出来損ない+欠陥品
<水の大精霊>ディーネに、私めが世界に厄災をもたらす<無魔力の忌み子>であることがバレてしまいました(正確にはアメルダ先生がそのことをディーネに暴露した形ではありますが)。
本来なら絶対に隠し通すべき事実を知られ身の危険を感じましたが、案の定ディーネは私めに一丁の銃――<神器>”トライデンタル”の銃口をこちらへと向け、そのまま無慈悲の一発を放ったのです。
「――――」
思わず目を瞑りますが、私めの身体には何一つとして傷や痛みがありませんでした。
「……?」
確かにディーネが持つ銃の先からは発砲した証拠である白煙が立ち込めていました。つまり銃は撃たれたのは確か。では一体どこに?
そう思い、弾丸が撃ち込まれた方向を見つめると、そこには――
『チィッ!? どうしてアタイの存在が見抜かれてんだ!?』
つい数分前、私めを海の中へと攫っていった水製の掌があったのです。
「やっぱしエメッチの後コソコソ付いて来てたし? でも残念。ウチの感知能力の前じゃ全部お見通しだし?」
どうやらディーネは初めから私めではなく、いつの間にか背後に迫っていた掌に標準を合わせていたようです。
「エメっち、安心するし。もう二度とあんなヘマはしないし」
「う、うん」
私めはディーネが放つ気迫に思わず生唾を飲み込みます。
(ディーネの面持ち、今までにないくらい真剣そのものです。やはり先生を目の前で助けられなかったことを相当悔やんでいるのかもしれません)
ディーネの殺気立つ視線に晒された水の掌から声が響き渡ります。
「ひぇ~、おっかねーおっかねー! マジでアタイを撃ち抜く気満々――」
謎の声の主が言葉を言い切る前に、ディーネは再び”トライデンタル”の引き金を引きます。その結果、件の手の原形が跡形もなく崩れ去ります。
『おいおぃ!? 一切躊躇がねぇなぁ!? 話す間も与えないってか!?』
「当たり前だし。お前の正体は知らないけど、エメっちとアマっちを危険に晒した敵当然だし。なら躊躇う必要は皆無だし?」
『敵~? そう悲しいこと言ってくれんなよぉ~? 仮にもアタイとお前さんは直接血が繋がらずとも、親子みたいなもんなんだかさんさ?』
「はぁ? 何、意味不明のことほざいてるし?」
『その口振り、まさか自覚してないってか? それとも記憶が曖昧だったりするかい?』
「そうだけど、そのこととお前の言葉にどんな繋がりがあるし?」
こんな会話を交わしつつも注意力を怠らないディーネに対し、海から聞こえる声の主はこう答えます。
『それだよ、それ。今正にお前さんが握ってるその銃がアタイとの関係を示す証拠さ』
「それって”トライデンタル”のことだし? ってことはつまり……?」
『やっと理解したか。そうさ、アタイは――』
「この銃を付け狙う盗人か何かだし!? この銃の本来の持ち主はウチじゃないけど、お前みたいな奴には絶対に譲らないし!」
『…………』
「…………」
ディーネの素っ頓狂な言葉に私めと水の掌は口をポカンと開け、唖然としてしまいます。
『……あー、そこの嬢ちゃんはアタイの正体に気付いてるかい?』
「は、はい、何となく話の流れから。もしかして、この街にある某銅像のモデルとなった……?」
『そうそう。本当なら『恐れ戦け!』って豪語するつもりだったんだが、まさかこんな肩透かしを受けるとはねぇ~』
「えっ? えっ!? ちょっと、敵同士の二人で何か通じ合わないで欲しいし!? お願いだから、ウチを置いてけぼりにしないで欲しいし!?」
涙目で訴えかけるディーネの慌て具合に辟易したのか、水の掌から大きな失望に満ちた溜息が吐かれます。
