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早春の月  作者: 瀬蓮
第一章
8/9

七、玖穩での出会い

扉を開けた男はベットの上で頭を抱えている少女に目をみはった。てっきり扉を開けた瞬間に攻撃されるのでは、と思っていたのだ。


「おい」


男が声をかけると少女は殺気だった視線を向ける。

男の後ろからさらに少年と男が入ってくる。


「ここは玖穩か?」


少女が刺々しく言葉を発した。


「そうだよ」


少年がその問にこたえる。


「どうするつもりだ。」


「君を?どうするつもりだったの?」


少年が隣にいる男にたずねる。


「考えてなかったな」


「奏多がそんなこというなんて珍しいね」


最初に声をかけた男、基、奏多に対し、他の二人が呆れた顔を向ける。


「考えなしか…それから一人、いい加減に敬語を使え」


「えー。俺敬語使えないもの。鳴瀬が一番分かってるでしょー?」


敬語が使えないのが一人(いちと)、一人に注意したのが鳴瀬(なるせ)というのか、と少女は頭に叩き込む。

奏多が苦笑いをうかべ、少女を見る。


「名は?」


「は?」

名前など聞く必要が分からない、と少女は困惑した表情をうかべる。


「名など聞いてどうする?沙芭の軍備を知るのに必要ないだろう?」


捕虜が名や階級、生年月日を答えることは義務なのだが、と鳴瀬は思う。


「でも名前くらい教えてくれないと、僕たちはずっと『君』って呼ぶしかないんだけど」


一人が困った顔を浮かべて少女に言った。

裏のない一人は本心から言っている。


「『君』でいい。それで事足りる。」


少女は座っていたベッドから足を投げ出すと、ぶらぶらと足を揺らし始めた。

足が揺れる度に鎖が鳴る。

鳴瀬はため息をつくと、捕虜であるはずの少女に話しかける。


「階級は?」


「階級?ない」


少女は事も無げに言ったが、玖穩の3人にとっては衝撃的だった。国の防衛にあたっていた、沙琶を悩ます最大の原因だったこの少女には階級がないのか。


「それは…階級さえも必要ないほどの上官だった、ということか…?」


鳴瀬の問いに、少女は足の動きをとめて考えている。


「いや?そういうことじゃない。」


ではどういうことなのか、と鳴瀬が視線で訴える。


「階級なんてもらえないよ、私は。」


そう答えた少女はどうでもいい、と付け加えるように言うと再び足を揺らし始めた。


「……。生年月日は?」


さすがにこれは、と思い鳴瀬は問う。


「知らない。」


少女は一瞬鳴瀬を見るが、すぐに音をたてる鎖に興味をもち、鎖をいじり始めた。


「知らないってどういうこと?」


一人が鳴瀬に代わって聞く。


「そのままの意味。生まれた日なんて知らない。」


鎖にも飽きたらしい少女は少し苛立ってきたようだ。


「生まれた日を知らないのか?」


「知らないって言ってるけど?」


不愉快極まりないといった顔をした少女は鳴瀬を睨みつける。


「他に聞くことはないの?名前や誕生日なんて聞いてどうするの?」


鳴瀬が口を開こうとしたとき、それまでずっと黙っていた奏多が口を開いた。


「そうだな。今のところはそれだけだ。また後で来る。」


奏多はそう言うと部屋をでていく。

鳴瀬と一人も少し驚いた表情をうかべ、すぐにでていった。


「意味わかんない…」


少女はそう呟くと、初めてのふかふかのベッドへと背中を預けた。

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