地底都市【アンダグラーダ】
【コミティア】における集団催眠事件の真相を追う私めとアメルダ先生。
そこにて唯一の生き残りであった街の料亭屋の女性であるキューレイ様と再会すると共に、詳しい話を聞いたところ衝撃の事実が発覚します。
一つ目は外部からの”魔術”干渉があったこと。
そして二つ目は――
「おい、キューレイ……あの匂い袋の正体は一体何だと言うのじゃ? あんなけったいな物、いつの間に【コミティア】に運び出された……?」
基本的に冷静沈着である先生すらをも震撼させる謎の小袋。それについて知っていることをキューレイ様が語り始めます。
「これはですね、エメルダちゃんが見事【シールス】旅行券を引き当てた”コミティア大福引大会”で配られた参加証なのです。俗に言われる残念賞的なそれですね」
最初の説明としては、ただの安眠を誘う仄かでさわやかな匂いがする物だと聞かされており、試しに寝る時に使用した所、一度嗅ぎ、眠りに就いてしまうと二度起きれなくなる劇物だったのです」
「劇物……そりゃ間違いではないでの。何せこの妾すらクラッとさせる代物なんじゃからな。してこれの出処は?」
「申し訳ありませんが不明です。景品はまとめて色々な所から調達しましたから」
最低限どこから紛れ込んできたさえ絞れれば話はもっと簡単だったかもしれません。しかし、その手掛かりを掴めず仕舞いで先生は頭を悩ませます。
「…………」
私めも私めでこの場に居る以上、例え意味が無くとも知恵を絞るのが礼儀でしょう。なら私めなりに考えてみることにします。
(寝る……眠らされる……。何だか最近、それに関連した話を聞いたような……)
ふとそのことを思い出した私めはハッとします。
「ん? どうした、エメルダ」
「先生……これってもしかして地底都市にいるとされる<彼女>の話に関係する話では?」
ふと発した私めの一言に何故かキューレイ様が慌てふためきます。
「ッ! 地底都市!? エメルダちゃん、あなた地底都市って言いましたか?」
「え、えぇ、確かに言いましたが、何か不自然な点でも?」
「不自然極まりないです! そもそもエメルダちゃんはあんな場所を知らなくていいというのに! …<大魔女>様、もしや彼女に何も話していませんね?」
「変に怖がらせる必要はないとしての判断じゃ」
「なら最初からあそこの存在を示唆しなくとも……いや、それは違いますね。何か訳アリなのですか?」
キューレイ様の問いに先生ははっきり首を縦に振ります。
「もう一つ質問です。それはエメルダちゃんのためですか?」
「あぁ」
先生の短い言葉にキューレイ様は困った様に頭を抱えます。
「全て、承知と覚悟の上ですか……。しかし、全く何も知らない人を通す程、わたしは甘くありません。わたしが【あそこ】へ入国させる権利を持つ以上、説明の義務があります。それでも構いませんか?」
「次の目的地が【地底都市】である以上、其方を頼るしかないからの。スマヌな、いつも辛い役ばかり押し付けて」
「いいですよ、あくまでわたしは知らないフリを続ければいいですから。では語るとしましょうか。これから二人が向かう場所の危険性について――」
いつもとは打って変わってとても重々しい空気を発するキューレイ様の言葉に息を詰まらせるのでした。
●
地底都市【アンダグラーダ】。そこはその言葉通り、地下に張り巡らされた都市のことを指すそうです。
「ですが、ただ地下にあるだけの場所に留まらないのが問題。結論から言うと、わたし達が今居る様な表の世界とは異なり、裏の世界と呼ばれる所謂無法地帯なんですよ」
無法地帯。例えば違法スレスレの闇取引が行われたり、略奪や暴力といった行為も取り締まられることはなく、言わば法も秩序も全く通用しない場所であることが窺え知れます。
「しかし、最近そんな【アンダグラーダ】に異変が起きているのです。基本的に来る者拒まず去る者追わずの姿勢を取っているのですが、おかしなことに来る者が多くなっているというのに、去る者はあまりにも少ないんですよ。ついこの前、とある謎の少女が【アンダグラーダ】を統治し始めたのを境に、です」
「それは全く無関係とは言い切れませんね」
「それでも確証はありません。実際にその実情は知りませんから」
「…………」
キューレイ様の話は何となく理解出来ました。それ故、とある疑問が浮かび上がります。
「あの、どうしてキューレイ様はそこまで地底都市のことにお詳しいのでしょう? それにアメルダ先生はこう仰りました。そこへの道標を頼むと。ではキューレイ様と地底都市にはどんな繋がりがあるのです?」
こんな素朴な問いにキューレイ様は立ち上がりそのまま店の奥へと進みます。
「来て下さい。この先にその答えがありますから」
言われるがまま後を付いて行くと食材を管理する倉庫があり、キューレイ様は床に敷いてあった布を取っ払います。すると、そこから驚愕の物――
「こ、これは!?」
隠し扉が顔を出したのでした。




