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<炎神>ヴァ―ル

※ここから数話はエメルダ視点の話となります。その点ご理解の上、お楽しみくださいませ。

「――――」


 一切速度を落とすことはせず、サンディ様から『デカ猫』と呼ばれる獅子は駆け続けます。その背中に乗る(わたくし)めは、あまりにも速いその走りによって振り落とされないようにしっかりと踏ん張ります。

 

(す、凄い……。身体からほのかに光源が出ているだけで、辺り一面はほぼ真っ暗だというのに全く意にも介しません。この方は一体()()なのです……?)


 そんな風に感銘を受けていると『デカ猫』さんは優しい口調で語り出します。


『そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。<陽光の剣士>は(それがし)のことを『デカ猫』としか呼びませんから本名は知らないでしょう? 某の真名(まな)は<獅子星王>のレオニダース。気軽にレオとお呼び下さい』

「レオニダースのレオ。そんな素敵な名前なのに、サンディ様は『デカ猫』としか呼ばないのですね? まさか知らないなんてことは無いですよね?」

『どうでしょうか。確かに最初に会った時に名乗りはしたでしょうが、興味が無いのかはたまた嫌っていたからか、一度も名で呼ばれたことはありませんね』


 それは何とも豪胆な話でした。

 ですが、サンディ様がレオ様に向ける態度や口調はどうにもぶっきらぼうで、少し乱雑な気もします。もしかすると……


「あの、失礼なことをお聞きするかもしれませんが、サンディ様とレオ様は仲違いしてらっしゃるのでしょうか?」

『恐らく……と言うよりもほぼ確実に、<陽光の剣士>は某のことを毛嫌いしていますね。……まぁ某達の間にも色々とあるのです』

「仮に”主従契約関係”を結んでいたとしてもですか?」

『えぇ、”主従契約関係”と(ひとえ)に言ってもその形は様々です。ちなみに、<無魔力の忌み子>と<四大精霊>の間柄はとても素晴らしい。是非そのままの関係を続けて下さい』


 いつの間にかサラッと褒められてしまいました。思わずポッと頬の部分が熱くなります。

 自然と小言で感謝を述べると、レオ様も微笑みます。


『こちらこそ、あの<陽光の剣士>と仲良くして下さり有難うございます。どうにも気難しいですし、良い意味でも悪い意味でも遠慮が無いですから付き合うのも大変でしょう?』

「そんなことはありません! 私めのことは妹のように可愛がってくれますし、<大魔女>アメルダ先生(師匠)に対しても当たりが強いように見えて本心ではとても信頼している様に感じられますから!」

