七、玖穩での出会い
扉を開けた男はベットの上で頭を抱えている少女に目をみはった。てっきり扉を開けた瞬間に攻撃されるのでは、と思っていたのだ。
「おい」
男が声をかけると少女は殺気だった視線を向ける。
男の後ろからさらに少年と男が入ってくる。
「ここは玖穩か?」
少女が刺々しく言葉を発した。
「そうだよ」
少年がその問にこたえる。
「どうするつもりだ。」
「君を?どうするつもりだったの?」
少年が隣にいる男にたずねる。
「考えてなかったな」
「奏多がそんなこというなんて珍しいね」
最初に声をかけた男、基、奏多に対し、他の二人が呆れた顔を向ける。
「考えなしか…それから一人、いい加減に敬語を使え」
「えー。俺敬語使えないもの。鳴瀬が一番分かってるでしょー?」
敬語が使えないのが一人、一人に注意したのが鳴瀬というのか、と少女は頭に叩き込む。
奏多が苦笑いをうかべ、少女を見る。
「名は?」
「は?」
名前など聞く必要が分からない、と少女は困惑した表情をうかべる。
「名など聞いてどうする?沙芭の軍備を知るのに必要ないだろう?」
捕虜が名や階級、生年月日を答えることは義務なのだが、と鳴瀬は思う。
「でも名前くらい教えてくれないと、僕たちはずっと『君』って呼ぶしかないんだけど」
一人が困った顔を浮かべて少女に言った。
裏のない一人は本心から言っている。
「『君』でいい。それで事足りる。」
少女は座っていたベッドから足を投げ出すと、ぶらぶらと足を揺らし始めた。
足が揺れる度に鎖が鳴る。
鳴瀬はため息をつくと、捕虜であるはずの少女に話しかける。
「階級は?」
「階級?ない」
少女は事も無げに言ったが、玖穩の3人にとっては衝撃的だった。国の防衛にあたっていた、沙琶を悩ます最大の原因だったこの少女には階級がないのか。
「それは…階級さえも必要ないほどの上官だった、ということか…?」
鳴瀬の問いに、少女は足の動きをとめて考えている。
「いや?そういうことじゃない。」
ではどういうことなのか、と鳴瀬が視線で訴える。
「階級なんてもらえないよ、私は。」
そう答えた少女はどうでもいい、と付け加えるように言うと再び足を揺らし始めた。
「……。生年月日は?」
さすがにこれは、と思い鳴瀬は問う。
「知らない。」
少女は一瞬鳴瀬を見るが、すぐに音をたてる鎖に興味をもち、鎖をいじり始めた。
「知らないってどういうこと?」
一人が鳴瀬に代わって聞く。
「そのままの意味。生まれた日なんて知らない。」
鎖にも飽きたらしい少女は少し苛立ってきたようだ。
「生まれた日を知らないのか?」
「知らないって言ってるけど?」
不愉快極まりないといった顔をした少女は鳴瀬を睨みつける。
「他に聞くことはないの?名前や誕生日なんて聞いてどうするの?」
鳴瀬が口を開こうとしたとき、それまでずっと黙っていた奏多が口を開いた。
「そうだな。今のところはそれだけだ。また後で来る。」
奏多はそう言うと部屋をでていく。
鳴瀬と一人も少し驚いた表情をうかべ、すぐにでていった。
「意味わかんない…」
少女はそう呟くと、初めてのふかふかのベッドへと背中を預けた。




