地底都市への入口
今回の話はキューレイ視点の話となります。
また伏線的な内容となっていますので、よくわかんねぇなぁと思ったら読み飛ばす感じでも構いません。
その点を踏まえた上でお楽しみください。
「こ、これはまさか!?」
わたしに案内された料亭【ヴァルハラ】の食糧庫に隠された隠し扉。
それを見せ付けられたエメルダちゃんは驚きを上げる。
彼女の反応とは裏腹に、<大魔女>アメルダ様は妙に落ち着いていました。
「やはり妾の憶測通りここに道が残っておったの」
「えぇ、【あそこ】のしぶとさは折り紙付きですから。噂では先の隕石落下事故の影響はちょっとの揺れだけで収まったらしいですよ?」
「そんなところじゃと思ったわい。つくづくここと【向こう】は別世界だと痛感させられるの」
「それでも行かれるのですよね? エメルダちゃんのために」
「うむ」
<大魔女>様ははっきりと受け答えをし、何があっても意思が揺るがぬことをこちらに示してきます。
(出来る事なら許可は下したくありませんがどうしましょう……)
ある意味でここは境界線。この先へ二人を案内しなければ何も危険なことは起きない。ならそれに越したことは無い。
そう考え、扉を開けることを躊躇していると、
「其方の気持ちも十分読み取れるが、妾達はここで立ち止まる訳にはいかぬのじゃ。地底都市の危険性については十分に自覚しておるからこそ、何があってもエメルダからは絶対に目を離さぬつもりじゃ。……現状其方にしか頼れる相手がおらん。どうか妾を――いや、エメルダを助けると思って手を貸してはくれぬか?」
そう言いつつ深々と頭を下げた<大魔女>様の行動にわたしは、げっと声を漏らしてしまいます。
「……<大魔女>様ともあろう御方がそんな軽々しいことをしないで下さい。……ズルいですよ、そこまでされたら通すしかないじゃないですか」
わたしは全てを諦め嘆息を漏らすしかなく、しょうがないと言わんばかりに扉の取っ手を握り、ググッと力を込めそのまま引き開けます。その向こうは一寸の光すらない階段が続いておりました。
「案の定灯りの一つも無いが、この”マナ”濃度なら松明は要らぬの」
<大魔女>様は杖を取り出すと、一つ詠唱を口にします。
「”灯火を司るマナよ、周囲に明かりを灯せ”」
その言葉と共に杖の先端が眩い光を発光させます。その後、<大魔女>様はゆっくりとした足取りで一歩を踏み出します。
「気を引き締めろ、エメルダ。ここから先はもう【コミティア】ではないからの」
「それはつまり……」
実際言葉に出されなくても何となく事情は察したであろうエメルダちゃんはゴクリと唾を飲み込むと、彼女もゆっくり階段を降り始めます。
「……ちょっと待って!」
何とも不安な足取りで階段を進むエメルダちゃんのことをわたしはつい呼び止めてしまった。
「はい?」
少しだけ表情に緊張感が走らせているエメルダちゃんの不安そうな顔を見て心が締め付けられたのか、わたしは本来やってはいけないことをしてしまっていた。
「これを持っていって!」
私がそう言ってエメルダちゃんに手渡したのは首飾り。多少の”魔術”ならはじいてしまえる護符であった。
それを受け取ったエメルダちゃんはあたふたと狼狽する。
「よ、よろしいのですか!? これはキューレイ様にとって大切な物なんじゃ……」
「今それを持っておくべきなのはわたしじゃなくてエメルダちゃんの方よ。本当は道案内だけしちゃいけなくて、こういった餞別を送るのはダメなことなんだけど、それでエメルダちゃんに加護が与えられるならそれで構わないわ」
「で、ですが……」
それでもなお渋る仕草を見せるエメルダちゃんのことを先導する<大魔女>様が呼び付ける。
「ほら、先生が待ってる。行って行って!」
「は、はい!」
