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S.A.K.U.R.A.~蒼の魂~  作者: 猫人間
【番外編】三代目は愉快だな
49/70

宴会。

 それは、突然の綾人の一言から始まった。


「お前らぁ〜! 今から呑み行くぞぉ!」


 そう言って勢いよく右腕を上に突き上げる綾人。

 呆気にとられた顔で一斉に綾人を見る仲間達。


 普段ならば任務を終えた後は即、解散となるのだが、どうやら今日は大人しく帰れそうもなさそうである。


「今日は俺の奢りだからな! 但し、明日も朝の修行はいつも通りやるから、覚悟のある奴はついて来い! がははははっ!!」


 もう既に"できあがって"いるのでは。という程に、やけに上機嫌な綾人が先陣を切って歩き出した。

 その後を苦笑しながらも直樹が続く。


 行くも行かないも、もはや答えは一つしか与えられていないようなものだ。


(これは行くしかないよな)

(なんや何か裏があるんちゃうやろうな……)

(僕もう帰りたいです……)

(臣と一緒ならいいや)

(めんどくせぇ)


 残りの五人もそれぞれの思いを抱えながら、隊長二人の後を追うのだった。


 ***


 綾人に連れられ着いた呑み屋は、一部屋一部屋が個室となっており、完全個人情報が守られるという有難いお店だ。


 全員が席に着いたのを確認すると、綾人は杯を掲げて立ち上がった。


「えぇ〜、本日も任務お疲れ様です! 普段は何かと小言ばかりの俺ですが、今日はそんなのも全部とっぱらって無礼講だぁ〜!」

「いぇーーぃ!!」

「何が、いぇーーいじゃ!!」


 瞬時に恭徳に体当たりする健二郎。

 辺りは笑いに包まれ和やかな雰囲気になった。

 綾人も笑みを浮かべながら、話を続ける。


「今後とも三代目として色々――」

「話長いです〜! 早く食べましょう〜!」

「お腹空いたぁ〜」

「じゃあ、もう乾杯〜!!」

「そういえば、このお店高そうですけど大丈夫ですかね?」

「大丈夫やろ。隊長やけん俺らの倍は貰っとる筈や」

「そうですね」

「――じゃ遠慮なく」

「ああっ! こらっ! 龍二! それ俺の皿やろ!」

「早い者勝ち、早い者勝ち」

「早い者勝ち、ちゃうぞ! 返せぇ〜!」

「臣ぃ〜! 健二郎が虐めるぅ〜! それに酔ったぁ〜」

「いや、早いだろ! もたれるな重い!」


 もはや綾人を他所に、勝手に宴会が始まった。

 そもそも普段からこの五人は自由奔放なのだ。


(こいつらに無礼講と言った俺が馬鹿だった)


 綾人は上げたままだった杯をゆっくりと下ろすと、溜息をついて大人しく座った。その隣で直樹が苦笑しながら、ぽんとその肩に手を置いたのだった。


 ***


 皆、思い思いに食べては呑んで、それぞれお酒も回り始めた頃――


 直樹は焦点のあっていない目をしていた。

 そしてこういう時の直樹は――危険だ。


「英莉衣」


 と、振り向いた英莉衣を突如、直樹の唇が襲った――


「ぎゃあああ!!」


 最初の犠牲者が出た。

 そう、直樹は理性を失うと、たちまち口付け魔へと変貌するのだ。


「――大変だ! 直樹の発作が始まったぞぉ!」


 綾人の警告に逃げ惑う仲間達。

 しかし、次にその標的になったのは健二郎だった。


「あかん〜! 捕まってもうたぁ! 誰か助けてくれやぁ〜!」


 直樹に強く抱き締められた健二郎が手を伸ばすも、あっさりと見捨てる他の仲間達。


「うわぁ〜!」


 直樹の唇が近付いてくる――


 覚悟を決めた健二郎は、来たるべき衝撃に備え瞳を閉じた。


「ん……? ぺっ……! 生臭っッッ!!」


 不意に直樹はそっぽを向くと、あっさり健二郎を解放した。


(え…………)


 確かに健二郎は釣りを趣味としている為、魚の匂いが染み付いているのだった。


「綾人ぉ〜」


 そして、次なる標的の元へ立ち去っていく直樹。


 奇しくも口付けの魔の手から逃れたものの、何だか悲しくなった健二郎であった。


 ***


 隊長同士が熱い口付けを交わしている間――


「これ読みますか?」


 健二郎を気遣い、恭徳が袖の下からある異国の書物を取り出した。


「なんやこれ」

「"Kiss You Tonight"です」

「キス……ユー……って何やねん!」

「意味は"今夜貴方と口づけを"です」


(これは慰めやろうか? それとも、わざとやろうか?)


