託された使命
街一つすら簡単に飲み込んでしまうくらい巨大な隕石の襲来。
その惨事によって全てが無に帰したと思われましたが……
「――無事か、其方よ?」
何やら聞き慣れた声がすっと頭に入ってきたかの様な気がして私めはゆっくりと眼を開けます。
「……?」
そうして開かれた視界の先にはアメルダ様が。どうやら私めの頭を膝の上に乗せていた様です。
しかし、そのお姿はとても痛々しいモノで御座いました。
「ァ……アメルダ……様ァ……ッ!」
アメルダ様の全身はボロボロで、軽く触るだけでも脆く崩れてしまうのではないかと思うくらい朽ち果てておりました。
「あ……あっ!?」
「そう悲しそうな顔をするでないわ……。妾は別に死んでおる訳ではないのじゃからな……。ただ少しばかり無理をし過ぎたわい。ったく、妾は三百歳の老人なのだからちょっとは手加減して欲しかったの~……」
アメルダ様は完全に焼き切れた手で私めの頭を撫でます。
「心配せんで良い、取り敢えず妾の力で隕石による衝撃は最小限に抑え、死者はゼロで済ませたからの。その代わり街の風貌は一転してしもうたがな」
アメルダ様のその言葉通り、周囲の建物はほぼ吹き飛ばされ影も形も残っておらず、辺り一面は何もない更地と化しておりました。
その光景に私めの表情が青ざめます。
「あっ……あぁ……」
この惨状は明らかに私めが巻き起こしたこと。
さっきまでの、ただ地面を抉っていたのがまだマシに思えてきました。
「も、申し訳……申し訳……ッ!」
まさか事がここまで大事になるなんて……。当然のことながら私めはこの様なことをしたくてやっている訳ではありません。しかし、だからと言って無自覚・不可抗力なら何をしても許される……なんて虫の良い話でもないのは重々承知しております。
「うっ……うぅ!」
私めは本当になんてことをしてしまったのでしょう!
憎い……アメルダ様だけに留まらず街や街の皆様にまで危害を加えてしまった愚かしい私めが憎たらしい……ッ!
爪を突き立て強引にガリッ!と頭部を掻きむしりますが、アメルダ様がそれをお止めになります。
「其方の気持ちは十分に分かるが、今は起きてしまったことを後悔し悔い改めている場合ではないぞ? 今の一発は何とか凌ぎ切れたが、次は無い。もう一度あのサイズの隕石が降ってきたら妾諸共全てが滅ぶ。それだけは絶対に阻止せねばならぬのじゃ。その為にも――」
アメルダ様は火傷によってボロボロに腐敗している腕で私めを起き上がらせます。
「其方の力が必要じゃ。それは其方にしか出来ぬ。じゃからどうか聞き入れてくれるかの?」
アメルダ様は全身傷だらけだというのに、その痛みを全く感じさせないくらい落ち着いた笑みを浮かべておりました。
恐らくアメルダ様は相当無理をなさっているに違いありません。本当なら私めなんかと話さずに少しでも休んで頂きたいのですが、アメルダ様は一向に真剣な眼差しをこちらへ差し向けておりました。
「私めにしか……? そんなこと……」
「同じ言葉を二度言わせるでないわ」
「!」
『――ある。絶対にあるのじゃ、其方にしか出来ぬことがの』
ふとアメルダ様に言われた台詞を思い出します。
アメルダ様はあの時と同じかそれ以上に、自信ありげなお顔をしております。
その堂々とした態度から発せられる言葉に私めは息を飲み込みます。
「ほ、ほんと……ですか……?」
「この緊迫した状況で嘘を言うメリットは無いと思うがの。今だから言うが、そもそも其方をオークションハウスから引き取った段階でこういう災難が引き起こされることは把握しておったわい。だからこそ、その絶望的な運命を避ける為に其方――妾の封印されたリミッターを解放するキーとなる<無魔力の忌み子>を手中に収めたのじゃ」