まだ何か言いたいことがありそうなエメルダちゃんでしたが、<大魔女>様を無視は出来ないと判断し、急ぎ足で階段を駆け下ります。
(二人共、どうかご武運を)
わたしは暗がりの中に消えていく二人の背中に向け、こう心の中で呟くとゆっくり隠し扉を閉める。
それと同時に、わたしはいつの間にか背後に迫っていた人影から見下されていた。
「――今の行為は看過出来ませんね、キューレイ。そこまでするのはあなたの領分では無いのではありませんか?」
わたしはその声の主に背中越しに元々の口調で言葉を返す。
「相変わらず規則とか約束事にうるさいね。敢えてやったのよ、敢・え・て! これくらいいいでしょう? これからあの二人が対峙するのは<あなた>なんだから、ちょっとした助力には目を瞑ったらどう?」
「……敢えてやった? それはこっちの台詞です。所詮あなたの行いは無駄です。例えあなたの<神器>がどれだけ厄介だろうとも、わたしと<姫>の<神器>には到底敵いません。精々一回防ぐくらいが限度でしょう」
「あの二人にはそれで十分。ほんと、ニンゲンが秘めた可能性をとことん信じられないんだ。巨体な癖して寛容の器は小っさいこと」
そうあからさまな挑発をしてやると、後方の相手は声に圧を乗せてきた
「黙りなさい。元はといえば、わたしがニンゲン不信になったのは我々<神>に反旗を翻したあなた達――<勇者>一向のせいではありませんか?」
「まだそのこと恨んでるの? いつまでも過去を引きずっててダサいなぁ」
その一言が引き金となり、わたしの周囲に土で出来たトラバサミが張り巡らされる。
「ひとつだけわたしの問いに答えなさい。――今あの<勇者>はどこで何をしているです?」
まるで、適当なことを言ったり無言を貫いたらこのまま押し潰すぞと言わんばかりの脅迫にわたしは肩を竦める。
「逆にわたしが教えて欲しいくらいだわ。あの娘、一体どこで油売ってるんだろうね? どこか人里離れた高山の上で趣味の造形品造りに没頭してたりして? まぁ、有り得ないか。あはは!」
「……話になりません」
わたしの本音に嘘が無いことを察知した相手は面倒臭そうに足元の”魔術”を引っ込める。
「あれ? 何もしない感じ? 何だか拍子抜け」
「勘違いしないで下さい。その必要がないと判断したまでに過ぎません。あの憎っくき<勇者>の居場所を掴めない以上、あなたに用はありません」
「憎いって酷いな。あの娘なりに必死の選択をしただけだったのに」
「なら我ら<神>に面倒事を押し付けて良いと? それこそ酷い話です」
「……本当にお互いの主張はすれ違いばかりね。これ以上売り言葉に買い言葉の応酬をするのは疲れちゃうから辞めたいな」
「その点については同感です。こう見えてわたしはとても忙しい。また<大魔女>に裁きを与えなければならないと思うと憂鬱で仕方ありません」
わざと面倒臭そうに息を漏らす相手にわたしは同情する。
「ねぇ、いつまでも過去に縛られるのはあなたの為にもならないんじゃない? もうそろそろ前を向いたらどう? あの<無魔力の忌み子>みたいにさ?」
「理解不能です。どうしてあなたもポセインも無力な彼女に期待を寄せるのです?」
「そりゃ、ニンゲンに施しを与えるのがわたしの使命だからね――っていうのは建前で、本音はあのエメルダちゃんの可能性を舐めんなよって言いたいだけなんだけど。もしかしてあのポセインも同じこと言ったんじゃない?」
「……二人共つくづく愚かしい。もう無駄話はいいですか? あの首飾りが無い以上、もうあなたに加護は施されていないのでしょう? ならさっさと退場なさい」
「うわぁ……全部お見通し? ならお言葉に甘えて休ませて貰おうかしら」
最低限やるべきことはやれた。
それに満足感を覚えたわたしはゆっくりと目を閉じ、残りのことはあの二人に託しつつ、深い眠りに落ちるのだった。




