「待たせたのぉ~。――妾じゃ!」
「ゲホ……こ、ここは……?」
突然目を醒ました私めは、中々開かない瞼を必死に開けます。
(右目……が……)
どうやら落石か何かが当たったみたいです。失明ではありませんが、当分機能不全に陥っていることでしょう。
「…………」
私めは残った左目で辺りを見渡します。ですが辺りは真っ暗で何も見えはしません。
(状況から察するにここは屋敷の地下室でしょうか? どうやら私めはすこぶる運が良かったみたいです)
地下という地面から多少なりとも奥まった場所におったからこそ、隕石が地下室の手前で引っかかっていた様です。きっともう少し隕石落下のタイミングが遅く、地上部分に出ていた時に襲来していたらひとたまりもなかったことでしょう。
その代わり地下に生き埋め状況となってしまいましたが……。
(とにかく外へ……。その為には灯りか何かが必要です。まだ消えていなければ、きっと向こうに……)
私めは記憶を頼りにある方向へと進んでいきます。するとそこには、
(ありました、一本だけ!)
アメルダ様の最強の杖――<黒樺の杖>が封印されていた小部屋にある燭台があったのです。
あんな衝撃がありながらも健気に青い炎を灯すロウソクを掴みます。これで幾分か周囲の状態を確認出来る様になりました。
(一刻も早くここから脱出しなければ)
隕石がまた降ってくるという最悪のケースを想定するならここに居座るのは何かとマズいでしょう。それに私めはこの<黒樺の杖>をアメルダ様に渡さなければならないのです。
(あっ! あそこに小さな隙間が!)
私めはギリギリ身体をねじ込める位の穴を見つけそこへ入っていきます。
そして全身を泥と土塗れにしながらも地上に這い出たのです。
●
こうして何とか地下から脱出した私めは悲惨な光景を目の当たりにします。
「…………」
(やはり屋敷は見る影もなく潰れてしまいましたか……。これもきっと私めのせい。アメルダ様になんと謝れば……)
そんな風に顔を俯かせていると、
「!?」
これでもう既に三回目となる巨大な地震が発生します。
(まさかこんな間隔が短く……ッ!?)
『ゴオオオオォォォォォ……ッ!!!!!』
遥か上空から、つい昨日街を丸飲みにした物よりも明らかに大きい隕石がこちらへ迫って来ておりました。
言うまでも無く危機的な状況。そんな時であっても私めは逃げることすら出来ず、笑う事しか出来ませんでした。
「ア……ハハ……」
(結局こうなってしまうのですね……。やはり私めは無価値な<無魔力の忌み子>。こうなることが運命の様に感じられます……)
「…………」
(結局、私めはアメルダ様との約束すら守れませんでした。私めはなんと浅ましく甲斐性無しなのでしょう……)
私めは未だ手に握った<黒樺の杖>を空に掲げます。
それと同時に何故か口の中がしょっぱくなりました。
「出て……出て下さい、魔力~……」
私めは<黒樺の杖>を必死に振るい、何としてでも”魔術”を使おうと躍起になります。
ですが、奇跡は起きません。いくら力を込めても……いくら踏ん張っても魔力が絞り出せません。
「うっ…うぅ~……」
(なんで……なんで……なんで! なんで私めには魔力が無いのです!? なんでこの私めが<無魔力の忌み子>でなければならないのです!? なんて普通の人と同じ力を授けられなかったのです!? 憎い憎い憎いッ! 私めにこんな仕打ちをする定めが憎くて憎くてたまりませんッ!)
そもそもな話、私めがちゃんとした健常者だったなら端っからこんなこと――街やアメルダ様に酷い傷跡を残さずに済んでいたことでしょう。
「うわぁあっぁっあ~~~ッ!」
止めど無く流れる涙が全く止まる気配を見せません。
(全部……全部……私めが悪いのです……。こんな私めが生きている価値等……)
「…………」
私めは一瞬自暴自棄に陥り、最悪の結末を受け入れましたが、それではダメだと頬の涙を拭い取ります。
(違う……。アメルダ様にも言われましたが、死ぬということだけは絶対に認めてはなりません。そんなこと、私めは一切望んでいないではありませんか!)
私めは奥歯を噛み締め可能性しか拡がっていない未来を想像します。
(嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だッ! 死にたくない死にたくない死にたくないッ! やっと私めのことを認めて下さるアメルダ様に出逢えたのです! これから先、もっと可愛い服を着たり美味しいご飯を食べるだけでなく、色々な場所を旅して美しい景色だって見たいので御座います! その夢を叶えられるなら例え魔力が無くとも最後まで困難に立ち向かいます。その向こうで待っている輝かしき道を歩む為にッ!)
その様な願いを想っても隕石は止まるなんてことは無く、そしてそのまま衝突しようとしたその時です。
ある人物が私めの手を引いたのです。
その方は勿論――
「――よくぞその答えを導き出した」
そう言って紫色の髪をたなびかる少女、
「待たせたのぉ~。――妾じゃ!」
<大魔女>アメルダ様がにこやかに笑うのでした。




