大団円 side神官、神子
宿に戻って来たマヤ様が連れていたのは、アデルレイド様だけではありませんでした。見間違える訳がない、記憶にあるよりずっと成長した愛しい子供達がマヤ様とアデルレイド様の間で手を繋いでいる。この状況はどう捉えれば良いのだろう?子供達だけでもマヤ様が引き取ってくれるのだろうか。そうであれば私が母親面をしてはいけない。
「お帰りなさいませ、マヤ様。お出かけは楽しまれましたか?」
「楽しかったっていうか、すっきりした。私の事を愛してもいない男と結婚せずに済んでさ」
ぱちりと片目を瞑るマヤ様にアデルレイド様が苦笑している。その頬は片側だけ赤くなっていた。
「ま、そういうことだから後は夫婦でごゆっくり」
「え?マヤ様?!」
疑問だけを残してマヤ様が行ってしまわれる。これはつまりどういうことだろうか。まさか、とは思いますが……アデルレイド様が振られた?
「お帰りなさい、母上」
「お母様!」
「かーさま」
目を白黒させながらも駆け寄ってきた子供達を抱きしめる。
「ただいま、フィーネ」
そんな私達をアデルレイド様が広い腕で更に抱きしめる。それはいつかと同じ光景でした。幸せだったあの頃と同じ。
「お帰りなさいませ、アデル様」
自然に唇を重ねる。伝わる感触に溢れた涙が溢れていく。
「あーっ!父様だけずるい」
「ずるいー」
頬を膨らませる娘と息子に思わず顔を見合わせ、笑いながら両側から頬に口付ける。勿論、恥ずかしがる長男にも。その賑やかさにやっと帰って来たのだと実感しました。
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「妊娠5ヶ月って、つまり私に隠れてヤることはヤってたって事だよね。うわー、アデルってば最悪~」
「妻と睦み合うことのどこが悪いんです?夫婦なんだから当然でしょう」
「ふ、不謹慎ではないかトランディーク!」
「そうは言いますが、殿下とてミルフォードでは女を買っていましたよね?」
「何故それを知っている!?」
「お前は馬鹿か。王族が不用意に種を撒けば無用な争いが生まれる事もある。それを把握するのも近衛の役目だ」
「あ、兄上」
「あははは。王族も大変ですねー」
「理解してくれるならば話は早い。マヤ殿、どうかこの愚弟と結婚してくれないか?」
「やですよ。私はこんなキラキラした人じゃなくて普通の人がいいんで」
「だが一時はアデルと結婚しようとまで思ったのだろう?彼奴に比べれば、愚弟など普通だと思うが」
確かにアデルは文句無しに恰好良い。男らしい美しさで、最近ではそこに色気まで加わっている。
「やっぱりアデルにはフィーネくらい綺麗で素敵な人じゃないと釣り合えませんよね~。別にハロルドが嫌いなわけじゃ無いんですけど、頼りないんですよね」
ショックを受けたように固まるハロルドの姿に、これくらい受け流せないようでは眼中に入らないなと再確認出来た。
「今はまだ恋なんて気分じゃ無いですし、暫くはのんびり過ごそうと思いますよ」
「本当に侍女として働く気か?貴女が望むならば離宮の一つでも空ける用意はある」
「根っからの庶民なので、お姫様暮らしはもう飽き飽きです。それに侍女の方が素敵な出会いと巡り合う可能性も高いですから」
「逞しいな」
「アデルよりもうんと素敵な人を見つけて、いつか結婚式で幸せな姿を見せつけてやるんです」
「その日を楽しみにしております」
これが私を振ったアデルへの囁かな復讐だ。だというのに、涼しい顔で一礼するアデルが憎らしいやら敵わないやら。未だ燻る想いは完全には消えていないけれど、彼が護衛役を辞めると聞いても引き止める気は起きない。だってフィーネと一緒にいる時のアデルが一番素敵だからだ。