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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百八十三話「ホントに14歳ッスか?」「あっ、もう15歳になりました」


 ───少し時間を遡り、私たちが王城に着いて直ぐのこと。


「お帰りッス〜」

「老けた?」


手入れされずボサボサの髪、目の下にある大きなクマ、病人のように白い肌、おぼつかない足取り───相手が王女であることも忘れて思わずそう言ってしまうくらいには、久しぶりに見るジブリール様は疲弊していた。


「いやー、周辺諸国の様子を探ったり、戦争に備えての準備だったり、諦めムードの大臣たちのケツを蹴飛ばしたり、連日連夜会議に明け暮れ、その間にも溜まっていく書類の山を片付けて。もうやることが多くて中々休めないんスよ」


話を聞いて納得する。


王城に入ってからというもの、普段はゆったり優雅に歩いているはずの貴族や大臣たちが、今は慌ただしく早歩きで移動していたり、頭を抱えてブツブツ言いながら蹲っていたりと、滅多に見ない光景しか見ていなかったからだ。


(他国は知らない内に支配下におかれてに頼れず、軍事力も相手が上。有力貴族や騎士が何人も殺され戦力や士気の低下、そして頼りの新たな『抑止力』であるレンくんが悪魔と契約したカイトに一度負けている……。諦めムードになるのも無理はない、か)


それに、カイトのことだから王国の戦力についておおよその情報はもう帝国に伝えているはず。これを言ったら大臣たちの心を折ってしまいそうだから、ジブリール様にだけ伝えておこう。




「───なるほど、だからカイトさんは帝国に……」


ルコアさんやツムくんの紹介もそこそこにジブリール様の自室で帝国で得たことを全て話した。


「そしてレジスタンスに、連合が秘密裏に生み出した『ウロボロス』に、王国が勝てるのは四割と……はぁぁぁぁ、これ以上アタシの頭に新情報をぶち込まないでほしいッス」


頭を搔き回しながらテーブルに突っ伏すという到底王女がすべきではない言動なのだが、これが彼女の素の顔なので、もうツッコむ気にもならない。


「四割かぁ……間に合うッスかねぇ〜」

「なにか策があるんですか?」

「『サイエス騎士団』と『ガタノゾア騎士団』が共同で帝国に対抗する為の新兵器と作ってるんスよ」


その名を、人造騎兵。二つの騎士団の技術を詰め込んだ、死ぬことのない人型兵器とのこと。


「それ、大丈夫なやつですか?」

「扱い方で面倒なところがでてるッス」


当初は、死んだ直後の人間の魂を肉体から別の肉体へ移すことで永遠に生きることを目的として、『ガタノゾア騎士団』が製作中だった無垢なる魂の器───ホムンクルス。


そのホムンクルスに『サイエス騎士団』が、今いる騎士たちの戦闘能力をコピー、更には自己治癒能力などの戦闘で役立つ力を付与すると同時に、開発中だった新兵器や武具で武装し、戦わせる。


それが人造騎兵の全貌。


「まず、作るのに膨大な魔力と素材が必要。ホムンクルスを作る、能力の付与、武具の開発、そのどれもにもッス。だから保管している鉱石や素材なんかは全部そっちにまわしたッス」


だろうな、と私は思った。


『ガタノゾア騎士団』は魔法や個人の趣味を追求する者たちの集まり。その中で、ホムンクルスを用いて延命し続けようと考える人がいるのは知っていた。そしてホムンクルスを一体作り維持するのにコストがかかり、そう何体も作ることは難しいことも。


(でも、確かに戦力を増やすならこれしかない……)


今から見習い騎士を育成しても戦争にはまず間に合わない。未熟なまま戦場に放ち無駄死にさせるだけだ。冒険者たちを戦力に加えても圧倒的に足りない。それなら直ぐに現役の騎士レベルの戦力を得られる人造騎兵の方が良い。


元より抵抗する他に道はない。滅ぶか、超大赤字か……なんて考えるまでもない。


「あと問題になることはといえば、まあ……人間が命を生み出す領域に手を伸ばしたことッスね」


人と人が結ばれ、子を成すのではなく。材料と魔法を用いて、魂は無くとも、血が通い心臓が鼓動する生きた肉体を作り出す───『命を作る行為』は、本来神のみが行うものであり、人の手でやるのは禁忌とされてきた。


しかし『ガタノゾア騎士団』は自身の目的である研究を未来永劫続けていく為に、その禁忌に手を出した者が何人もいる。元々、この騎士団に所属する魔法使いは性格的に難があるものの、それが生み出すモノはどれも高度なモノばかりで、それを国に供給する代わりに、国もこの騎士団にはある程度は自由にさせていたのだ。


「人造騎兵を用いれば、確実に国民や他国から間違いなく倫理観を問われるッス。もしかしたら、禁忌に手を出したんスから神から罰が下るかもしれない、でもこうでもしないと王国は終わる……もうあとには退けないんスよ」