『そうですか、それは何とも微笑ましい限りです』


 声色だけで喜びを感じていることがうかがえるレオ様はふと小さな声で呟きます。


『……良かった、<陽光の剣士>はちゃんとあの時の決意を有言実行しているのですね』

「? 何か言いましたか?」

『いえ、何も。そんなことよりそろそろ目的地に近付いてきました。<無魔力の忌み子>に見合った武器が見つかることを祈りましょう』


 そう言ってレオ様はより一層速度を上げ、<炎神(えんしん)>そして<鍛冶神>と名高いヴァ―ル様の工房へと向かうのでした。




 ●




『ここから明らかに雰囲気が異なります。どうやら到着した様ですね』

「はい、ここも未だに暗くてはっきりとはわかりませんが、明らかに匂いが違うのだけは確かです」


 何だか鼻をツンと突く鉄や錆に似た感じがしており、思わず顔をしかめてしまいます。それに、


「熱い……。やっと【焔魔地帯(えんまちたい)】の環境に慣れて少しは楽になったというのに、また辛くなってきました……」


 やはり工房というだけあって火を常に焚き続ける場所だからか、熱気むんむんです。……いいえ、ここの気温が一気に上昇した理由はそれだけでは無いでしょう。

 きっと<炎神>ヴァ―ル様がずっとここにいたからこその名残りなのだと実感しました。

 そこから来る緊張感をレオ様も察知していたのか、その足取りはとても慎重です。


『予想通りたくさんの武器が散見できます。ですが、どれも完成途中。これでは使い物にならないでしょう。これはやはり、奥に行かなければなりませんか』


 そう言ってレオ様は脇目も振らず堂々と歩み続けると、それに乗じてさらに熱さが増します。さながらそれは、ヴァ―ル様が遺した気配に近付くかのように――。

 そして進むこと数分。私め達は信じられない光景を目にします。


「光? ……いや、火……?」


 周囲はどこもかしこも真っ暗で、光源はレオ様が身体から発する光のみ。だというのに、眼前にうっすらとではありますが、ユラユラとゆらめく幽玄らしき物体が目に飛び込んできたのです。

 得体の知れない現象に呼吸すら忘れてしまう程の不気味さを感じた私めは息を詰まらせてしまいます。


『ほぉ……これはこれは。まさかご健在とは恐れ入りました』


 どうやらレオ様はその正体を即座に見抜いたご様子。そのまま軽快(けいかい)にその謎の物体へと接近します。

 するとそれの物陰が徐々に明らかになります。


(何やら人の形をしているような……?)


 内心平気なのかと不安に駆られつつも、レオ様はその人物に声を掛けます。


『初めまして。こんな状況……そしてあんなことがあったのにも関わらず、健気に槌を振るいますか。その熱意には素直に感服いたしますよ、<鍛冶神>』

「え……ッ!? そ、それって……ッ!?」


 全貌(ぜんぼう)は明らかではありませんが、レオ様がそう言うのならそうなのでしょう。

 レオ様に<鍛冶神>と呼ばれた存在はちらりとこちらを振り向くと一言、


「……(まぶ)し」


 と、とても気怠そうに目を覆ったのでした。




 ●




 ヴァ―ル様らしきその御方は確かに私めとレオ様に一瞥(いちべつ)をくれたというのに、すぐさま何も見なかったかのように前を向き直すと、目の前の作業に没頭し始めます。

 どこか無心に、それともとてつもなく集中しているのかは定かではありませんが、ヴァ―ル様の仕事振りに目を奪われてしまいました。


(良く見たら全身ボロボロで何とも痛々しいです。きっとフーリにやられた時の傷がまだ癒えていないのでしょう。ですが、それでも全く生気を失っている気配がありません。この生命力の高さ……やはりこの方も正真正銘<神>のお一人なのですね)


 そう<神>の凄さを再認識すると共に、その<神>すらをもここまで追い詰めたフーリの力も痛感することとなりました。


「……果たしてこの私めにフーリの相手が務まるでしょうか?」


 もしかするとこれからしようとしていることは無謀なのではないかと想っていた矢先、



『――――』



 ふと何かに呼び掛けられるような感覚に陥り、そちらの方を向きました。いつの間にか私めはレオ様の背中から降り、乏しい灯りの中を足元すら見ずに歩いていたのです。

 まるでその声に()()かれるが(ごと)く、一直線に向かったその先に一本の棒……否、一振りの剣が地面に突き刺さっていたのです。その前で立ち止まると、レオ様が慌てた様子で駆け寄って来ます。


『いきなり独りでに歩いてどうしたというのです? 危ないですよ』

「レオ様、この剣は一体……?」

『剣?』


 その口調から察せられるに、レオ様はとても戸惑っていることでしょう。

 私めもそれに同調します。


「はい、何とも不思議ですよね。何せこの私めすら感じ取れるのですから。この剣にはとてつもない力が秘められていることを」

『<無魔力の忌み子>……申し訳ありません。それは何かの冗談ですか? まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

「え!?」


 もしかしてこの剣はレオ様には見えていないと!? そんな筈ありません! 確かにここに!

 それを証明せねばとその剣に触れた瞬間、私めの目の前が真っ暗になり意識が突然事切れたのでした。

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