無慈悲な一発
『ウチはにんげん達が言う所の<水の大精霊>って呼ばれる人成らざるバケモノの内の一人なんだし』
サラッと告げられた衝撃の事実|(とは言っても、<ヴォイド・ノーバディー>さんの口振りからして薄々そうなんじゃかいかと予想はしていましたが)に、私めはキョトンとしてしまいます。
私めのそんな反応を見て、ディーネは溜息交じりの苦笑を漏らしました。
「ハハ……やっぱし引いちゃったし?」
「ひ。引くだなんてそんな……。どちらかというと驚きの方が大きいよ。だってそんな素振り全く見せてなかったでしょ?」
「そんなことないし。最初会った時話したじゃん。海の中に潜って巨大魚と闘ったって。今思えばそれだけでも常人離れしてるし。そんなのどう考えたって”まじゅつ”の領域じゃないし?」
「…………」
そう言われてしまっては私めに反論する術はありません。
(いつも間近で<大魔女>アメルダ先生の”魔術”を観察していたからこそわかります。多分先生の”魔術”を以てしても、海の中に潜り続けることは不可能に近いでしょう)
信じ難い話ではありますが信じざるを得ないと、私めは表情を曇らせてしまいます。
「本当にディーネは<四大精霊>の内の一人である<水の大精霊>なんだね? まさかディーネがそれだなんて。でも不思議、だって貴女は記憶喪失でしょ? それだけは理解できたんだ?」
「理解したというよりも、事実を伝えられたって方が正しいし。ウチが<水の大精霊>であるということはこの銃――<神具>”トライデンタル”が全部教えてくれたし」
ディーネ曰く、<水の大精霊>延いては<四大精霊>と呼ばれる”マナ”の集合体たる存在は全員、神話上の<神>が扱う<神具>から”マナ”を抽出する形で生まれたのだとか。つまり<四大精霊>は、<神>と主従契約関係を結ぶ”使い魔”的存在とも表現できるみたいです。
「<四大精霊>と<神>にそんな関係性があったんだ。てっきり<四大精霊>って存在は自然発生するものだと思ってたよ」
「ウチもその真実を知った時はビックリしたし。けど何だか腑に落ちない部分もあるし。何せ本来<神>の持ち物である<神具>をどうしてウチが持ってんだし?」
「それは主従契約を結ぶ<四大精霊>にも扱えるようにしてるからなんじゃない?」
「わざわざそんなことするし? もしウチが神だったら、そんな大切な物を他人に触らせる訳無いし。エメっちもそう思うでしょ?」
「確かにそうだね。私めもきっとそうするよ」
そういうことならディーネの疑問にも納得がいきます。
ですがその真相の答えはそんなすぐ判明する筈もなく……
「なんだか変な話だね。いつもとは違うことが起きてるってことは、何だか不気味な雰囲気がするよ」
「同感だし。多分、ウチという存在の誕生自体も普通じゃない気がするし。何だか無理矢理に叩き起こされたというか、従来通りの手順を踏んでないような感じもしてるし。……はぁ、こうやっていくら悩んでも答えは出ないし。ねぇ、エメっち? ウチって一体何者なんだし?」
「! ディーネはディーネだよ! 今こうして生きて立っている立派な存在だよ!」
私めの全力のフォローもどうやらディーネには届いておらず、彼女はまるで全てを諦めたかのように否定の言葉を吐き出しました。
「そんなことはないし。やっぱりウチは出来損ないだし?」
「で、出来損ないだなんてそんなこと言わないで! ディーネは記憶が無くても一生懸命前を向いてるじゃない!」
「前なんて向けてないし。実際、絶賛路頭に迷いまくり中だし。ウチはさ、<四大精霊>というにんげんとは大きく異なる存在であることを自覚した上で、生きる意味を模索してたんだし。要するにウチはさ、自分が異常だと理解しながら、出来得る限りの努力を以て、表面だけでもにんげんみたいに振舞おうと躍起になったんだし。だからウチはその一環として、にんげんのことを深く知ろうと、マブダチという形で接触を図り、あわよくば彼らの役に立ちたいと思ってたんだし」
「そういう経緯があったんだ。だからかな? 先生のことを助けられず、とても悔しがってたのは?」
「だらしないことにね。何だか滑稽な話だし。普通の人間よりもよっぽど特別な力を持ってるのに、たった一人のにんげんすら助けられなかったんだからさ」
ディーネはそう言いつつ、自嘲気味に笑いました。
私めはそんなディーネが不憫でならなかったし、ある意味で私めと似た所があったからとても共感してしまいます。
(私めだって<無魔力の忌み子>として生を受けたことで、今まで散々な目に遭ってきました。私めも私めで自身の素性との向き合い方に難儀しているのです)
私めの悩みは私めにしか理解できないと思っておりましたが、まさか<精霊>のディーネも同じ様な不安に駆られていようとは……。
(事前情報では、<精霊>達は傍若無人の限りを尽くしてる相当な危険人物で、<陽光の剣士>サンディ様や<大魔女>アメルダ先生ですら手に負えないと聞かされていますが、全然話が違うじゃありませんか)
「…………」
(もしかしてこれがあの言葉の真意……だったりするのでしょうか?)
この時ふと、サンディから託された言葉を思い出します。
『どうか<四大精霊>達を救ってあげて。きっとそれは<無魔力の忌み子>であるエメルダちゃんにしか叶えられない奇跡だとワタシは信じているわ』
その話を聞いた時はまさかそんなこと、と半信半疑ではありましたが、今思うと的は得ていたと感じられます。とは言え……
(本当にこの私めに務まるでしょうか? サンディ様や<ヴォイド・ノーバディー>さんの期待を裏切りたくはないとはいえ、出来る出来ないかは未知の領域です。最低限最善は尽くしますが、果たして私めにそんな奇跡が起こせるでしょうか?」
「…………」
何だか胸が締め付けられる想いに駆られ、自然と動悸も激しくなります。
(ディーネはあんなに自分のことを話してくれた。……ですが一体何故? どうしてディーネは自身のことを私めに語ったのです?)
普通であればその素性は隠すべきでしょう。それをわざわざ私めに公言した理由を問い質します。
「ねぇディーネ、あなたの正体や事情は良くわかった。その事実を口にするのは相当勇気が必要だったよね? だからこそ聞かせて。それを本来初対面である筈の私めに伝えてくれたわけを」
「……実はウチ、エメっちの秘密をアマっちから聞かされたし。だからさ、ウチだけ相手の重要なことを知ってて、ウチのことは秘密!ってのは平等じゃないし?」
「先生が私めのことを? ――ということはつまり!?」
先生はどうしてそのことを……と思わなくもなかったのですが、あの方にはあの方なりの考えがあるに違いありません。ですが、 私めは想定し得る限り最悪の展開を予測します。
「もしかしてディーネは私めが……」
「うん。エメっちの本当の名はエメラルダじゃなくてエメルダってんだね。記憶喪失のウチでも流石にわかるし。その名と翠色の髪を持つ少女が<無魔力の忌み子>であるってことがさ」
「やっぱり……」
(せっかく周囲の人々のために隠し通していたというのに、こんな簡単にバレてしまうなんて。この事実を知ったディーネはきっと蔑むに決まって――)
そう高を括った私めに対し、ディーネは信じられない行動に出ていました。
なんと彼女は、<神具>”トライデンタル”の銃口をこちらに向け、そのまま発砲したのでした。