『……まさかこんな低次元の展開になろうとはな。つくづく災難しか続かねぇ。無理矢理叩き起こされるわ、<大魔女>に因縁付けられるわ、愛銃を全く相応しくない雑魚にパクられるわ……それもこれも全部嬢ちゃん――<無魔力の忌み子>のせいだ。この落とし前、その身に宿る命一つで付けてくれ』
「!?」
刹那、いきなり目の前の海が振動を始め、その拍子に海の中から無数の水滴が浮き上がると、まるで弾丸の如くこちらに飛んで来たのです。
「! あぶないッ!」
咄嗟に危険を察知したディーネが私めの身体を突き飛ばします。そのせいで、本来私めが受ける筈だった攻撃を全て肩代わりしたのです。
「ディーネ!?」
水弾だったので出血はありませんでしたが、圧縮され速度もあったことから弾を受けた部分は激しく痣を作っていました。
「大丈夫、ディーネ! どうして私めなんかのために!?」
『それについてはアタイも同意だ。どうしても解せねぇ。お前さんはどうしてそこまでそのお嬢ちゃんに尽くす? 所詮お前さんらは初対面に過ぎんだろ?』
「そうだよ! ディーネが私めにそんなことをする義理は端からないんだから!」
掌の意見に同調した私めの主張を、ディーネは荒い呼吸をしつつ声を絞り出し否定します。
「それは……違うし……。だってウチとエメっちの……仲だし……? なら助けるのは……当然だし」
「その仲ってのは、もしかしてマブダチのこと?」
ディーネは苦しい状況にも関わらず、満面の笑みを浮かべます。
私めはディーネの言葉が信じられず、顔を歪めてしまいます。
(ふざけないでよ、そんなしょうもない理由で命を張らないで……)
思わず涙ぐんでしまう私めの頬に、ディーネは優しく手を触れます。
「涙なんて出しちゃダメだし。じゃないとエメっちのことを護れって託したアマっちに怒られちゃうし……?」
「ディーネ……」
彼女の真剣な想いを受け止めましたが、水の掌から失笑が漏れます。
『つまんねぇお涙頂戴展開は止してくれ。ぶっちゃけた話よ、記憶も力もままならないお前さんが他人のために奮起する姿は滑稽を通り越して無様だ。だからこれだけは断言できる。<水の大精霊>ディーネ……お前さんは生きる価値のない――』
「黙りなさい!」
『あん?』
私めの横槍に水の掌――基<海神>ポセインは不機嫌そうな態度を示します。
直接的な姿が見えないその背後に潜んでいるであろう本体からの威圧を真正面から受けながらも、私めは一歩も引きませんでした。
「ディーネのことを何も知らないで勝手なことを言わないで!」
『その言葉そっくりそのまま返すぜ? かくいうお前さんもディーネのことを全部理解してんのかよ?』
「知りませんよ、そんなの! だからこそこれから関係を深めれば良いのです!」
私めは倒れているディーネの手を引き立ち上がらせ、その隣に立ちます。
「ディーネ、あなたは自身のことを出来損ないって言ったよね?」
「うん」
「なら、その欠けた部分は私めが補うよ。私めも私めで魔力を宿さない欠陥品。そんな二人が合わさればちょっとはマシになるんじゃない? だから、どうか全てを一人で背負い込まないで。……これからは二人で困難を乗り越えよう!」
「エメっち……そうだね!」
そう屈託な笑顔を向け合いつつディーネと手を繋ぎ合わせます。
すると、何だかいい雰囲気になりつつある私め達にポセインが茶々を入れます。
『困難~? それってもしかしてアタイのことか~? へぇー、良い度胸じゃねぇか……ッ! 片や戦闘力ゼロの<無魔力の忌み子>。片や本領の一部すら引き出せていない<水の大精霊>。そんな無能同士が結託して何になるってんだ?』
「「二人じゃないです。もう一人います」」
『あ?』
ポセインが怪訝そうな声を発した瞬間、彼女の掌がまるで次元毎引き裂かれたかのように両断されたのでした。




