五、裏切り
朝食をとってから(朝食といっても僅かな量だが)体がだるいように感じる。刀を持つ手にも録に力が入らない。
城は高い壁に囲まれ、出入りできるのは自分が現在立つ門だけ。ここさえ敵から守れば良い。
今までは多少体調が優れなくても自分一人で何とかなっていた。今日だって昨日と同規模の敵の数なら何ら問題はないと思う。
だが思いとは裏腹に、眼前に現れた敵の人数は昨日の比ではなかった。倍どころの騒ぎではない。
今まで軍長は敵の数などの戦に関する情報を偽ることはなかった。その点だけは安心していたのがいけなかった。
体調さえ万全ならば問題ないのに。
最悪なことにだるさだけでなく、頭痛もしてきた。今更城に戻るなんてできるはずはない。玖穩の兵が刀を抜き、駆けてくるのが見える。
いつにもましてはやく蹴りをつけないとまずい。
最初のうちは何とか相手の攻撃をかわし、反撃していた。だが徐々に押され気味になっている。斬っても斬っても数は減らないように見える。
さらに頭痛が激しくなり、吐気までし始めた。前からの攻撃をどうにか受け流すが、背後をとられたことに反応しきれなかった。
あ、と思ったときには既に遅かった。
「これで帰れるな」
少女を背後から殴りつけた男が言う。
「はい、国に戻り書を送れば万事問題はないかと。」
男は玖穩国の国王だった。武道に優れ、戦に自ら出向くことも多々ある。
既に玖穩国と少女の国、沙琶国は条約を結んでいた。条約は沙琶国が戦力のほぼ全てである少女を渡すかわりに、玖穩国の資源を得、和平を結ぶといったものだ。
沙琶国はもともと劣勢であった。少女は連日戦にでれるわけではない。沙琶国の軍は玖穩国に劣る実力しかないのだ。
故にこの条約は沙琶国が申し出た、玖穩国に利益のある内容となっている。
「だけど…この子、自分の国に騙されて売られたわけだよね?」
少女と同じくらいの歳の少年が言う。
「そうなるな。」
少年の上司である男が答えた。男は少年ほど少女に同情しているわけではないようだ。
「この子、どうするつもりなの?俺たちと戦に出るわけないでしょ?」
少年が王に問いかける。
だが王はその質問に答えず、意味有りげな笑みを浮かべる。
「また何か企んでるよ…」
大変な主君を持ったものだ、とその場にいる者は皆思った。




