていたと今になって気が付きました。

「兄弟は居るのか?」

「兄と弟が」

小さい頃ほど仲は悪くないけれど良いとはとても言えなくて、お互いに互いのテリトリーには踏み込まない暗黙のルールが有ります。

「男に挟まれて揉まれた口だな」

本当でも肯定しませんでした。



「飯の後は手頃な剣を選ばないとな」

「あの、余り高いのは…」

この後を考えたら思いがけない臨時収入は極力取っておきたい気持ちが大きかったからもぞもぞと言葉の端を濁しながら伝えました。

「分かってる。冒険者が持つようながっしりした剣は選ばない。値段もな」

シンを信じて任せました。

大通りから2つ入った通りにある鍛冶屋で細身の剣を大金貨1枚で買いました。

握り易くて振り易くて代金の大金貨1枚を惜しいとは思いませんでした。

店主のおじいさんから剣を挿すベルトを買って差したままの座り方とか教えて貰いました。

「気に入ったようで何より」

シンは国中でここが1番だと言いました。

「ありがとうございました」

「またおいで」

「はい」

お礼を言いながら、きっともう来ない、とその時は思っていました。

「そろそろ終わった頃だな」

太陽の傾きを見てシンが言います。

シンと冒険者ギルドに戻るともうさっきのパーティーは居なくなってました。

「買い取り金額は17頭で大金貨8枚だ」

狼よりウサギの方が高いんだと知りました。

「半分は素人か?傷が多くて2匹は肉だけの買い取りになる。シンには珍しいな」

シンが途中で職員のお喋りを止めようとしましたがもう遅くて、私はシンの後ろで小さくなっていました。

ガロさんにも傷が多いと言われた事を思いだします。



職員はシンの後ろの私に気付いて気まずそうに何かを書いてシンに渡していました。

その足で受付のカウンターに行くとお姉さんに買い取りで受け取った紙を渡しました。

「はい、大金貨8枚。サインして」

お姉さんは事務的に書類をシンの前に置きました。

「昨夜の討伐の報酬は明日ギルドカードに入れるわ。それとアラキから討伐の報酬が来てるわ。『ユキ』って子の報酬もあるんだけど…もしかしたら後ろの子かしら」

お姉さんにきつい目で見られてシンの後ろでたじたじになりました。

「ああ」

シンは私の背中を圧して前に出しました。

「あなたが『ユキ』ね?」

わざとらしく区切って呼ばれて嫌な感じしかしません。

「…はい」

威圧的なお姉さんに小さく頭を下げました。

「報酬はギルドカードに入ってるの、引き出しますか?」

金額も知らないで引き出すか聞かれても答えられません。

「早くして貰えるかしら」

シンも疑う視線をお姉さんに向けます。

虎の威を借る気持ちで聞き返しました。

「金額も知らされてないのに、引き出すか聞かれても分かりません」

シンに『助けろ視線』送りました。

「ユキの報酬はいくらだ」

お姉さんはシンの顔色を読んで口調を変えました。

「大金貨3枚よ。Bランクのシンは1枚なのにね」

最後の言葉に悪意を感じました。

「発見者はユキだ」

シンの口調は冷たかったです。



「出すの出さないの」

「出します」

売り言葉に買い言葉みたいな感じで返しました。

ムカムカして、お金を貰ったらさっさとここを出ようと決めました。

「またあの田舎町に戻るの?Bランク冒険者になったのよ、恥ずかしくない暮らししてよ」

シンは聞き流していました。

「Bランクの妻にあんな妹じゃ恥ずかしいわ。私なら似合いだと思うわよ」

…えっ、…。

思い切りシンを睨んでしまいました。

携帯食は奥さんの手作りとかのろけながら奥さんのお姉さんに乗り換えるわけ?

聞いたらなおムカムカしました。

シンは黙っています。

言い返さないのは肯定しているからだと思ったら2人とも嫌いになりました。

「マスターも私の方が似合うと言ってるの、妹と別れたらあんな田舎じゃなくてアブサンに家を買いましょ。王都でも良くてよ」

「マスターも賛成してるんだな」

シンは低い声で確認しています。

見返せば能面のように表情の無い顔で正面を睨み付けていました。

馬車でもこの声の時のシンは怒っていて…。

「マスターを呼んでくれ」

シンは低い声で言います。

頭の中で危険信号が点滅しているのに何が危険なのか分からなくて緊張が押し寄せました。

分かっているのはシンが怖いほど怒ってる事だけです。

「良いわよ」

私の手続きを側の机で書き物をしていた青年に任せてお姉さんは奥に走っていきました。



お金は後で良いから嫌な予感のこの場から逃げ出したい。

それが私の本心でした。

お姉さんと来たマスターは笑顔でしたがシンの顔を見た途端に表情が消えました。

シンとマスターを交互に見ても何が起こっているのか分かりません。

「シン、奥で話そう」

シンはマスターに頷いてから私を見ました。

「長くは掛からない椅子に座って待っていてくれ」

私の返事も聞かずに行ってしまいます。

大きく一回深呼吸してシンを待つ事にしました。

日本人の習性でこんな時でも放って帰る選択肢が選べない。

待つ間に大金貨3枚を受け取って受け取りのサインをしました。

それでもシンが戻って来ないのでわざと青年に質問しました。

「ギルドカードにお金を貯めておく事も出来るんですか?貯めるのと引き出す時の方法を教えて貰えますか?」

ギルドカードに貯金する気持ちは無いので明らか時間潰しです。

青年に悪いと思いながら説明を聞きました。

出し入れにお金は掛からなくて、どの国のギルドからでも出し入れが出来るそうです。

カードや通帳を紛失した時銀行で求められる身分証の代わりがギルドカード?

カードを持ってる人がイコール本人になるらしく確認はしないそうです。

簡単に成り代われるのにこの世界ではそれが常識とか。

「手紙もですか?」

「手紙は一回銀貨1枚掛かりますが何処のギルドでも受け取れます」

「何処でもですか?」

方法は教えて貰えませんでしたが魔力を測る時みたいな通信用の物があるみたいでした。

私の中のイメージはファックスでした。

シンが奥から出てきたのはそれから30分くらいしてからで、マスターとお姉さんの姿は無くてシンだけが戻って来たのでした。

「待たせた」

「終わったの?」

「ああ、ここを出てから話す」

シンの案内で乗場の近くの広間に行きました。

座って直ぐにシンが言ったのは『俺は妻を愛している』でした。





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