「?」
「要は其方をある目的のダシにしてしまったということじゃ。その思惑を隠していたこと、深く謝罪するのじゃ」
何を言っているのか分からない内にアメルダ様は私めの前で深々と頭を下げました。
「これから妾がしようとしているのは到底許されざる禁忌事項じゃ。きっと簡単にバレるだろうし、ただ事では済まぬ。じゃがこれだけは信じて欲しい。妾はどんなことがあっても其方と世界の敵にはならぬ。其方に取り戻して貰う力で悪さもせん。……妾は純粋にこの街と其方を護りたいのじゃ。だから……だからどうか妾に手を貸してはくれぬか?」
「…………」
アメルダ様はどこか思い詰めた表情で私めに懇願なさります。
相変わらず不明な部分が多い言葉ですが、そこには確固たる覚悟が込められておりました。
アメルダ様の意思は十分に伝わりました。しかしながら、
「…………」
そんな簡単に即答出来る話でもありません。
そもそも私めにその資格があるのでしょうか? 諸々の元凶たる私め。そんな私めが今になってそれを解決する等あまりにも都合が良過ぎる話。もし仮に街を窮地から救ったとしても、街の皆様は私めをどう思うかなんて火を見るより明らかです。
(勿論この事態はどうにかしたい。その為ならなんでもするつもりですが、一番手っ取り早いのは隕石を降らせている可能性が最も高い私めが――)
「ほれ、それ以上は禁句じゃぞ?」
突然アメルダ様が私めの両頬を指で摘まみます。
「!?」
思わずじたばたと暴れる私めにアメルダ様は溜息を漏らします。
「確かに其方はとんでもないことをしてしもうたが、だからと言って罪を背負って死ぬのだけが一番ないのじゃ。もしそんなことをしてみろ? 地獄の淵まで追いかけ回してでも永遠に呪うからの?」
「!?」
とても物騒なことを仰るアメルダ様はさらに私めにこう言います。
「それに其方が死んでしもうたら誰が妾の世話をしてくれるのじゃ? せっかく金貨百万枚等という大金をはたいたのじゃからそれ相応の働きをして貰わねば困るでの」
アメルダ様はあくまでも私めを召使いとして側に置いておきたい様です。
「形式上妾は其方のご主人であるぞ? そんな妾の言い付けを破るつもりかえ?」
「!」
私めは滅相も無いという気持ちを込め、首を大きく横に振ります。
「うむ、素直でよろしい。可憐で可愛らしい其方は難しいことを考えずとにかく笑っておれ。……この様にの、ガハハッ!」
アメルダ様は上機嫌に高笑いをあげます。その拍子に、アメルダ様の右手がボロリと崩れ落ちます。
そんなグロテクスな光景に開いた口が塞がりませんでした。
「へぇぁ?」
「おっと、嫌な物を見せてしもうたな。じゃが問題ない。替えの器はいくらでもあるからの。とは言え、もうそろそろこの身体も限界……つまり其方と話せる時間も少ないということじゃ。――してどうかの? 妾からの使命、託されてくれるか?」
「私めに……出来る……でしょうか……?」
「出来る出来ないの話では無い。やるしかない、のじゃ」
「!」
「それを踏まえてもう一度問う。……やってくれるか?」
そう言っている内にアメルダ様の顔もどんどん崩れ始めます。そうして片目を喪った後も残った眼でこちらを見据えるアメルダ様に私めは、
「やります……。やらせて……下さい! アメルダ様と……街の皆様に……ちゃんと謝る為に……ッ!」
はっきりこう申しました。
するとアメルダ様はニタリと笑います。
「良く言った。なら其方にやって貰う事はただ一つ。妾の強大な”魔力”を封印した<黒樺の杖>を解放して欲しいのじゃ。その為には魔力を持たぬ其方の力が必要になる。これこそ、其方でしか起こせぬ奇跡であるぞ?」




