その弍拾参―訪問―
七人の向かう先は市原虎の尾の一角にある、とある武家屋敷だ。
いつもは、和気藹々とした雰囲気の三代目も今日だけは、皆緊張した面持ちで歩みを進めていた。
それは隊長二人のいつになく真剣な様子を、他の五人も感じ取っているからだろう。
(――そんなに凄い方なのだろうか……)
英莉衣、健二郎、恭徳は不安げな表情を浮かべていた。
ろくに会話もないまま、重い空気が漂う中、七人は目的地に辿り着いた――
堅牢な門構えは、来る者を威圧しているかのようだった。
綾人が門の前に立つと、着いたことを伝える。
すると、ギィィと錆びた金属音を立てながら門が開いた――
ごくり。と綾人は生唾を飲み込むと、覚悟を決めたように先頭を歩き出す。その横に直樹が並び、後の五人は隊長二人の後ろに着いて歩いた。
門を抜けた先に広がる広大な敷地の中に建てられた武家屋敷。
七人は緊張した面持ちで中へ入って行った――
室内に入ると、所々に施された見事な装飾が、この屋敷の主の気品を伺わせた。
物珍しそうに、辺りをきょろきょろと見回す恭徳を綾人が小声で窘める。
永遠にも感じられる長い長い廊下を抜けると、大広間に辿り着いた。
そこでようやく、隊長二人は足を止めた。
大広間には、奥に高級そうな玉座が一脚置いてあるだけで、他はただ広い空間が広がっているのみだった。
その玉座を前に左から恭徳、綾人、臣、直樹、龍二、英莉衣、健二郎の順で横一列に並び、目的の人物が現れるまで待機する。
しばらくすると、微かだが、奥の方よりこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた――
すぐさま隊長二人は片膝をつき頭を下げる。
後の五人もそれに習い、同じく片膝をつき頭を下げたのだった。
そして遂に、その人物が姿を現した――
――その人物とは、この市原虎の尾の総長であり、朱雀の総指揮官。鴛鴦丈芳である。
鴛鴦の後には、朱雀の一員である紅鶴篤士と滝野鷹寛の姿もあった。
紅鶴は鴛鴦の右腕的存在であるが、その実力の程は未だに未知数だ。
何よりも短く刈り上げた髪に刻まれた二本の傷跡と、両眼に当てられた眼帯が、彼が只者でないことを物語るのだった。
果たして両眼に眼帯を当てて、前が見えているのか。それは朱雀七不思議の一つである。
一方の滝野は、毛先を遊ばせた茶髪。笑った際に刻まれるえくぼが魅力的な美男子だが、その行き過ぎる好奇心と全体的な軽薄さがたまにキズである。
一度、臣とも面識がある為、すぐさま臣に気付いた滝野は手を振ったが、その手は完全に無視されたことは言うまでもない。
鴛鴦は静かに歩みを進め玉座の前で立ち止まると、ゆっくりと腰掛けた。
見るからに座り心地の良さそうな玉座が、ゆっくりと沈んでいく。
鴛鴦は七人の姿を真剣な眼差しで、じっくりと見渡した。
その瞳は、個々の心の中を見透かしているかのようだった。
辺りは一気に緊張感に包まれた――
特に綾人と直樹、そして臣を除く四人は、鴛鴦とはこれが初対面なのである。
(流石、伝説の侍はこうも貫禄が違うものか……)
緊迫した状況の中、一通り見渡した鴛鴦は前を向き直ると、ふとその表情を緩めた。
「皆、緊張せずとも良い。表を上げよ」
七人が顔を上げると、鴛鴦のその射貫くような眼差しは、優しい眼差しへと変わっていたのだった。
鴛鴦は艶の良い黒長髪をきちりとひとつにまとめ、程よく伸びた顎鬚によって、貫禄こそあるものの、その柔和な瞳は、温厚な人柄を象徴していた。
そして、鴛鴦の愛称は丈さんと、皆に親しみを込めて呼ばれているのだった。
「皆、此度の"武士櫻の闘い"。実によくやってくれた。お前達のお陰で、世界を闇に染まる危機から、救い出すことができたのだ。改めて例を言うぞ」
鴛鴦はそう言って、頭を下げた。
同時に両脇に居る紅鶴と滝野も頭を下げる。
あの伝説の侍達が、こんなにも簡単に頭を下げるのか。
地位などは微塵も気にしない。その礼儀正しさには、思わず感嘆してしまうのだった。
そして鴛鴦は再び、表を上げると、今度は少し表情を固くして言った。
「しかし、それと同時に、失われた魂もまた多い。どうか、そのことも忘れないでいて欲しい」
その声は、七人の胸に深く突き刺さったのだった。
七人は鴛鴦の顔を見据えると、深く頷いた。
「そして、これより任務は完了。よって、三代目は"解散"となる訳だが――」
七人の表情がぐっと固まった。
分かっていた。
三代目侍は元々、武士櫻を守る為に結成されたのだ。
闘いが終わった今、三代目侍の役目はもう無い。
分かっているのだが――
どうしようもないこの思いに、七人は黙り込んだ。
中には薄らと涙を浮かべている者もいた。
そんな雰囲気の中、鴛鴦は言葉を続ける。
「本来ならばな――」
(――えっ?)
「お前達さえ良ければ、引き続き三代目として、朱雀、二代目と並ぶ平和の象徴になってくれないか」
まさかのどんでん返しに、七人はしばらく放心状態となった。
つまり、そういうことは――
七人は互いの顔を見合った。
勿論、誰一人として異を唱える者など居ない。
七人全員の心は既に固まっていたからだ。
『はい!』
七人はしっかりと鴛鴦の瞳を見据えると、凛とした強さで腹の底から返事をしたのだった。
「お前達ならば、きっとそう言ってくれると思っていたぞ」
鴛鴦は優しく微笑んだ。
これにより、改めて三代目侍は再出発したのだった。




