第十四話
少女が、じゃらりと鎖を振り回して投げつけて来る。
その先端には分銅が取り付けられている、あれで相手を殴りつける、というスタイルだろう、もちろん鎖には相手を縛り、動きを止める、という目的もあるのに違い無い。ミカエルは避けようともせず、右腕を顔の高さまで掲げると、鎖をじゃらりと腕に巻き付けさせた。
それを見て少女はくすくすと笑う。
「無駄だよ、お姉ちゃん」
少女は笑いながら告げた。
「力比べで、私に敵う人間はいないんだよ」
ぐいっ、と。
少女が鎖を引く。
ミカエルの身体はそのまま引かれ、どさり、とその場に倒れる。少女はくすくすと笑いながら、そのまま楽しそうにミカエルの身体をぐいっ、と引っ張った。
ずるり、ずるり、と。
床の上を引きずられて行く。肌が床に擦れて痛みが走る。だがミカエルは気にも止めずに、そのままぐいぐいと身体を引かれていた。
やがて。
少女がミカエルの身体を、すぐ足下まで引きずって来た。
「私には、貴方を『殺せない』だったかしら?」
くすくすと少女が笑う。
「今、謝って、あの言葉を取り消したのなら、命だけは勘弁してあげるよ?」
その言葉にミカエルは笑うだけだ。
「……お姉ちゃん?」
少女が、やや苛立った口調で言う。
だがミカエルは軽く笑ったままだ。
「……取り消さないし、謝るつもりも無いわ」
ミカエルは告げた。
その言葉に……
少女の表情が一瞬にして歪む。先ほどまでの余裕すら感じられた笑みが消え、憤怒に満ちた表情に変わる。そのまま鎖の逆方向を掴んで振り上げる。そこにも同じ様な分銅が取り付けられている。あれで殴りつけられれば多分……自分の頭など簡単に砕けるだろう。それでもミカエルの顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
「お姉ちゃん」
小さい声で、少女が言う。
「もしかして、頭がおかしい人なのかなー?」
そのまま少女がぶんっ、と分銅を振り下ろす。
だが……
ミカエルはもう片方の手を伸ばし、その手首を掴む。
「っ!?」
少女が目を見開いた。だけど……その口元にすぐに笑みが浮かんだ。
「それで? どうするつもり? 鎖を押さえても……お姉ちゃんには私を攻撃する手段が……」
だがミカエルは何も言わずに、ぐいっ、と彼女の手を引くと。
そのまま、少女の頭を胸の中に抱え込んだ。
「え……!?」
いきなりのことに、少女は間の抜けた声をあげる。
「……貴方、なかなかに強いのね」
ミカエルは少女に向かって言う。
「……ち ちょっと、いきなり何を……」
少女は驚いた口調で言う。
「その強さ、私と一緒に使わない?」
「はあ!?」
ミカエルの言葉に、少女は素っ頓狂な声をあげた。
「……私の仲間になって、一緒に殺し屋をやって欲しい、そう言っているの」
「……な 何言ってるのよ?」
少女が言う。
「私は、ついさっきまで貴方を……」
「ええそうね」
ミカエルは告げる。
「貴方はさっきまで私を殺そうとしていた。その強さがあれば十分に一緒に『殺し屋』として活動出来る、そう思ったのよ」
その言葉に……
少女は黙り込む。
「お姉ちゃんって……」
少女が言う。
「やっぱり、頭のおかしい人でしょう?」
「……さあ、どうかしらね?」
ふふ、と。
ミカエルは笑う。
「……もし」
少女はミカエルに向かって言う。
「私が退屈だと感じたら?」
「……ええ、その時には是非とも私を殺してくれて構わないわ」
ミカエルはまた笑う。
「その言葉、忘れないでよね」
少女はそう言って、ゆっくりと身体を起こしてミカエルに向かって言う。
そのままの姿勢で、少女はにっこりとミカエルに笑いかけた。
「お姉ちゃん」




