<魔剣>”イザナミ”
「――!?」
まるで居眠りから起きる様にハッと目を醒まします。どうやら私はいつの間にか現実世界に帰還を果たしたみたいです。
「…………」
私めはぼんやりと手元……確かにこの小さな手にスッポリと収まっている短刀に視線を落とします。
そう物思いに耽っていた時でした。
「!?」
ゴォッー!、と耳の鼓膜と肌を焼き切らんばかりの音と熱がこちらに飛来してきました。
それは周囲が漆黒ながらも目立つ紅き焔の塊。
明らかに自然発生した物ではなく、私めに対して差し向けられたその攻撃を、
「うぅっ!」
脊髄反射的に、手に握られていた剣を振るうことで払い除けようとします。その結果、剣から黒いモヤが漂い、迫る焔を飲み込むように包み込みました。
何とか危機を脱したみたいですが、どうやら一難去ってまた一難。私めの自衛行為を咎める御方が現れたのです。
「……何ともお粗末で軽率。……抵抗さえしなければ身の潔白を証明できたというのに、その一手は悪手でしかない。……やはりその手に”力”を持っているんだ?」
そこにいらっしゃったのはこの【焔魔地帯】で工房を切り盛りしている<神>の一柱――<炎神>そして<鍛冶神>ことヴァ―ル様でした。
ヴァ―ル様は隣に佇むレオ様の方を向きます。
「……<獅子星王>、どうやら君の悪寒は的中したみたいだ。……彼女の手中には確実に”アレ”が握られている」
『信じ難いですがそのようですね。<無魔力の忌み子>、事実のみをお伝えください。その手には我々には到底目視出来ぬ”剣”が握られていますね?』
神たるヴァ―ル様の一撃を完全に防ぎ切ってしまった場面を目撃された以上、言い逃れは無理でしょう。私めは苦虫を噛み潰したかの如く首を縦に振りました。
「お二人はこの”剣”の正体をご存じなのですか?」
「……残念ながら詳しくは知らない。……伝承として使われた記録があるにはあるけど、そもそも視覚できない故、その話が真実かどうかすら曖昧」
『それでも唯一判明しているのは、”魔剣”と呼ぶに相応しい邪悪な力を宿しているということだけ。その名称すらはっきりとしません』
「そうなのですか? 一応、この剣は”イザナミ”というらしいのですが?」
「『え?』」
「あっ!」
やってしまいました! 思わず口を滑らせてしまい、言わなくていいことを口走ってしまいました!
ですが言葉として漏れてしまった以上、もう取り返しは付きません。
レオ様とヴァ―ル様は『何故それを知っている?』と言わんばかりの怪訝な表情をこちらに向けます。
「……まさか”剣”のことを誰かから聞いたりしたなんて言わないよね?」
「え……えっと……それについてはなんと説明すればいいか……」
『大丈夫なのですか? 知らぬ内に”剣”の悪意か何かに浸食されていたりしませんよね?』
「そ、それだけは断じて有り得ません! ”剣”のことを教えて下さった方は信頼に足る人物ですから!」
「……でも、本来誰にも知れ渡っていない”魔剣”のことをペラペラ喋ったのは事実。……その者はどうして”魔剣”のことにそんなに詳しい?」
確かに言われてみればそうです。<ヴォイド・ノーバディー>さんは”魔剣”イザナミのことについて熟知している節がありましたね。
(あの口振りはまるで使い慣れた武具の説明をするかのようでした。……ということはつまり、あの人は――)
頭の中にとある懸念が生まれる中、ヴァ―ル様は溜息を漏らします。
「……その人物の正体はさておき、例えこの出逢いが因果だとは言え、由々しき事態であることに違いはない。……まさかあの”魔剣”がこの工房の中で眠っており、しかもそれが本来あるべき場所――<無魔力の忌み子>の手に渡ってしまうとは。……さてどうしたものか」
「も、申し訳御座いません! け、決して好き好んでこれを引き抜いた訳では……」
「……それくらい知ってる。……現に剣や杖といった道具自体が持ち主を選ぶということはさほど珍しくは無いから。……皮肉だけど、その”魔剣”以上に<無魔力の忌み子>に適した武器はこの工房に無い。……形はどうあれ、<無魔力の忌み子>に武力を与えるという目的は達成。……ではここで改めて問おう。……その未知数で危険極まりない力を振るう覚悟はある?」
「私めがすべきことは終始変わりません。フーリは必ずこの手でどうにかしてみせます! それが私めの使命――そして他の<四大精霊>と結んだ約束ですから!」
私めがそう決意を表明した時です。
『「ッ!?」』
レオ様とヴァ―ル様の表情が一瞬で曇ります。
「どうなさったのですか?」
その問いに答えるまでもなく、レオ様は慌てた様子で私めとヴァ―ル様を背中に乗せ急に駆け出したのです。
「ほ、本当にどうしたというのですか!?」
今まで見せたことのないような緊迫感を醸し出しつつ、レオ様は重々しくこう呟いたのです。
『どうか驚かず聞いて下さい。……<陽光の剣士>と<火の大精霊>の気配が同時に消失しました』