「……遠慮しとくわ。余計惨めになるし。そもそも俺、異国の文字読めんし」

「そうでしたね」


 恭徳はさらっと博識を見せつけると、再び袖の下に戻した。

 そして今度は何日(いつ)のものか分からぬ煎餅を取り出し、バリバリと噛み始めたのである。


(だから、お前の袖の下は、どないなっとるねん!)


 健二郎は心の中でつっこみを入れると、恭徳に聞いた。


「おい。それ……いつのや?」

「さあ、だけど湿気ってないから大丈夫ですよ。ま、多少湿気ってても、濡れ煎餅みたいで美味しいですけどね」


 そして、袖の下からもう一枚煎餅を取り出すと、健二郎の目の前に差し出した。


「食べますか?」

「いや、遠慮しとくわ……」

「そうですか」


 そして再び、その煎餅を袖の下に戻す。


(だから、戻すんかい……!!)


 ***


 しばらく経ち、直樹の発作も収まると、再び辺りは平穏な呑みの席へと戻った。


 皆だいぶ顔も赤く染まり、椅子や壁などに、もたれかかっている。

 言うまでもなく臣に寄りかかる龍二。その隣で迷惑そうに顔を顰めながら酒を飲む臣。


 そんな皆の様子を杯を片手に、微笑みを浮かべて見守る綾人。

 そんな時、ふと催した綾人は厠へと立ったのだった。


 しばらく経ち、綾人が厠から戻り、部屋の扉を引いた瞬間――

 先程の平和な情景とは一変し、辺りは乱闘騒ぎになっていた。


 何やら興奮したように怒鳴りながら、英莉衣と龍二が胸倉を掴み合っている。そしてそれを他の仲間達が必死に止めているのだった。


(え〜!? 一体何がどうなって、そうなった!?)