何事にもマイペースで、王族らしからぬ態度でいながらも公務をこなす彼女の姿はどこにもいない。……ここにいるのは、神からの罰を受けることも想定し、それでも自身が生まれ育った国を守ろうとする───王の顔をしていた。


「……なるほど、だからアイツも下であんなことをしてるわけね」

「ルイズちゃん?」


隣でルイズちゃんが立ち上がり、窓から下を眺める。


「人造騎兵で戦力を増やす、それは結構。こんな状況だもの。私が同じ立場でも、たとえそれが禁忌だろうと、負けないよう、勝てるよう尽くすわね……」


でも、とルイズちゃんは視線を外に向けたまま、苛立たしげにその視線の先をにらみつける。


「王国が滅ぶかもしれないって時に……騎士団と王族が頑張ってるって時に……わたしよりもマシなくせに、守られる立場というものに甘えて───この国の人たちは、いったいなにをしているのかしら……っ」


ギリッと拳を握りしめ、ルイズちゃんは怒りを顕にする。


彼女が見ているのは十中八九()()だろう。……人造騎兵について話す前に、レンくんがやや圧をこめて説明を要求し、ジブリール様から事の詳細は聞いた。その時のルイズちゃんはなにも言わなかったけど、なにも思わなかったわけではないはずだ。


「───ああもう!! ほんっっとに見ててイライラする、わたしがこんな人間なのをアイツは幸運に思うべきね!!」


そう言ってルイズちゃんは部屋を飛び出す。


「あっ、ちょっとルイズ!?」

「ワオン!!」


慌ててレンくんが後を追い、部屋の外で待機していたロルフが飛び上がって二人を追いかけていった。


「ジブリール様、まさかこうなること予想して……?」

「まさか。そこまで人の心を読めるようなら、カイトさんをもっとこの国に縛り付けて、もう少しマシな状況にしてたってたッスよ」


それは、確かに……。


「……しっかし、あの年頃でよくもまあ恨み言一つもなくいられるッスねぇ。聖人か何かッスか?」


すげぇッス、とジブリール様が窓に歩み寄りながら呟く。私も隣へ行きルイズちゃんが見ていたところへ視線を向ける。


「いえ……たぶん、思ってても言わないだけなんでしょう。あとは───」


見下ろせば、雪風が吹き付ける中、地面に打ち付けられた丸太に上裸で縛り付けられて血を流す青年と、石を手に群がる民衆、そこへ鬼の形相で突っ込んでいくルイズちゃんの姿がある。


「今は一つのことに囚われすぎず、優先すべきことに全力を尽くすべきであり、それは感情ではなく理性で決めるもの。そして……自分がそうしてるのに、同じようにそうしない他者を見るのが我慢ならないから、ですかね」


私は確信する。───あの子は将来、とんでもない女傑になると。


この国で、もしかしたら彼女が唯一の、あの『異端』を召喚できる『召喚士』。そして賢い彼女なら『異端』の性質も理解しているはずだ。契約・召喚した存在だろうと親身になれる彼女には少し酷かもしれないが、その使い方を間違えることはないだろう。


「あの小さな女主人には他者を従わせる才がある。感情と理性を手に、自分の現状も武器に、体を張って……。私にはできません」

「そうッスね。なんなら、アタシよりも女王に向いてるかもッス。アタシが許可したからってのもあるけど、躊躇いなく女王(アタシ)に平手打ちする度胸もあるッスから」

「聞きましたよ、その話。レンくんを政治利用して帝国を牽制しようとしたんですよね。ルイズちゃんは主人として、従者であるレンくんを守ろうとした。当然のことです」

「普通は従者が主人を守るものなんスけど……主人としての責任、なんスかね」


まだ子供なのに、精神面は大人にも劣らない。ノブレス・オブリージュを胸に刻んだ貴族の理想系だ。


「今は戦争に備えてそっちを優先させてるッスけど、彼女の……アレイスター家は、必ず再興させるッス。これは王族として、アタシが彼女へできるせめてもののお詫びになれば……」


ジブリール様は少し不安そうにルイズちゃんを見ている。


「たぶんルイズちゃんの性格なら……余計なお世話だ、自分の手で取り戻す、って怒鳴られそうですね」

「アハハ……それは確かに、まあそうなったらなったで、こっそり助力するくらいにしとくッスよ。何もしないわけにはいかないんで」

「それで良いかと」



『───いい加減にしなさい!!』



外から、風雪の音にも負けない、ルイズちゃんの叫びが響き渡る。


「うひゃー、スゴイ声ッスね。それじゃあ改めて、ここから見定めさせてもらッスよ。『抑止力』を従える、小さな女主人がどれほどのものかを、ね……」


私もここは見守ることにした。ここでの結果、そして人々からの評価で、恐らく彼女の───アレイスター家の未来は変わる。


それでも、不思議と不安はなかった。


ルイズちゃんなら大丈夫だという確信があったから。


「頑張って、ルイズちゃん───ちゃんと見てるからね」

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