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終わりと始まり

 魔界の中央に鎮座する、魔界最大の城――魔王城ディスアビス。


 その最奥に位置する魔王の玉座。


 そこで、勇者と魔王最後の戦いが行われ、三日三晩続いたのち……遂に決着がついた。


「見事だ……勇者リディア……」


 銀髪に鋭い赤い眼光。

 黒いマントを羽織り、頭頂部からは二本の角が生えている。


 魔王ディブロス。

 人間界との長きに渡る争いで、魔族の最高権力者として最後まで抵抗を続けた魔族の王。


 その目的は、人間界と魔界の統一。


 余りに長い間続いた争いは、お互いの血が流れ続けていた。


 殺し殺され、その繰り返し。


 生の短い人間にとって、魔族を打倒することは宿願でもあり、そこで死んだとしてもそれに意味を持とうとし、次の世代に託した。しかし、魔族は生が長い。終わりのない長い争いは、ただただ先の見えない暗闇でしかなかった。


 そうしていつしか、魔王は人間界と魔界の統一を望むようになっていた。

 もはや争うことにメリットはない。手を取り合う事こそ、魔族を人間を、更なる次元へと昇華するはずだと。


 ――しかし、その意思が人間に通じる訳もなかった。


 力が強く寿命の長い魔族は人間にとっては自身が死んだ後も残る脅威でしかなく、長い争いの歴史が魔族と手を取り合うことを拒んでいた。


 そしてなにより、魔族の、さらに魔王にも肉薄する勇者という存在は、戦いを続ける希望となっていた。


 勇者と言う存在が人間の頂点に君臨する限り、この争いは終わることは無い。そして、その勇者も死すれば次代の勇者が現れる……そうして積み重なり、幾度となく俺の身体に突き刺さった勇者たちの刃は、数百年の時を重ねとうとうこの俺の喉元を捉え、この状況を作ったと言う訳だ。


 ディブロスは、息も絶え絶えにそう呟くと、地面に片膝を着き、口から血を零す。


「貴様……もな、魔王ディブロス……」


 対するは、人間界最高武力。


 一騎当千の人間の勇者。


 金色の美しい長髪を靡かせ、額に張り付いた前髪の隙間から青い虚ろな眼が光る。


 白いミスリルのフルアーマーは、所々砕け、血で赤く染まっている。


 リディアは、床に突き立てた聖剣だけを頼りに全体重を支えている。


 ほんの少しでも力が加われば、もう立っていることも出来ないだろう。


 二人の激しい戦いにより、魔王城ディスアビスは崩壊を始めていた。


 パラパラと降りそそぐ瓦礫が、それを告げていた。


 地面が揺れ、轟音が響く。


「……貴様らの勝ちだ、人間。魔族の生き残りはもはや殆どいない……」

「…………」

「最後の砦であったこの……ディスアビスも……崩壊を始めている……」


 ディブロスは声を絞りだす。


 依然として魔王と勇者の力量差は、圧倒的に魔王が上であった。

 しかし、人間たちの長年にわたり積み重なった魔族に対する憎悪が、僅かに魔王を上回る好機を逃さなかった。


「遂に果たせなかったか……世界の統一……人間界との統一は……叶わなかった……」

「そんな戯言……誰が信じるか……。そんなことは、私がさせない……!」


 ディブロスはフッと短く息を吐く。


「何度も聞いたな……その言葉。……とうとう、お前は成し遂げたか……俺の討伐を」

「残念ながら相打ちよ……私ももう……ここで終わり……」


 リディアの握っていた聖剣が倒れ、カランと乾いた音が響く。


 それと同時に、リディアは前のめりに床へと倒れこむ。


 既に限界。

 気力だけで立っていたリディアだったが、魔王の死を確信し、緊張の糸が解けた。


 それは魔王も同じだった。

 それでも、魔王のプライドが床に倒れることを許さなかった。


 ボロボロの身体を引きずり、最後の力を振り絞って玉座に浅く腰掛ける。


「ふぅ…………」


 虚ろな瞳で、崩壊する天井を見上げる。


 永遠にも等しい命が、今尽きようとしていた。


 魔王の方が力量は遥か上手……しかし、勇者パーティの連日連夜に及ぶ決死の攻撃は魔王の体力を確実に削り、そしていよいよ、勇者自らの手によって引き分けまでもっていかれた。


 ――だが、魔王ディブロスには最後の秘策があった。


「勇者よ……」

「何よ……もう、話すことはないわ……」

「まあ聞け……」


 ディブロスは、一つの宝玉を取り出す。


「これは、我が一族に伝わる伝説の宝玉……"リープスフィア"」


 その宝玉は、まるでガラス玉のようで、その中には()()が渦巻いていた。


 勇者リディアは視線だけを魔王の方へと動かし、その宝玉を見る。


「それがどうした……魔王。今更私を攻撃したところで……滅びの運命は変わらない……」

「違う……違うぞ、勇者リディア……」


 ディブロスは、リープスフィアを天高く掲げる。


「これは"輪廻"の宝玉……時を超える、神具が一つ……!!」

「なっ……!?」


 リディアに戦慄が走る。


 リディアはその言葉で、直感的に理解した。

 魔王ディブロスが、一体何を企てているかを。


「貴様……()()する気か……!?」

「フフフ……フハハハハハ!!! その通り!! ……悪いが我が宿願、未来に持ち越させてもらう……!!」

「辞めろおお!!」


 しかし、リディアの身体はもう動かない。

 死を待つのみの、風前の灯火。


 叫んだ拍子に、血が噴き出る。


 リディアの必死の叫びが、虚しく木霊する。


「悪いが……俺も、もう限界が近い……」

「ディブロスッッッッ!!!」

「遅い!! 飛ぶぞ…………未来へ!!!」


 刹那、ディブロスは宝玉を握りつぶす。


 玉からあふれ出したどす黒い瘴気が、玉座の間を包み込む。


「ハハハハハハハ!!! 待っていろ人間界!! 俺は何度でも、この魔界に君臨し、世界の統一を成し遂げる……!! 貴様ら人間に何と思われようと、俺は必ず……!」

「うおおおおお!!!」

「フハハハハハハ!!」


 数分後、玉座の間を覆っていた黒い瘴気が晴れる。


 そこに残されていたのは、降り注ぐ瓦礫の中、尚も威光を放つ空の玉座だけだった。

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