 あまりに突然のことに、状況が把握しきれていないものの、慌てて綾人も加わると、何とか二人を引き剥がしたのだった。


 ***


 ようやく二人も落ち着き、綾人の説教も受けつつも、場は何とか元の雰囲気へと戻った。


 しかし時間が経つにつれて、お酒の力を前に一人、また一人と倒れていき、遂に残るは綾人と直樹の隊長二人となった。


 獣のようないびきを響かせながら眠っている五人を横目に、綾人が隣の相棒に話し始めた。


「なぁ〜、にゃおきぃ(直樹)〜、今日がにゃん(何)の日かぁー、知ってるかぁ〜?」

「ん……?」


 だいぶ酒が回ってきたのか、重い瞼で呂律が回っていない綾人の背中を擦りながら、直樹は聞いた。


「去年、おみぃ(臣)のこきょー(故郷)、さくりゃぎゃおか(桜丘)でぇー、おみぃ(臣)と出会ってぇー、りゅーじ(龍二)と一騎打ちになってー、十日過ぎてぇー」


 そう去年、三代目侍の仲間を集う為、綾人と直樹の二人で旅を始めたのが最初。

 それから健二郎、英莉衣、龍二、恭徳の順で仲間は増えていき、最後の一人、臣を仲間に率いれる為、桜丘へと赴いたのが、丁度この時期。

 その頃は全く人を信用することが出来なかった臣と、唯一互角に渡り合える龍二との、十日に渡っての一騎打ちになったのだった。


「そんでぇー、あの日ぃー、りゅーじ(龍二)が初めてぇー、おら(俺)たちのことぉー、"仲間"って呼んでくれてぇ〜」


 そして十日経ったあの日――

 再び二人の元へ戻り、結果決闘は引き分けとなった。

 その場で殺せと言う臣に対して、龍二が言った言葉は今でも鮮明に覚えている。

 あの時、龍二の口から初めて"俺達は仲間だ"という言葉が聞けたのだ。


「そんで、ようやくおみぃ(臣)もぉ、仲間になってくれたんだぁ〜! そう! 去年の今日。おら(俺)たちが"真の三代目"になった日ぃ〜! だよぉ〜」


 龍二の言葉で、それまで固く閉ざしていた心の扉を開いた臣は、遂に俺達の仲間になった。

 そう。去年の今日の出来事である。


「つまり、今日は三代目結成から"一年"の記念日という訳か……」

「だからぁ! このぉ〜、場をぉ〜、設けたっちゅうわけぇ〜!!」


 綾人がバンバンと両手を机に叩きつける。

 そんな綾人を見ながら直樹は苦笑した。


(そういうことか……)


 つまり今日のこの宴会は、三代目一周年記念の祝いというわけだったのだ。


「それにしてもあの日から、もう一年も経つのか――」


「武士櫻の闘い」では、十万対七という圧倒的に不利な状況の中での死闘を乗り越えた。

 そしてこの七人で見事、武士櫻を守り抜くことが出来た。

 勿論、失ったものは数知れない。

 それでも俺達は前に向かって歩き続けた。

 一年とはいえ、数々の思い出が詰まっている。

 悲しいことも。嬉しいことも。全て。


「早いなぁ……」


 ――時が経つのは。


 そう思い直樹は一口、お酒を口に含んだ。


「それにゃのにぃ〜、あいつぅらぁ〜、そのことぉ〜、誰ぇ一人としてぇ〜、覚えてにゃいんだからにゃ〜! ほんとぉ、隊長っちゅうのはぁ〜、悲しい生きもんだよにゃ〜」


 すると綾人は手にしていた杯を一気に飲み干すと、勢いよく机に打っ伏した。


「任務にぁ〜、いちいち文句ぅ付けるわぁ〜、言うことぉ聞かないわぁ〜、すぐにふざけるわぁ〜、遅刻はするわァァ――」


 何やら火がついた綾人の愚痴が止まらない。


「けんじろー(健二郎)は喧嘩っぱやいわぁ〜、えりーぃ(英莉衣)は悪のりするわぁ〜、月(恭徳)は雑でぇ生意気ぃだしぃ〜、りゅーじ(龍二)はおみぃ(臣)おみぃ(臣)だしぃ〜、おみぃ(臣)は問題ばっかぁ起こすしぃ〜、ほんとぉ、隊長のぉ、くろー(苦労)なんてぇ〜、にゃーん(何)にも分かっちゃいねぇー、どーしょーもねぇーにゃんちゅー(連中)だよぉー」


 まあまあ。と直樹がそんな綾人の背中を擦ってやりながら宥める。


「けどにゃ〜、あいつぅらぁ〜、良い奴らぁにゃんだよぉ……みーんにゃ! 良い奴りぁ!!」


 その時、机に打っ伏したまま、ふっと綾人の表情が柔らかくなった。


「けんじろー(健二郎)は、場を盛り上げてくれるぅ。えりーぃ(英莉衣)は周りを見てぇ気遣ってくれるぅ。月(恭徳)はあの笑顔でぇ、皆の癒しになってるぅ。りゅーじ(龍二)はぁ、いざと言う時にはぁ、誰よりも頼りになるぅ。おみぃ(臣)は正義感が誰よりもぉ強くてぇ、実は影で一番努力してるんだよぉ」


 すると突然、起き上がると真剣な眼差しで言ったのだった。


「おら(俺)ぁ、あいつぅらぁ好きだァ〜、大好きだァ〜! 三代目が大好きだしぃ、愛してる!! 三代目のことぉ命に変えてもぉ守って見せるぞぉ――」


 そういう綾人の瞳は一点の曇りも無かった。


「あいつぅらぁはぁ、仲間ぁだけど、"仲間"じゃねぇ! おら(俺)あいつぅらぁのことぉ……"家族"だと思ってる! 手のかかる五人の子供とぉ、おら(俺)とにゃおきぃ(直樹)でぇ、七人家族ぅ! これがおら(俺)たちぃ三代目だァァァァ――!!」


