アメルダ、ジェラシーを感じる
この話から当分の間、アメルダ視点で物語が展開していきます。その点ご理解の程、よろしくお願いいたします。
<大魔女>と<無魔力の忌み子>。
先生と弟子。
……そして、母と娘。
それが妾――アメルダとエメルダを繋ぐ関係性であった。
そのことについてはこれといった不満や不安は無い。……とは言え、悩みが無いといえばそれは嘘になるでの。
(勿論、今ではもう日常生活のアレコレについてはエメルダに任せっきりの状態にあるのはどうかとも思うが、それはまぁその脇にそっと置いとくとして……)
肝心なのは、あくまで妾とエメルダは家族でしか無いということじゃ。
(こう見えて妾は、他人とフランクな会話を楽しみたい口での。理想としては<陽光の剣士>サンディと交わすような冗談交じり(と言っても小馬鹿にされるのは少々解せぬがな)の遣り取りをしたいと思っておるのじゃが、それはどうにも難しいというのが現状じゃ)
一見すると家族という間柄は、何人たりとも踏み入れられぬ聖域ではあるが、それは同時に何があっても覆せないはっきりとした上下関係がそこにはあるとも言えるでの。
つまり妾は、絶対にエメルダの親友になれぬということじゃ。
(だからこそ、その役目は他人に譲る必要があるでの。それ故エメルダに一つの任として、『呼び捨てやタメ口を言えるくらいの友人を一人でも良いから作れ』と伝えた)
するとどうじゃ。まるでその話に指し示したかのように、ディーネという陽気でフランクな少女がエメルダの”マブダチ”になると名乗り出てくれた。
(その巡り合わせについては、この妾も喜ばしく思える。じゃが、どうしてか心の奥がモヤモヤ……いいや、ムカムカとしておる。この感情はつい最近感じたことがある。それは、エメルダがサンディと二人っきりで【神都】に向かうのを見送った時に抱いたモノじゃった)
この心の動悸の正体を妾は知っておる。これは嫉妬じゃ。
妾はきっと許せぬのじゃ。エメルダが妾以外の前で砕けた話し方をしたり、妾には絶対見せぬ顔を他人にだけ見せることが。
(まさか<大魔女>であるこの妾がそんな感情を抱くことになろうとはの……。なんとも身勝手でワガママで、大人ながら子供じみたことをしてしまっておるわい。じゃが、こればっかりは簡単に呑み込むことは出来ぬでの)
エメルダにとって初めての友人は本当にかけがえのないモノ。それがもしうまくいかなかったらエメルダはきっと悲しむじゃろうし、妾も彼女のそんな顔は見たくはない。
じゃからこそ……じゃからこそじゃ。
(生半可で中途半端の者をエメルダの友人として迎え入れることだけは絶対に見過ごせん。最低限、妾の御眼鏡に適う――そう。例えエメルダが<無魔力の忌み子>であると知ってもなお、何不自由無く接せられる者かつ、もしもエメルダと共にトラブルに巻き込まれた時、その困難にも立ち向かえる強き者が最も相応しい……というのが妾の意見じゃ)
だからこそ妾は――
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「どうしても妾はあのディーネという娘がいけ好かぬでの」
妾はそういって悪態を付いてしもうた。
しかしその言葉は誰にも届くことは無かった――否、そうなるように妾は他人から距離を取っていたと言った方が正しいのかもしれぬ。
「…………」
そんな風に若干イタい態度を見せる妾は無言で目の前の二人の様子をぼんやりと見つめる。
一人は妾にとって最愛の娘であるエメルダ。そしてもう一人は、妾とエメルダとの間にズケズケと割って入ってきたディーネと名乗る少女。
現在二人は海の中へと入り笑顔ではしゃいでおった。
その最中、エメルダはこちらに手を振るが、妾は何とも元気のない顔を休憩用パラソルの下から返すことしか出来んかった。
「はぁ……」
妾は何とも元気が湧かず、疲労と共に吐息を漏らす。
(今の妾は正しく、悲哀に満ちておると言えるじゃろうな……)
とは言え、状況を冷静に分析してみたら、あのディーネという娘は何一つとして悪くないのである。
ただ妾がエメルダに対し過保護になり過ぎておる、というのが正しい表現と言えよう。
そんな時、ディーネが口にした単語が頭に浮かび上がる。
(……シスコンか。それは言い得て妙じゃの。確かにエメルダの関係性に親が介入するというのは度が過ぎておる。エメルダがどういう者と関りを持つのか? それを決め、友情を育むのは他でもないエメルダ本人じゃ。決して妾が口出しできる問題ではないのじゃ)
「…………」
じゃが、エメルダの友は彼女を護れる存在でなければならないという条件だけは絶対に譲れぬ。
だからこそ今は傍観の時。妾はディーネがそれに相応しいかどうかをじっくり見定めることにしたのじゃ。
「……?」
そう決心した時である。海で遊んでいるエメルダとディーネのずっとずっと向こうから、妙なマナの乱れ――さながら空間の歪みとも言えよう――を感じた。しかし、その違和感は一瞬の内にパッと消えた。
「何じゃ、今のは……?」
恐らくこの【シールス】の砂浜において、<大魔女>たる妾しか気づいていなかったであろう異変に眉をひそめるのじゃった。