 綾人の愚痴はいつしか、愛の言葉へと変わっていたのだった。


「三代目めぇーーさいきょォォ――!!」


 最後に綾人は両手を高く突き上げ叫ぶと、急に電池が切れたように、再び机に打っ伏した。

 そしてそのまま、いびきをかきながら寝てしまった。


 直樹はそんな綾人の寝顔を見つめ、その髪を優しく撫でながら微笑んだ。


「確かにあいつら、今日は三代目侍結成から一年目だってのに、誰一人そのことを言わねぇ。それどころか騒ぎまで起こして、しょうもねぇ連中だよ……」


 もう既に眠っている綾人に聞かせるように、直樹は続けた。


「けどな……誰も今日という日を覚えていなかった。というのは違うぞ?」


(あの乱闘だってな――)


 ***


 それは綾人が席を立っていた時のこと――


「そういやぁ、今日は何の日か覚えとるかぁ?」


 壁に寄りかかりながらも、健二郎がおもむろに口を開いた。


「勿論。三代目侍結成から一年。そうだろ?」


 速攻で英莉衣が答える。


「去年の今日。臣さんが仲間になった日。そして僕達、三代目が真の三代目となった日です」


 英莉衣の回答に付け足し、恭徳が教材並の解答をした。


「そういやぁ、あん時の臣は尖ってたなぁ〜」

「今もそんな変わらんけどね」

「ああっ?」


 笑いながら言う龍二を、睨みつける臣。


「けど、龍二だって似たようなもんだったよな。あん時ゃ、化け物じみた二人がこの先一緒やと思うと、怖くて夜も眠れんかったわ」

『誰が化け物だよ!!』


 今度は臣と龍二が同時に、健二郎を睨みつけて言った。


 その時、お酒で顔を真っ赤にさせた英莉衣が、立ち上がると皆の前で宣言した。


「俺は三代目のことを誰よりも愛してるぞ!」

「おい。ちょっと待て。三代目のことを一番に愛してるのは俺の方だ!」


 意外なことにそう言って立ち上がったのは、龍二だった。


「ああっ? 何言ってんだ! お前ぇは臣一筋だろうがぁ!」

「てめぇ! 誰に向かって口聞いてんだぁ! 臣は別格だ馬鹿野郎!!」

「知らねぇよ! 馬鹿野郎!!」

「ああっ?」

「あ? やんのかゴルァ!!」


 お酒も入っている為に、余計気持ちが高揚している二人は胸倉を掴み合う。


「いいか。三代目を愛してんのは俺だ!」

「うっせぇ! 俺の方が三代目を愛してんだよ!」

「おいおい! 止めろ二人共!!――」


 ***


「あいつら皆、素直じゃねぇし、特にあんな乱闘の後だと、中々言い出せなかったんだろうな……だけど、そんなあいつらの性格は、お前が一番、よく知ってんだろ?」


 沢山問題も起こすし喧嘩もするが、一つだけ確かなことがある。

 それは皆、三代目が。この仲間達のことが大好きだということだ。


 直樹の言葉が聞こえたのか、それは定かではないが。綾人が小さく微笑んだ気がした。


(この分じゃ、明日は朝の修行は中止の上に、二日酔いは確実だな……ま、たまにはいいか。今日は特別な日だからな)


 そんなことを思いながら直樹も、いつの間にかゆっくりと意識を失っていったのであった――


 そんな時、上半身裸で眠っていた龍二が寝言を呟いた。


「……うーん……三代目……さいきょー……」


 すると、隣で腕まくらをしながら眠っていた臣もそっと呟いた。


「最強だな……」

「えへへっ……」


 確認の為もう一度言うが、二人は完全に熟睡している。

 つまり寝言で会話を成立させている彼らは、流石は相棒と言うべきだろう。


 そんな曲者だらけの三代目の宴会は、ゆっくりと幕を閉じた。

 こうして三代目侍結成してから、一年と一日が経とうとしていた――



(完)

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